第24話
私はもちろん、レイピアの手合わせは辞退した。
ワンピース風とはいえ、ドレスできたのだ。そのままでいいと言われたが、何も付けずに戦えと言うのだろうか。
練習用のレイピアだから、大した傷は負わなくても痛いし。
「シャインさま、私の以前使っていた防具類もありますわ」
「今日は見学だけさせていただきたいと思います」
笑顔ではっきり言う。ノーを言える子なのだ。
「次、レイピアで遊べばいいだろう。今日はお茶会の招待をしたんだし、マルガリータ、君の雄姿をシャインに見せる機会だと思えばいい」
ここでもランバートの救いが入る。
甲冑でも付けてたらどうしようと思ったが、そういうこともなく、ホッとした。
子供同士の手合わせだものね。
――隣のスペースでは領主の騎士たちと思われる大人たちが剣やレイピアの練習をしている。
こちらに気づいた騎士たちが礼をするので、私も礼をとったが、領主の子供たちにしたのだろうと後で気づいた。ま、挨拶して悪いことはない、と思いたい……。
先にベルナルドとランバートが手合わせをするようだ。
軽く柔軟体操をするように体を動かしている。
シャツだけになり、上に防具を着る。練習用のレイピアで突くとその突かれた部分が変色して勝敗がわかる。防具の部分だけを狙う。
「マスクはつけないのね」
「そこまで真剣勝負じゃないもの」
マルガリータが答えてくれる。
二人が礼をして構えをとる。ピンと伸ばした背筋から伸びる右腕にはレイピア。左腕は背中に添えたその姿だけでも、貴族然として素直にかっこいいと思う。
本当の喧嘩なんて、泥臭いものだけど、こうした貴族の手合わせは見る者も楽しめるようになっているんだろうなと思う。
ステップを踏みながら、ダンッと右足を大きく前にだして豪快に踏み込むベルナルドを余裕でかわすランバードを見ながら、速さや斬り込みはサーブルみたいだけど、有効面はフルーレだなとぼんやり思う。
前世のフェンシングに似ているんだと気づく。駆け引きのエピ、斬るのもポイントになるサーブル、日本で主流だったフルーレの三種があったと。
隣の騎士たちの、エピとサーブルを合わせたような素早く、繰り出されるレイピアの動きは早すぎて、今の私では目で追えないぐらいだ。もう少し動体視力を上げないと……。動体視力も筋力だから、魔力で上げれるかな……。
そんなことをぼんやり思っている間に二人の勝負はついていた。終わった後に握手をしているのも、フェンシングの競技に似ているなぁと思う。
「次は私とお願いしますわ、ランバートさま」
「お手柔らかにね」
笑顔で答えるランバートは激しい攻防戦を今しがたまで行っていたとは思えない程涼し気だ。返答も彼女を立てていて、どこまでも紳士だな。
ランバートは早いスピードで繰り出すベルナルドのレイピアを余裕でかわし
マルガリータのスピードでは敵わないと思うのだが、強い相手に挑むのが楽しいのか、マルガリータの表情は明るい。……すでに押されているのだけど、その目は爛々と輝いている。
ますますレイピアの手合わせをしたくなくなったよ……。例え、私が勝ってもまた挑まれるのが目に見えるようだ。「そこまで真剣勝負じゃないもの」と聞いた気がしたが、あれは幻だったのでしょうか……。
勝敗は決まっているからなのか、マルガリータの息が上がったところで、二人はレイピアを降ろし、握手をした。
拍手をして二人を迎える。執事たちが汗を拭くためのリネン布や水を準備してくれていたから、それらを手渡す。
息が上がっているマルガリータと違い、ランバートは笑顔で受け取り、話しかけてくる。
「見学だけじゃ物足りなくないかい?」
「いえ、皆さんの雄姿を見れただけで十分楽しめましたわ」
雄姿というより、猛姿と言いたいが……。
「マルガリータがシャインのレイピアはすごいと言っていたから、楽しみにしてたんだよ」
「あまりレイピアは得意じゃないのです。普段は剣を使っていますから」
「サーベルか。いいね」
――いえ、木剣です。ただの。
「ランバートさまのスピードにはとても敵わないと思います。騎士たちと手合わせは?」
「さすがに彼らの足元にも及ばないから、相手にされないよ。たまに稽古をつけてくれることもあるけどね」
騎士たちにとっては今の時間は稽古とはいえ、勤務時間にもなるのだろう。
「子供の相手をしていたら、上官の目が気になるのかもしれませんしね」
「入って間もない騎士や見習いばかりだと気づいた?」
「え?」
何それ。気づいてませんでしたよ、きっぱり。……いえ、威張ることじゃないけど。
「今の時期は寒いだろう? だから昼間外の仕事を上の者がするんだ。夜勤など寒い時間帯はもちろんだけど、朝や夕方の時間帯すら最初のうちは振られるんだよ」
「えっと、つまり暑かったり寒かったりする時間帯の外回りのお仕事は下っ端がする?」
最初のうちは、それすら訓練となるのだろうか……
「そうだね。上官になると会議や書類仕事が主になるし、装備自体に体温調節まであるから気にしないだろうけど」
「あら? 騎士たちの服は体温を一定に保つ機能はついてないのですか?」
「色んな魔法陣が描かれた服は高いからね。体温調節まではついてないよ。戦いの上でダメージを負わない方を優先して魔術も使われるから。自分で買う者もいるけど、騎士になるのは三男以降が多いし平民もいるからね」
うわぁ。私の装備はやはり過保護すぎたらしい。
仕事をする騎士たちでさえ、そうそう沢山の魔法陣を使ったものは着れないようだ。
あれ? でも、一つの装備に色んな機能を付けようとするから魔法陣が複雑になるのであって、下着につければいいのでは?
「下着に魔法陣を付けたらだめですか?」
「下着に? 耐久性がどうだか分からないけど……」
「量産したら安くなる方法があればいいですね」
量産の言葉に目を瞬くランバート。
ありゃ、そのまま考え込んでしまいましたよ。
――私はこの時の発言が、後々また自分に降りかかってくるとは思いもしなかった。
一息ついたマルガリータからは次の手合わせを約束させられてしまったけど、お土産に沢山のマカロンをもらったから良しとしよう。私は気分よく領主の館を後にしたのだった。
……あれ? ノーと言える子はどこ行った??
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