第85話
他に戦っているパーティがいないか見るために、もう少し上空に行かなきゃ。
「ニーズ少し上空へお願い。他に戦っているパーティがいないか見たい」
『シャイン、魔物出る穴ある』
「ニーズ、お手柄! 穴を塞ごう!」
ニーズが魔物が出てくる穴を見つけて教えてくれる。
ニーズは近づいたかと思うと、今まさに出てこようとしていた魔物に火を吐いた。
ごぉぉおおおおおという音をたてて火が放たれる。
魔物は即死したのか、焼け落ちることなく消滅した。割と大きい魔物に見えたけど、ニーズの火力半端ない気がするよ……。
私は穴を塞ぐためにニーズから降りた。
『魔物いる。行ってくる』
そうニーズが言うのを聞きながら「了解。気を付けて」と返事だけして、私は城壁を出すために集中する。
ニーズは魔物に対峙するときには必ず声をかけるそうだが、それに応じる魔物にはまだあったことはないようだ。
ダンジョン内でも騎士たちが活躍してくれているはずだ。それでもまだまだ魔物が出てきているから、ダンジョンの中に入るほうがいいのかもしれないが、とりあえず、穴を塞いで後で隊長に指示を仰ぐことにする。
「光が地と交わるとき 出でよ! 【
ごごぉおおっ!と城壁が出現して、五メートル以上はある高さの横穴を塞いだ。最初の魔物が五メートルを超えていたのか、たまたまかは分からないけれど、かなり大きい穴だ。
ニーズの活躍で、群れないボッチでいた魔物や、穴の場所に来る直前に目にした大型の魔物たちも討伐できたようだ。あんな大型の魔物を冒険者たちに向かわせるのは怖すぎる。火に弱い魔物で助かった。名前も知らない魔物だけど、大型昆虫系の魔物たちも穴がある場所までダンジョン内でも上がってきているということなのだろう。
他にいないか見渡すように少し上空で旋廻しているニーズ。うちの子が優秀すぎる。
私は俊足で隊長の方へ駆けて行くと、すでに討伐は終わっていた。
冒険者たちは周りに警戒しつつ、ドロップした魔石などを回収している。
あ、魔石回収忘れていた……。
今回は治療が目的だし、けが人が最優先だからいいかな。
私は息を整えつつ、隊長に魔物が出ていた穴の事を報告する。
すぐに隊長は近くの騎士団に連絡していた。
穴が大きいことと、そこから大きな魔物が出てきていることで、その穴から出てくる魔物を待ち伏せして討伐するチームを編成するらしい。
「隊長、魔物があふれているダンジョンは大型の魔物が多いのですか?」
「ダンジョン内の広さはあると聞いているが、大型の魔物が多いとは聞いていない。下層に大型の魔物が出現して、追われて上層、地上まで溢れているのかはまだ分からないよ」
「討伐期間が長いように思われますが?」
「ふむ。ダンジョンが下に深いタイプではなかったことに起因する問題と、二つの領地を挟んでいることで連帯が悪いのかもしれないな」
子供だと無視せずに思うことを述べてくれる隊長。
先ほどの戦いも銀髪が揺れる姿は、遠目でも恰好良かったし。足の後遺症があるように見えなかったけれど。後遺症とは何だろう……。
そこに冒険者たちが集まり、口々に礼を述べる。
私は冒険者の数を聞いて人数分のポーションを渡し、少し小分けにしておいたお菓子も付けた。
ニーズが大きめの魔石などを回収してくれていて、驚いたけれどやっぱり嬉しい。医療部隊もパーティのようなものだからと、四人分に分けたら、ピエールさんは冒険者になったことがないからか、とても喜ばれた。
「こんな大きな魔石を一人一個もらえるなんてな」
「隊長、私なんて見るのも初めての大きさですよ」
「私も、これだけ頂けるのは初めてです」
隊長にも、もう一人の部隊員にも喜んでもらえたようだ。
地上に魔物がいたら、冒険者するのもいいかもしれない、と思う程にはニーズのおかげで大漁だ。
私が最後止めを刺した魔物たちの魔石などの配分を冒険者たちから聞かれたけれど、元々戦っていた人たちの物を横取りする気はないので辞退し、代わりに私の取り分の魔石は彼らにあげた。私が欲しかった糸を優先してもらえていたし、私たちは医療が目的だ。
ニーズが狩らなければ、彼らが駆除していた可能性もあるかもしれない。魔物が大きすぎたけど……。
冒険者たちの中には、自分たちで狩っていないからもらえない、と言う若者もいたけど、魔石のおおよその値段を知っている人がいたのだろう、「あの値段――」と耳打ちされて、口をポカーンと開けていた。
二十数名で分けないといけないから、口を開けるほどじゃないけどね。
冒険者たちは塞いだ穴の前に移動して、騎士たちと合流するらしい。
私たちは水分補給だけして、巡回に出る。
冒険者たちはだいたい二十名から四十名で移動しているらしく、途中二つのグループに出会い、ケガをしていた人もいて治療した。ポーションも渡したから、すでに渡せるポーションはない。
昼食は騎士団の小隊と一緒に食べるとのことで、そちらに向かう。情報交換も兼ねているらしい。
小隊が昼食を取ると聞いていた陣地に着くと、隊長は騎士たちに挨拶されていた。「四十名全員無事でありますっ」という声が聞こえたから、ここの騎士たちは大丈夫なんだとホッとした私の目に包帯が映る。驚いて包帯のところ、もとい包帯を付けている人のところへすっ飛んで行く。
「包帯取っていいですよね⁉」
それだけ言って、無理やり腕の包帯を取る。三重の止め結びしてある。簡単に解ける本結びを知らない?
