第45話

「シャイン、学園に入る準備は順調かい?」

「うん、昨日も制服一式受け取ったし、学園用カードのために銀行で申請をしたよ」


 祖母たちともうすぐしたら、離れて暮らすのかと少ししんみりとなりそうになるが、やることが多い。

 学園の銀行カードは、各領地の銀行と提携しているもので、学園内ならチェックカードのように使え、各領地へも地下鉄が年に六回までは無料になるというものだ。もちろん、お金の引き出しもできるから、王都での買い物も困らない。

 地下鉄の値段は前世で言うと飛行機代並み。速さも飛行機並みかもしれないが。


 最近は学園に入る準備に忙しい。

 制服のサイズは、領主を通して伝え受け取ったのは四人分。

 実は、かなりポーション代や冒険者ギルドでの貯金が増えていたので、ルカたちには言わず四人分注文したのだ。ルカとクレトは一着ずつ。

 リタと私の分は二着ずつ。


 制服はブレザースタイル。男子はネクタイ。女子はリボン。

 リボンは結べるけど、タイをフォア・イン・ハンド・ノットにはできないから良かった。

 ルカが「難しいぃー!」って言ってたもの。

 女子のスカートは膝上。貴族だけど、制服は別物らしい。

 貴族でも子供なら、ドレスもひざ下でも大丈夫だ。


 下にかぼちゃパンツを穿かないといけないから、丈をすごく短くする人もいないけど。

 長めのかぼちゃパンツが見えるほうが恥ずかしいもんね。

 でも、このかぼちゃパンツのお陰で、スカートの途中からプリーツに切り替えられている部分がふんわりと自然に広がり、可愛く見える効果がある。プリーツの幅も関係するのかな。



 兄からお下がりをもらい、すでにリタに渡してあるからルカたちに合わせて微調整してくれているはずだ。

 この新しい制服は試験時のサイズで作ったので、彼らは私が注文したことを知らない。


 リタだけには準備するとは言ってあったが、まさか新品とは思ってなかったようだ。

 リタは早くから家族と共に準備したから、制服くらい揃えられるとは思ったのだが、ルカたちにだけあげるのも忍びなく、結局私が勝手に注文してしまった。

 もちろん、ただじゃない。

 彼女にはこの新品の制服をさらに体型に合うように微調整してもらうんだから、その手間賃だ。

 【裁縫】スキル持ちの彼女の手にかかると、ミシンで縫うよりもさらに素敵な出来栄えになる。あたたか味まで感じると言ったらいいのか、優しい出来具合になるのだ。それでいて、きっちりと等間隔の縫い目は立派としか言いようがない。

 もちろん、裏の部分はささっとミシンで終わらせる。


 制服はサイズに合わせているが、仮縫いのない半オーダーだから、ぴったりと自分に合うように、後ろも姿見で確認して自分にあう形に分からない程度に変えてしまう。

 学校の規則? 知らない。

 ただ、貴族なだけあってか、マントに宝石のボタンを付けたり、制服からレースの袖などが見えてるのを目撃したことがあるから、少しのタックや丈などの調整などは目に余ることはないはずだ。

 そっちよりも、魔術を施しているほうが本来なら目立つのだろうけど、字は透明になるようにしてあるし、魔導具を持ち歩いていない貴族なんていないから、大丈夫だろう。

 ジュエリー並みの魔石をジャラジャラさせている学生も見たし、髪型など規則は聞かない。

 


 王都で学園の制服及びマントを作る工場を調べてそこに卸している布を扱う商店で魔法マントコートと同じ生地を買っておいた。

 小さなボタンとかは似た物しか揃えることはできなかったが表側ではないので、大丈夫だろう。

 生地を購入したのは、そこに既存の魔法マントと同じ魔術が発現できるように私が描くため。

 兄のお下がりを見ると、裏布付きで、身ごろはフードまで入れて四枚に分かれていた。魔術もその八枚と裏ポケットまで入れた枚数で十分に対応できそうだと思ったためだ。

 生地代だけなら、そこまで高くない。大銅貨で済むレベル。でも、魔法マントを買うと銀貨が必要になる。二桁違うから、さすがに生地を購入したのだ。



 既存マントの型紙は前もって準備してある。

 既存のマントに描かれている魔法陣は【打撃緩和】、【毒消し】、【体力温存】、【体温調節】がメインで【防水・耐久性】、【汚染防止】が付いていた。


 生地の数が余るね……。

 私はそこに【攻撃反射】、【物理攻撃緩和】も付けてみたが魔石なしでも発動できることが分かった。

 生地のお陰かな? 生地自体が特殊な魔物の糸を一部縫い込んで織られたものらしいから。

 ポケット分には【発汗ドライ機能】などを付けた。

 実は全員分の制服にも描いた。

 上衣には【攻撃反射】、下衣には【物理攻撃緩和】、シャツには【毒消】という具合。

 これは初めてではない。こっそりと実験と称して兄の制服に以前施した。

 

