第71話
春休みは初夏の前、春も終わりに差し掛かるころにある。
春休みは一週間だが、夏休みが二カ月あるから、間に挟まれた三学期はとても短い。
領地対抗戦のある時期で短くも濃いとは聞いていたが、その三学期を前に、春休み中からすでに濃い時間を送ることとなった。
ベルナルド、マルガリータ両人により、領地の生徒は領主の館に集合させられたのだ。
学園にいる時と何ら変わらない顔ぶれ。
もちろん、学園にいるときから、試験後は特訓が始まってはいた。
領地対抗戦は個人戦はない。領地グループでの対抗戦になる。
女性は演奏をすることが多いけれど、私は騎士コースを選んでいることもあり、一年生代表四人の中に入ってしまった。
ルカなんて、前等部二年生枠で出る。下の年齢から借りるのはできるから、二年生に女性が多いこともあり、一年だが、一つ上の代表として名前が載る。
一年で下から借りれないときは女子生徒が参加すればいいという方針だ。
他領から借りてもいいのだが、補欠メンバーが各学年二名ずつは必要。
競技代表にならなくてもいいと言ったけれど、マルガリータから説得された。
「花竜が必要なんだ!」と。
ですよねー。
私じゃなくて、召喚獣のニーズ目当てだった。その分、気は楽だけど。
計十二名での競技とは、魔法、剣技、召喚獣を使っての競技になる。
相手チームのゴーレムを倒せば終わり、という簡単なルールではある。
だが、魔法を使うし、召喚獣もいる。ゴーレム自体も戦う。ゴーレムは物理攻撃だけだが、当たれば吹き飛ばされる。
結構ハードな戦いになることも多いのだ。
強硬な土壁で防ぐこともありだし、召喚獣二体でゴーレムを空中に移動させて近づかせない方法で優勝したチームもいる。
ポーションは支給される上級一本、中級五本、初級十本しか使えない。それ以上のケガを誰かが負ってしまい、治療できるものがいなければその時点で負けとなる。
しかし、死者まで出した場合は失脚となり、最下位がその時点で決まる。
死者は出たことがないとは聞くが、それでも十分ルールが危ない気がする。競技なのに、ポーション必須とか。
細かな決まりごとは結構ある。
対峙できるのは倍までの人数だとか。一人対二人はありでも、一人対三人は減点となり、ホイッスルが鳴り注意を受ける。
イエローカードみたいなもの。
二人対五人もダメ。ただし、逆に二人で五人相手に戦いを挑むのはオッケー。
他には、特殊防具を付ける。マントの上からつけるゼッケンみたいなもので、色の違いでチームを区別できると共に、その防具部分に特殊矢と剣が五回当たれば失脚となる。ゼッケンだが、腕部分もある
剣を使う人がほとんどいないのは残念だけど。
安全だが、通常の剣としてはあまりよい武器ではないので、自分の安全のために学園支給以外の剣を使う。
そう。
剣や楯と言った装備道具は領地、もしくは自前持ち込みが許されるのだ。
支給されるものは、相手には優しいが、強い武器ではない。
使えないのは魔力供給してくれる魔導具など。それ以外は結構自由らしい。
視野が広くて全体を把握できるいわゆる「イーグルアイ」を持つものがいると競技では有利だ。ルカはたぶんこれがある。身長も領地では一番大きいランバートと同じくらいはあるし。
私はイーグルアイよりは落ちると言われる「ホークアイ」に近い能力があると言われてはいるが、自分ではよく分かってない。
前世だとバスケットボールなどで後ろにパスしたり、仲間の位置を把握して次の行動に移せたりと言ったプロ選手がするような広い視野を持つ人に付いた名称だけど、某バスケ漫画ではホークアイのほうが視野が広いと描かれていた。
ただ、鷲も鷹も実際には視野は広いと言うより、狭くて焦点距離が長いはず。
この国では鷲は王が乗る召喚獣が
王都付近の領地だと、春休みも召喚獣を使っての練習ができるが、召喚獣なしでの練習しかできない地方は、そこからして不利である。
ゴーレムを準備できるできるかは、領地ごとに違うだろうけれど、今年はもちろん、マルガリータたちの余計な、ゲフゲフ、ご好意によってゴーレムが準備された。
それも四体も。騎士や後等部も必要だろうけど多すぎでしょ。
金持ちかよ。
「シャイン、あなたのおかげよ。ポーションの売上金をゴーレムの代金に充てたら四体買ってもまだ余裕で他にも使えたそうよ。アンブル領地に貢献してくれてありがとう」
私だけに聞こえるように言ってにっこり微笑むマルガリータ。
まさかの、私のせい!!!