結び目と反対方向へこよりにしてようやく結び目を解いて包帯を外す。薬草で処置はしてあるが、ぐぢゃぐぢゃな傷が現れた。
「癒せ!【
どこが無事なんだ⁉
「ポーションはなかったのですか?」
「これくらいでポーションを使うのは勿体ないし、丁度薬草があったから。ありがとう。痛みが消えたよ」
痛みが消えるのは当たり前! と叫びそうになった。勿体ないって、ポーションが不足しているの? 薬草がハゥツだったら、ポーションにしたのかもしれないけれど、残念ながらハゥツでなかったからそのまま薬草だけ使ったのだろうか。
学園でも習うハゥツポーションは初級の半分の効果だけど、このドクダミより副作用もないはずなのに。王都付近に多い薬草だと聞いているだけに残念すぎる。
ドクダミを使っているのだけど、ドクダミは人によっては下痢を引き起こす。飲み薬として使っているわけではないから、そこまで気にするなと言われたらそうだけど……。
「治療魔法を使える騎士はいないのですか?」
「ここはフェルマー隊長が来てくれるからね。残念ながら四十人の中に二人しかいなくてね。彼らも魔力も使って対戦したからまだ完全には回復してないんだ」
「そんなにポーション足りないのですか?」
「どうだろう? 僕は一番下っ端だからよく分からないよ」
「他にケガしている人は?」
指さした方へ駆けだす。すぐ横だけど。若いから遠慮しているのか、言えない雰囲気の小隊なのか、薬不足なのか、ポーションを使っていない原因は分からないけれど今はけが人を治すほうが先決だ。
打撲と捻挫した騎士が二人いた。
二人は座って昼食の準備だろうか、している。スープを作ったらしく、火加減を見ていた。
捻挫に添え木もせずに腫れを冷やしているだけ。
私は駆け寄りざま詠唱する。
「この手に宿れ、聖なる光よ! 【
腫れもすぐにひいてポカーンと私を見る騎士。まだ若い。さっきの一番下っ端って言ってた騎士より見た目は若い気がする。
捻挫が奇麗に治ったのを確認して動かしてもらってから、隣に腰かける打撲の騎士の様子を見る。
捻挫の若い騎士には少し時間が経っていたと思うから【再生】を使ったけど、この打撲の騎士も初級治療魔法の【治療】だけでは不足な気がする。
打撲した箇所が足だけではなかったようで、背中も見せてくれた。
内臓に影響ないと良いけど。
「この手に宿れ、聖なる光よ! 【
光がすぅと体の中に吸い込まれるように消えていく。
内臓もダメージを受けていたようだ。でも、奇麗になったことを感じて、魔力を止める。
「どこが全員無事なのよ!!!?」
いかん、叫んでた。口を押えるが遅かった。
若い騎士たちがびっくりしている。
「ご、ごめんなさい。他にケガしている方は?」
なるべく優しく言うが、誰もケガしていると私に言わない。
ドクダミ特有の匂いがするから、絶対他にも、装備の下に負傷している騎士がいるはずなのに!
