第80話

暑い夏の日、リタと薬草を採りに行って、久々にばてそうだ。

もうすぐ後等部にあがる夏。前世で言うと、中学生になる年。朝早く出かけたけれど、日差しが強い。


「初雪のようなかき氷が食べたい」

「以前、シャインが作ってくれたフルーツいっぱいの練乳かけかき氷のこと?」

「あー、うん。そうだね。色々のせる材料でも変わってくるけどね」


 初雪のようなふんわりしたかき氷を私はご所望なのだ。

 ガムシロップを入れたミネラルウォーターを凍らせた氷を削ればふわふわに出来上がる。

 というたぶん前世の知識から、砂糖水を融かした不純物の少ない水を、凍らせ、風魔法でふんわりと削る練習を重ねた。


 雪のようなふわふわしたかき氷。頭にキーンとしずらいかき氷。

 これに、今回は牛乳にシロップを入れたものを氷にして削ったものを器の半分にいれる。牛乳を凍らせたものも、触感がふわふわに近い。

 二種類の氷が出来上がる。

 その上には、いろいろな種類のフルーツをこれでもかと盛る。

 スイカや桃、パイナップル、マンゴー、メロン。お店が開けそうだ。


「この前食べたときは、桃のピューレがおいしかったけど、今回はないの」

「うん、大丈夫。手作り練乳とフルーツだけでも十分おいしいよ」


 手作り練乳と言っても、ただ牛乳に砂糖を入れて煮詰めるだけ。バニラビーンズで香りづけはしたりしなかったり。牛乳二百ミリに五十グラムの砂糖を煮詰めるだけ。 

 練乳も実は簡単に手作りできる。と言いつつ、一人で作って焦がした経験があるから、気は抜けないのだが……。前世のようにレンジがあれば、十分チンで楽なのに。あれは、電磁波で振動させるのだから、出来ないことはないのか……?