ズーンと沈んでいたら、男子たちは、すごいと喜んでいた。楯や剣なども新品を人数分用意してあるからそちらも貢献したらしい。それはまあ良かったけど……。
「この楯軽いぞ!」
「剣も軽くて手になじむ!」
「俺たちが初めて使うんだ!」
私以外は練習できることが嬉しいらしい。
なんて真面目なの。休みは休むためのもの! と思っていたのは私だけ?
はぁ。私も少しまじめにやろう。
召喚獣に騎乗しての練習はできないが、陣形を組んで攻守に分かれ練習する。
私は本来なら守りのディフェンスをすべきなのだが、ニーズがいるので攻めのオフェンスを担うことになった。
ルカ、クレト、私の三人はオフェンスなのだ。それもクレトと私は召喚獣に騎乗して戦う。地上戦と召喚獣での空中戦。と言っても、後等部のように、騎乗しながら剣を振り回すことはあまりせず、魔法を使ったり敵陣への突っ込み、もしくは召喚獣での防御がメインとなる。
エリアスの召喚獣は白が混じったキジ飛猫で、少し体格も大きく、性格はキジ飛猫の中では大らからしいので、守りだ。
召喚獣の大きさを変えれることを秘密にしているから、ニーズとフェンはもったいないとは思う。
私は守りもできるように攻めの中の先行メンバーではない。中間に位置して時には守りもする。特に誰かがケガしてポーションで足りないとなったときに治療に向かわないといけないから。ニーズに乗ってるだろうし、地上にいても俊足使えば問題ないとは思うが。
守りは上級生が死守してくれるそうだ。てか死守するとか、怖いから言わないで欲しい。
これは速く競技を終わらせるように頑張るしかない。
ルカはいい戦力なのだが、個人戦の競技で見た通りまだ召喚獣との意思疎通が上手くいってないから、どこまで貢献してくれるか分からない。よって、彼自身のみ戦う。
マルガリータはもちろん、攻め。彼女の意向により。
ベルナルドとランバートは守り。ランバートはレイバ領主の息子だから、領地が本来別だが、レイバ領には貴族がほぼいないこともあり、住んでいるところに所属となる。十八の領地と言われるが実際は十九が正しい。
ベルナルドたちがいるから、守りが堅いのは安心する。
戦う方式は、トーナメント方式となり、最初の試合は三領地同時に行う。
強豪チーム同士が序盤で対戦しないようにシード配置されているが、強豪に勝つために設けられた処置なのだそうだ。二チームで申し合わせて強豪を倒してもいいというルールだ。
それでも、上位三位の領地はいつも同じなのだとか。二回勝ち進むだけでベスト三になれるが、かなり難しいことらしい。
私たちは一週間の猛特訓を上級生から受けた。
リタは一年生の楽器代表に選ばれて演奏を頑張っている。
各学年一名ずつ出ればいいので、代表を選んでもいいのだが、女子たちはマルガリータと私以外全員演奏に参加する。
演奏組は、上級生たちが優しくて楽しいと言っていた。いいな。お菓子の差し入れが多いらしい。
競技の先輩たちの人柄はともかく、訓練は優しくないから。
私が競技のほうへ差し入れをすると必ず「お前の手作りじゃないだろうな」と一年男子に聞かれるけど、ヘトヘトになるくらい訓練を受けているのに、お菓子作りまでできるわけがない。
領地にいるときに、懐かしい領地のお菓子を見ると大量にかってしまうから、そのお裾分けをしているだけだぃ、ふん。
結局、私の春休みは、練習とトネリコの苗木を森に植えることだけで終わった。
春は空気中の水分が多いから、像がぼんやりと浮かんでみえることを、昼は
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます