第69話

 体育祭当日。

 春も半ば。少し日差しが眩しいけれど、晴天の下、気持ちいい風が吹いている。


「ルカ、目立つことより点数取りに行くのよ」

「当たり前だろ? シャイン、おまえの頭の中ってほんと解読不能だよな」


 えー、先日また中二病的な召喚術を考えていたのを見たんだけどな。

 黒飛猫フライ・キャットの影武者たちの召喚だか、分身術だかしようとしていたんだ。

 分身して、目立つこと以外に何をしたいんだろう。


「ルカ、もしさ召喚獣を分身させれるとしたら、どうする?」

「俺なら十キロコースの途中、途中に配置して、乗り換えて優勝を狙うな!」


 満面の笑みで答えるルカ。

 ふぅーん、そんなこと考えていたんだね。

 それはずるって言うんだと思うけどねぇ。


『シャイン、分身が必要? できる』

「え?」

「うん?」

「あ、何でもない」


 急にニーズから言われたことに驚いて声が出ていた。

 私はルカから少し離れて、隣のニーズに念話する。


『ニーズ、分身の術を使えるの?』

『使える。今、する?』 

『しなくていいよ! しちゃだめよ? それでなくてもニーズは速すぎるんだし、する必要ないからね』

『分かった』


 ニーズはグルグルと喉をならすのだけど、これって猫だけじゃなく、龍もできるんだね。ちょっと違う感じだけど。ニーズが特別なのかな。ま、ニーズだから可愛いとは思うけど……。

 分身の術が使えるなんて神話にもなかったよねぇ?

 この子の能力なのかな。


「ニーズ、今日は競走するけど、空だから、自由に気持ちよく一緒に飛ぼうね」

『一番、狙わない?』

「ニーズが一番がいいなら速く飛べばいいよ。今日のは騎士にとっての採点だから、私には本当は必要ないの。かえって、騎士としてスカウトを受けたい人の邪魔になっても嫌だしね」

『……よく分からない』

「ん、大丈夫。ニーズがしたいように飛べばいいってこと」

『分かった』


 ニーズは他の飛猫たちと飛ぶときは、飛猫たちを誘導してくれているようなのだ。

 ニャンコ先生ことニィナ先生が「八組の召喚獣はまとまりがあるのよね~」と言っていたのだけど、騎士コースの先生も「まだ一年目なのにこの召喚獣たちは統率がとれてるな。優秀なのか、グループだと力を発揮する召喚獣なのだろうか」と呟いていた。

 もしかして、ルカの黒飛猫のお陰かなと思ったけれど、その黒こそが一番のヤンチャだから違うとすぐに思ったのだ。


 ニャンコ先生の白が「にゃぁ~ん」とのんびり鳴くだけでほとんどの飛猫はついて行く。ルカの黒飛猫は勝手に遊んでいるけど……。

 まだ幼いから遊ぶことが訓練に繋がるからそれでいいらしいのだが、さすがに騎乗しているルカは毎回焦っている。それで、分身を考えたのかもしれないけど、あの状態の黒が増えるならかえって忙しくなるだけ、もっと焦ることにしかならないと思うんだ。


 ニーズは自分で考えて行動することもあるけど、基本私の指示に従ってくれる。これは念話できるのが大きいのだと思う。

 フェンもたぶん同じ。ただ、フェンを分類するとすれば狼とか犬系だからなのか、性格なのか、飛猫たちとは一線を置いてる感じがする。クレトと似ているかも。あまり話に自分から入ろうとはしない。人気はどちらもあるんだけどね。

 犬が構ってほしくて、猫パンチくらう姿の一般動物の猫と犬の関係の逆かも。フェンのほうが、ふらっとどっかに行ってしまう。


   

 ルカとクレトは飛行は五キロ。走行は一キロに出る。

 私は飛行十キロコース。ニーズは飛ぶのが好きだし、十キロも数分で終わるから。

 女騎士を目指す一部の女子以外は女生徒は応援する側。私は午前中応援席で彼らを応援する。

 チアリーダーぽいポンポンを持って応援する上級生もいる。

 私なら跳んだり、回転したりするチアリーディングをしたいけど、チアダンスしかない。チアリーディングできるような女生徒は出場してるからね。


 

 召喚獣との走行から始まった競技。

 フェンは余裕で一位かと思っていたら、飛馬フライ・グラニに負けた。力抜いたんじゃないだろうか……。それでも、飛猫たちを引き離しての二位。飛馬早いんだね。さすが王族が召喚するだけあるわ。二キロコースに出たらいいのにとは思うけど。