「シャイン、そんなにがっつくな。騎士たちが驚いているだろう?」
「でも! 隊長、負傷しているのに、ポーション使ってないどころか、私たちが来たのに無事ですって言うから……」
「シャイン、ポーションも魔力も有限だ。見たところシャインはそれだけ魔力を使っても全然平気なところを見ると魔力が多くて気づきにくいのだろうが。まだ昼前でこれからも巡回する俺たちのために、あれくらいの負傷は申告しないんだろうよ」
私が叫んだからか横に来てくれた隊長が、最後の方は小声で言う。
そうでした。
魔心臓二つの騎士がほとんど。騎士になるのは、下位貴族のそれも次男以降が多いと聞いていたのに。自分のうっかりさが嫌になるけれど、今は治療させてもらおう。
先ほど診た騎士もただの打撲と思っていただろうから。実際には内臓にまでダメージあったのだけど、吐いたりしなかったから気づかなかったのだろう。
「分かりました。すみませんでした。失礼したついでに治療させてください」
私は鼻をひくひくさせて、薬草の匂いがする騎士にずいっと近付く。
「ええっと……」
近寄られた騎士は動揺している。動揺要らないから早く傷を見せてよね。
「はぁ……。皆、負傷しているのなら、擦り傷でも全て彼女、シャインに見せてくれ。少しの打撲もだ」
フェルマー隊長の声で騎士たちが顔を見合わせたり、何か言っていたようだが、集まってくるようだ。
私はお願いされた騎士が腕を出すのを待っていた。
「……では、お願いします」
「ここだけですか?」
私はしゃがんで膝を見ようとして、避けられた。
「ひ、膝もですっ。自分で見せますから」
顔を赤くして言う騎士に先ほどがっつくなと言われたばかりだったのが頭に浮かぶ。しまったなぁと隊長を見ると、横を向いて肩を震わせている。
「癒せ!【
私は自分の顔も赤くなる前に、治療に専念することにした。
消えていく擦り傷たち。
「打ったところなど痛い所はありませんか?」
「ないよ。ありがとう。傷も残らず奇麗になった」
笑顔で答えてくれる。
私は擦り傷などほっておいてもいいという傷もどんどん治療していく。
「私が良くないんです。化膿したら熱が出て戦えませんよ? 今は治療されてください」
特に膝下のケガは破傷風にかかりやすい。破傷風に感染したら、目も当てられない。中枢神経だったかに届くと、のたうち回って背骨が折れることがあるくらい、激痛を伴って死んでいくのが破傷風だ。
頭を下げながら治療していたら、おっちゃ……おじさま騎士の一人は涙ぐんでいた。子供が同じくらいの年齢で娘を思い出したと言う。
「来年学園に入るんだよ。女の子なんだけど、私に似たのか背が高くてね」
それ九歳じゃない!
背が高いと言っても九歳と同じくらいと言われた。ぐぬぬ。
後で知ったが、そのおじさま騎士が小隊隊長だった……。
治療は擦り傷がほとんどだったので、すぐに終わった。
今日の昼食はスープ付きなのは、昨日魔物の餌食になりそうだったシカを仕留めたから、その残りで作ったという。今日まで二日目の野営をしてから戻る予定だそう。召喚獣がいるから陣営に戻ったらいいのにと思い、また自分の基準で考えてしまったと反省した。
ちょうどいいところに来たとお昼をご馳走になった。私もこれまた小分けしていたお菓子を代わりに差し出した。お菓子もポーションもあげれる分はこれでなくなった。
あげる分がないので、せめてと私は小隊隊長にお願いして彼らの持っている改良前の中級ポーションとガンマポーションとを二十瓶分交換してもらった。差しあげる分はなくても、薬剤師として三十瓶ほど持って来ている。ニーズがいるから可能なんだけど。
上級ポーションを一個おまけに付けた。その代りにハゥツの草の再確認と、ほどけ難く解きやすい本結びを騎士たちに教えることを約束してもらった。
もやい結びなどは日常で使っているそうだから、練習を数回すれば覚えるだろうけど、使わないと忘れるのが結びなのだ。蝶々結びも一瞬で結べるやり方があるけれど、忘れてしまい、急ぐ時に結局普通の蝶々結びをしたことがある。
ガンマポーションなら治療と魔力回復を同時にできるから、とても喜ばれた。これでケチケチせずにポーションをもっと使ってくれるといいのだけど。
「明日、中隊陣営に戻ったら追加でポーションを差し上げるので、かすり傷でも使ってほしい」と告げたから大丈夫だろう。
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