第27話

 知りたいと思っていた魔力圧縮に関する話を聞けたのは夏も終わりのころだった。

 私があると思っていた圧縮方法は、実は圧縮ではなくて『魔力蓄積』だったのだ。


 道理で「魔力圧縮方法知りませんか?」と聞いても知らないと返ってきたわけだ……。


 前世で見たのだ。カードゲームにあった魔力圧縮は「自分の消費MPが半減する」というものだった。前世のカードの知識が邪魔をして、魔力蓄積方法を知るのに、一年近くもかかってしまった……。

 

 そして、その魔力蓄積方法なのだが、魔導具が必要だった……。

 お値段銀貨七枚以上!

 小銀貨二枚をもらって浮かれていた自分が可愛そうになるね。

 七歳が持つ金額としては多いと思うのだけど。


 日本円だと小銀貨二枚は約二万円だから。

 銀貨七枚以上するものを買ってくださいとお願いするべきか否か……。日本円だと七十万以上のものを子供が欲しがるって無謀だろうか? ……はい、すみません。


 とりあえず、中古は幾らか調べたら、銀貨二枚くらいからあるらしい。それでも銀貨クラス。

 なんでも、無属性の魔石に魔法陣を施したもので、その魔石から元の魔力をほとんど抜いた状態にしてあり、そこに自分の魔力を貯めることができるらしい。

 魔力が必要な時に、それを使えるというアイテムなのだ。


 それを魔力蓄積に使うときには、一度魔石に貯めた魔力を、体内の魔力が十分に戻っている状態で、再度体内にぐっと戻すのだ。自分の魔力だから、いっぱいの状態でも入る。

 その状態に体が慣れることで、魔力蓄積量を増やす感覚を掴むことができるようになるらしい。……これ蓄積というより、圧縮に近い気がするんだけど?? ま、いいや。


 母にそれとなく尋ねてみる。


「魔力を蓄積できる魔導具が欲しいかなぁ、なんて」

「魔導具? 魔導具は高いのよ~」


 はい、知ってます。


「ね、私の装備って魔導具みたいなものだよね? あれ買ってくれたのでしょう?」

「あぁ、あの装備はほとんどお屋敷からのものだからね。中古の靴だけ小銀貨一枚だったから買ったのよ。子供の物だったからか、状態も良かったの」


 平民には手が出ないものだったらしい。

 靴は、貴族の子女、それも女の子向けの飾り付きでサイズも小さい。俊足まで付いているのは特注品だったのかもしれないが、私のように採集に行くときにも使うのでなければ、数回履いただけでサイズが合わなくなっただろう。私も今年でサイズは合わなくなるとは思うけど、かなり履きつぶした。


 俊足に合わせた筋力の使い方を体が覚えてくれたおかげで、靴がなくても俊足に近い動きはできるようになったから、実はすごいアイテムだと思うのだけど。


 最初のうちは仲間たちに不評だった。主に私のせいで。

 俊足で魔物に近づき、斬ろうと振りかざす目の前には何もいなくて、「あり? あり?」とキョロキョロしてしまい、後ろの「サッ」という剣を振る音に振り向くと、消えゆく魔物と幼馴染ルカの呆れた顔。


「あははは……もしかしなくても、魔物を飛び越えてた?」

「自分で蹴り倒して行ったのも気づいてなかったのかよ」

「えへへ。魔物というだけで緊張してるから、そこまで気づかないよ」

「気づけっ! どんだけ鈍いんだよ。何があり? っだ」


 すみません……。あ、思い出しで頭を下げてしまった。これじゃ挙動不審だよ。

 さて、父親に頼むか……。




 そう思っていたのだけど、遅くなったと父から届いた誕生日の贈り物が、まさかのその魔導具だった!


「きゃーーー!!! これって魔力蓄積の魔導具よね?!!!」


 思わず叫んだ私は悪くない。一目で分かった。魔力がほとんど感じられない魔石のペンダント。

 ペンダント型の魔導具だった。

 手紙に説明が書いてあった。調べた通り、使い方は知っている方法でいいらしい。


 なんてタイミングの良さ!

 しかし、魔石が小ぶりとはいえ、綺麗だ。少なくともネックレス部分は新品。こんなに高いものをもらっていいのだろうか? それとも、私が値段を知らなかっただけで、今までの贈り物はこんなに高いものばかりだったのだろうか……。貴族っていいな。


 折角、願ったものが手に入ったのだ。早速魔力を流し魔石に自分の魔力を込める。

 全力で入れたが、自分の魔力量があまりないのか、魔石にはまだ余裕があるようだった。

 魔力が回復してから、そのペンダントを裏返し、体内に戻してみる。

 ぐぐぐっと流れてくる魔力。自分の魔力だからか気持ち悪くなることもない。膨らむ魔力量をはっきり感じた。


 密度の圧縮をしている時とはまた違う感覚に、魔力量が上がることを実感して思わず笑みがこぼれる。

 これで、ルカたちと学園に行く道が近づいた!