「来年、二キロコースに出ても優勝しそうですわね」

「飛馬ですもの、当たり前ですわ」


 隣の女生徒の話から、一年目は一キロコースだけなのかもと知る。

 二キロコースは二年、三年生なのかな。

 ルカは……最下位。うん、ゴールしただけでルカが頑張ったのは分かったよ。「ぷしゃぁ」って怒ったように鳴いてるのを見ると、走りたくなかったらしいから。

 まだ、後五年間あるしね。


 二キロコースには、マルガリータ、ベルナルド、ランバートの姿があり、応援に力が入った。二キロコースは予選通過組だけの本選のみ。

 マルガリータは紅一点。黒飛猫に騎乗する姿は優雅だ。ドレスじゃなくて良かった。マント着用だけが義務化されているから、下の服装は自由だけど、体操着が普通だからね。

 飛猫たちだけでなく、飛馬もいるし、フェンリルもいる。


 スタート合図の旗が生徒たちの横、正面で上がった。

 スタートダッシュが早かったのはフェンリル。その次が飛猫、飛馬と続いたけど、途中で飛馬がどんどん追い越した。歓声が響く中折り返して到着したのは、一位が飛馬。王族強し。公爵家かな。でも、騎士コースに進まないのだから、出なくてもよかろうと少しだけ思った。

 次がフェンリル、そして三位がマルガリータの黒飛猫。他にも黒はいたけど、マルガリータが堂々の三位。

 さすが、闘争心の強い一人と一匹の組み合わせだ。


「飛馬出なくてもいいような気がするけど」

「シャイン、前等部のうちだけは飛馬も参加するらしいよ」

「おょ。じゃぁ、後等部では出ないの?」

「そうらしいよ」


 呟いた声に答えてくれたリタ。前等部だけ出るのが強制なのかどうかも知りたいところだけど。



 次の競技は個人の剣術。

 召喚獣を休ませる時間が必要だから。

 私はもちろん、出ない。個人戦だもの。

 それに最近は弓矢の練習に力を入れていて、剣術が少しおろそかになってもいる。

 先生からはせっかく騎士コースをとっているのだから、出たらいいとは言われたのだけど、ニーズのために取っているようなものだし、私は騎士コースに進まないから辞退した。

 クレトはまだ騎士コースに進むのか決めてないらしいけど、騎士コースに進んだときのために、剣術にも出る。

 こういうのは、騎士なら結果が悪くても出たと言うのが評価につながるらしいから妥当でしょう。

 一年目だけは一年生だけで戦う。その結果――


 一位はルカ。二位がクレト。

 八組の喜びようときたら。座布団があったら宙を舞っていただろう。貴族の子女たちが飛び上がって喜んでいたもの。

 騎士コースを選ぶ者たちが上位をしめるのは当たり前なんだろうけど、二人が上位入賞で嬉しい。

 来年は一つ上とも戦うから、マルガリータと当たるかもしれないなと、マルガリータが爛々と輝く目を見開き喜びの声をあげているのを見て、我おもふ……。

 マルガリータの剣術は――


 十位入賞していた。黒飛猫だけの力じゃない、彼女自身が努力しているってこと。騎士コースに進むのかは知らないけど。



 準決勝でベルナルドとランバートが当たり、領地の皆はハラハラしながら応援した。

 ベルナルドが突っ込み、それを払う形で試合が始まる。

 一年生の対戦では正面から踏み込み、自分から剣に串刺し状態になりに行った生徒がいたけど、この二人だとそういうことにはならない。刃先を潰してあるから、串刺しにはならなかったけど、本物の槍だったら怖いことが起こりかねなかったよ。

 途中の動きは動体視力を魔力で上げないと目が追いつかない程早かった。


「見えませんわっ」

「早すぎです。でも、恰好いいですわね~」

「わたくし、ランバートさまのファンですの。ランバートさまー、がんばってー」


 女生徒たちの黄色い声援が飛び交う。

 王族、領主、高位貴族の生徒が出場していると女生徒の応援具合が違うようだ。

 最後、マントに剣を巻き込んで動きを封じたランバートが握る剣の切っ先でベルナルドの首を捕らえて決着がついた。

 魔法のマントだからこその使用方法。

 レイピアなら普通のマントでも絡めたり、被せたり、打ち払ったりといった使い方ができるけど、剣に使おうとは思わないだろう。魔法マントは高価だし、それを使ってしまうランバートの機転がすごいと思った試合だった。


 おまけに、恰好いい。どうしても真剣勝負になると剣での戦いは組み伏せて終わることが多いけど、剣技らしい終わりかたで、女生徒の歓声も理解できる。

 ベルナルドは悔しそうだったけど、決勝戦を見て分かった。ランバートが楽勝していたから、実力ならベルナルドが二位だろう。


 聞いていた通り、うちの領地の生徒は優秀らしいと、こういう全体の試合を見ると実力が分かる。あくまでも騎士コースメインの体育祭ではあるし、領主の子供たちが率先していることに領地の子供たちが巻き込まれる場合もあるけど。とマルガリータを見て思う。

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