「シャイン、眉間にしわが寄ってるよ?」

「あはは。ちょっと考え事してた。試食してみよっか」


 あまり難しいことは考えず、お鍋で煮詰めたらいいんだ。

 料理上手のリタがいるし。

 「試食の量ではないけど」とふふっと笑うリタはスルーして、席につき、黙祷してスプーンを持つ。


「いただきま――」

「シャイン、いるかー?」

「げっ、何と言うタイミングの悪さ」


 ルカとその後ろからクレト。思わず声に出てた。あわてて口を押える。

 ルカがにぃぃっと笑う。歯をむき出すな。


「本当、来なくていいタイミングで来るよね?」

「氷もいっぱいあるし、風魔法の練習だと思えばいいよ」


 クスクス笑うリタは今日も優しい。

 でも、私はすぐに、今、食べたいのだ。


「いいけど、これ食べてか、あーー! 取るなっ」

「……んぐっ、! これすっげうまいっ! ふわふわだな! 氷ってもっとシャキシャキしてないか?」


 そうだろ、そうだろ、っていつものやり取りだ。

 ルカに取られたっていうのに、おいしいという感想を聞いたら思わず腰に手をあてて、踏ん反りかえる癖がついてる。   

 自分の家の如くスプーンを二つ出してきたクレトに一つ受け取り「ありがとう」と言いながら、横から食べる私にルカが「そんなにがっつくなよ」と宣う。

 それ、私のなんだけど? 口に入れてもぐもぐしているから、声を出せない。ぐぬぬ。


「シャインの分を大皿に作って良かったね。三人で食べても余裕ね」  

「ううん、これ一人分だよ」

「シャインと気が合うとは癪だが、これは一人分だな」


 偉そうに論じるなっ、ルカめっ。


「この赤い小さいのは何だ?」

「ウルフベリー、別名クコの実ね。体にいい成分がいっぱいなの。食べすぎるのは良くないけど、アクセントにも赤くて可愛いからいいでしょう?」

「トマトぽいような少し苦みもある感じであまりおいしくはないな」


 クレトの味覚には合わなかったらしい。

 女性ホルモンに作用するし、アンチエイジングな食べ物だから、今のクレトには必要ないのだろう。

 私たちは氷を削りながら、後等部の話をする。


「ルカは騎士コースで、それ以外は文官コースだよね。同じクラスになれるかなぁ」

「文官だけど、シャインは薬剤だから研究の方だろう?」

「そうなんだけど、ぼっちは嫌なの。リタと同じところがいい」

「シャインも友達たくさんできたでしょう?」

「リタみたいに皆とお友達でわいわい、とまではいかないのよねぇ」


 何でかなぁと腕を組む私にルカが言う。

 氷はもう十分だ。私たちはそれぞれにフルーツと練乳をのせて食べながら話す。


「シャインは誰とでもしゃべれるくせにボッチ気質だし、行動がおかしすぎて周りが引くんだろ」


 うわっ、ルカが酷いよ。だいたいボッチ気質って何よ。

 目が座わるよ?


「そんな睨むなよ。本当のことだろ? お前、好きなことしかしないからな。周りに合わせるとかないし。別に嫌われているわけじゃないからいいだろ」

「えー、私ほど皆に合わせている生徒もいないと思うよー」

「ほ、ほら、シャインは成績も体力も優秀だから、皆が一目置いてるのよ」

「リタ、それはない」

「クレト? なぜ否定するかなぁ?」

 

 リタが優秀と言ってくれた言葉にニタニタとしていたら、クレトが否定した。手は口に氷を運ぶから忙しいので、代わりに片足をダンダンと踏み鳴らす。 

 それに答えるクレトとルカ。


「シャインの発言で、道に迷ったり、負けたり、乗り物に乗り遅れたりしたのを忘れたのか? どっか抜けてるのに、はりきって発言するだろ」

「あー、そういえば色々あったなぁ。シャインのせいで修学旅行とか合宿での散々な思い出な」

「そ、それも楽しい思い出になったって女の子たちは言ってたわよ」

「リタ、それはクラスの女子が優しかったお陰だろ。貴族の子女が全員そうだと思うなよ」


 うううっ。思い出したよ。自分の失態。

 あまり深く考えずに、「こっちの道のはず」と突き進んでグループを道に迷わせたりとか。でも、耳飾り通信機のおかげで難は逃れたし。

 私の考える作戦がものの見事に相手に読まれていて、クラス対抗戦で負けたりとか、最悪だったのは、地下鉄に時間を間違えて乗り過ごしたこと。それも他の子たちが時間ないよというのに、大丈夫一時間まだあるから、って自信満々で答えたせいで、遅れたってこととか。あー、思い出したら結構ある?


「えっと、シャインはじゃぁ、普通の文官コースにしたってことね?」


 リタがフォローしてくれるから、頷いた。


 後等部では騎士コースと管理コース含む文官コースに分かれる。

 管理コースとは王族や領主の子供たちが受ける帝王学などを学ぶ科の事。

 文官コースは、芸系、研究系など後々分かれていくのだが、ここ数年で文系内でクラス分けを一年の時点で希望や才能を見て振り分けられ始めた。

 だから、本当なら私は研究系に希望を出すべきなのだが、普通の文官コースにしたのだ。あとは成績順で振り分けられるから、そうするとたぶんクレトとリタとは同じクラスになれるだろうから。


「俺はエリアスたちと同じクラスだろうから、二つのクラスに分かれる感じか」

「ビアンカたちとも同じクラスになれたら、だね。学園のほうできっと考慮してくれるよね」


 クラス分けはなるべく領地で固まるようにしてくれるのだ。その後も続く人間関係が領地ごとが大きいからだろうけど。


 建物から制服や先生たちも変わるから少し緊張するけど、ルカはそれも楽しみらしい。

 私たちは必要な物を話しあったり、先生たちの噂をしながらかき氷を食べ――すぎて、お腹を壊した。


「体は大きくなっても、まだまだ子供ねぇ」と母に言われたが、王都のほうはここまで暑くないし、かき氷に合うフルーツが手に入りやすいアンブル領ならではのかき氷がおいしすぎるのがいけないんだと責任転換した。お腹痛いのもどっかに転換したい……。 


 そして、やっぱりばれた鎖帷子の服の量産を笑顔で迫るランバートから逃げたい。量産はムリと言ったけど、冒険者たちにと言われると考えてしまう。

 生徒たちも万が一のことを考えると着ていたら安全だし。


 量産ポーションの話もあったりで、気持ち的には忙しい夏を過ごしたのだった。

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