 私はボッチじゃない~♪

 

 リタや仲間にもペンダントを一日置きに貸し出した。

 ま、目の前にいいものがあって、それを借りれるなら、借りるよね。

 パーティ仲間が強くなるのは、私としても願ったりだし、実際「見習いとは思えない」と言われるようになるほど、私たちのパーティは強くなっている。私はあまり参加してないのだけどな……。


 ただ、私がいるとなぜか魔物と遭遇する機会が多いんだとか。ダンジョンでも三層までしかいかないのに、四層、五層の魔物と遭遇するのは私がいる時だけらしい。

 魔物に好かれる特殊スキルなんて持ってないですよ! きっと……た、たぶん……。


 魔力量が増えれば、それだけ魔法の練習時間を延ばせるし、実践でも中級魔法が使えて役に立つ。

 元から中級魔法がある程度使えていたクレトはもちろん、私もほどんどの中級魔法をマスターし、ルカたちもそれに続いている。

 リタも冬の間すら寝込むことがなくなってから、夜寝る前の魔力を出し切る魔力の底上げ方法を実践していたし、器用だからか、すでに風の中級魔法を使えるようになった。

 


 マルガリータのお茶会にはその後も呼ばれている。レイピアの手合わせも含めてだけど。兄のベルナルドが絡まなければ、普通、いや、少しお転婆くらいだし、おいしいお菓子をいつもお土産にくれるので、呼ばれたら断れないほんのちょびっと残念な私がいる……。


 驚いたのは、領主の子供たちも魔力蓄積の魔導具は持っていなかったことだ。

 もちろん、親や兄弟は持っていたりするので、たまに貸してもらい、魔力蓄積の訓練をしているらしい。貴族が魔力量、多いわけだよね……。

 学舎とかで購入して貸し出ししてくれたら、平民の魔力量が底上げできるのに、と思ってしまう。



 レイバ伯爵の息子、ランバートともたまに会うのだが、夏の間に南の島の虫対策がとてもうまくいったと、喜ばれた。特に蚊が激減して、死者も病気も減ったのだとか。

 レイバ伯爵から表彰してくれると言われたが、もちろん辞退した。ババさまからの知識だと言って。ランバートは一瞬怪訝な表情をした気がしたが、すぐに笑顔に戻り


「王都の評判のお菓子を取り寄せたんだよ? 欲しくないのかい?」

「食べます! 表彰ってお菓子ですか!?」

「あははは。 違うけどね、これは僕から父上に頼んでおいたんだよ。もらってくれないと、無駄になるね」

「ランバートさま、素敵すぎます! 全てがイケメンすぎ! 歩く神ですね! イケボ~」


 目を瞬いた後、苦笑された。右足が一歩下がってますが……。

 あぅ、思わず素が出てもうた。でも、お菓子がおいしすぎて、神以上だと思ったのは心の中だけです。



 ランバートが自分の領地であるレイバダンジョンに、私たちと潜ってみたいとかで、ご一緒することになった。

 二歳上なので、学園に入ってしまうと休みの期間しか戻って来れないというのも理由らしいけど、なぜに私たちとご一緒? 私たちと一緒だと三層までしか行けないけど、と思ったけど、冒険者たちの戦い方とか見たいのかな?


 ルカたち含む総勢七名で出かけたダンジョンでは、二層から廻った。

 衣装からして準騎士に通じるようなパリッとしたランバートのお召し物と、冒険者の息子たちの中古混じる装備では差がつくのはしょうがないけど、立ち姿や剣の振り方、表情と言ったものすべてがイケメンすぎると言ったらいいのか、洗練されていて、それを感じたのはルカたちも同じだったらしい。

 冒険者が魔物に対峙する姿って、土臭いというか男っぽさはあっても、垢ぬけた感じはしない。


 ランバートの後ろでルカと話す。


「学園で皆あんな感じだとしたら、その中で俺たち浮かないか?」

「俺たちって、私も?」

「当たり前だろ? シャイン、俺と同じ親父ひとに剣を習ったのを忘れたのか!?」 

「……そうでした」


 このままではやばい。どこが違うのか、研究しようとなった。後をついて回るようにしてぎょうしてたのだけど


――うん、わがんね。


 ルカも同じらしく、表情に力がない。


「とりあえず、真似をするところから始めるか」


 了解です。こくこくと頷く。


 ランバートが動くと「ヒラリ」って感じなのだ。効果音が「ドスン」とかでは決してない。

 魔物を倒した後も、私たちがたまにするような喜び猿の真似踊りなんて絶対にしないし。……これはさすがにランバートの前ではできないなとはもちろん思っているけど、やってみると楽しいのだ。だが――


――お前を封印する! 終われ! 猿真似狂喜乱舞踊り!……あ、ルカになってしまった


 「ルカ、猿真似は封印したからもう大丈夫だよ」って言ったら「山猿はお前だけだろ」と返された。解せん。


 姿勢の良さが大事なのだけは貴族として気を付けている部分ではあるので、それはルカにも話をしておいた。

 その後に言った言葉が酷かった。


「本物の貴族は違うな」


――私も本物だよ? 偽物貴族じゃないよ!?

 

 私たちと一緒にできたことを喜んでくれたランバートに時間がある時の剣の手合わせをお願いしたら、休みの日で是非にと言われた。

 これから二年間で、ランバートのようにかっこよくなるんだぁ、とニコニコしていたらマリオから言われた。


「ニヤニヤしてるの気持ち悪いからやめろ」

「え? 今からランバートさまのようにかっこよくなるんだよ?」

「お前、女だろ? 目指す方向違くね?」


 あ、そうでした。ランバートを目指したらダメかも! 一人頭を抱えた。

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