 マントコートはとりあえず、リタの分さえあればいい。

 兄は二枚持っていたから。

 後等部になると、フロックコートかケープバック付きのマントになるそうだ。

 「知らなかった」と言ったら「新しく決まった」そうで、騎士コースは準騎士のマントに似たデザインになっているらしい。

 フロックコートにウエストコートの組み合わせは紳士らしくて素敵だけど、魔法学園ぽくないと言ったら魔法マントは別に着用してもいいらしい。

 フロックコートの上にさらにひるがえるマント。夏は見るほうが暑くるしいけど、冬なら恰好いいかも。

 前等部のゆったりとしたフードを持つマントのほうが、魔法使いらしいとは思うけど。

 

 マントを一枚、ばらしてしまったから、ついでに魔術を追加した。

 これはルカにあげよう。クレトは魔力も多いし、騎士コースを選ぶルカに【攻撃反射】、【物理攻撃緩和】は必要だと思うから。


 私はマントまで裁縫を押し付けて、申し訳ない気持ちもあったから、一緒に少しだけ手伝うことにした。


「リタ、マントまで大変でしょう。大丈夫?」

「マントは私の分でしょう? 奨学金もらえなかったから、その分頑張ると思ったらいいよ」

「リタも私と同じだったね。微調整は大変じゃない?」

「それより、もらっていいの? 新しいのをもらえるとは思ってなくて」

「いっぱいお金入ったし、これらの微調整の手間賃だよ。微調整なんてしなくてもいいのに、私がお願いしているんだから」

「それを着るのは私たちもだけど……正直嬉しい。ありがと、シャイン」

「その笑顔ですでに貰いすぎた」


 私たちは顔を見合わせて笑いながら、針をすすめる。

 裁縫は下手っぴだけど、裏側ならなんとかなる。

 あ、引き攣れてた……。裁縫の練習だと思って、最初から頑張ろう。

 隣のリタはすごい速さで縫いながらタブレットの講義まで聞いてるけど……。

 うん、自分と人を比べちゃだめだよね。

 私は凹みそうになる自分を励まして一つ縫い上げる。一つとは二十センチのカーブしてる裏布袖部分一か所だけ。


「縫い上げた~」

「おめで……シャイン、自分の服と一緒に縫ってるよ」

「はぐわっ! ぐぬぬ。せっかく縫ったと思ったのにー!」

「後半だから、前半は大丈夫だよ。動かないでね」


 そう言うと、服と縫物を切り離し、始末してくれた。

 見事な速さで。

 これは適材適所ということでお願いしよう。

 私は丸投げしたが、リタは気持ちよく引き受けてくれた。持つべきものは天使リタ。


 丸投げして家に戻った後は、母たちの秋冬の服に小細工ならぬ魔術のヲシテ文字を描いた。

 冬休みまで寄宿舎にいることになるだろうから、温かく過ごしてもらうために。


 できあがった制服をルカとクレトに見せて試着してもらった。

 よく似合っていて、貴族にも負けてないと思う。

 リタは言うまでもなく、まじ可愛い。ミス学園なんてのがあったら、絶対一位だよ!

 若干身内びいきな自分を自覚しつつ褒める。


「リタが一番可愛いのは間違いないとして、ルカたちもなかなかだと思うのはやはり親心だよねぇ」

「シャインが親とかやめろ。料理も裁縫もろくにできない親を持つと平民は大変なんだよ」

「どう考えても反対だろ」


 ルカ、実感がこもっているのはなぜ?

 そしてクレト、何が反対なのかな? 首をひねる私にリタが言う。


「シャインもよく似合っているよ」

「ありがとうー! リタだけだよ~」


 やっぱりリタは言う事も可愛い。うちの子が一番だ。 


「ルカたちは新しい試供品の下着は要らないと見えるが」

「いるいる! シャインも似合ってるぞ。しゃべらず大人しくしてれば貴族に見える」

「そのままですでに貴族だよ?」 

 

 私はむぅとなりながらも、彼らに着替え分の下着も渡した。 


 ポーションの準備とかしていたらあっという間に暑い時は過ぎて、涼しい秋風の到来と共に、とうとう魔法学園に入学する日が目前に迫っていたのだった。

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