第2話 自称・神の使いに拉致られて
ノアという奴はフフッと得意気に笑う。
無論、俺は英語なんて話せないから正直コミュニケーションが取れるのは助かる。
「ところで、ここはどこだ?」
どうせ夢でも見ているだろうから訊いても仕方がないのだが、ひとまずノアに尋ねてみた。
「ここは世界の狭間。つまり俺とお前の世界の中間地点だ」
そう言ってノアが手のひらを上に返すと、霧が彼に吸い込まれていった。
晴れた視界に改めて辺りを眺め回すと殺風景な真っ白な地面に地平線が続いていた。
「狭間」なのに、境界線が見えない。なんというか、夢にしては随分とリアルだ。
目の前の光景に呆然としていたが、ノアは構わず「さて……」と話を切り出した。
「お前をここに呼んだのは他でもない。やってもらいたいことがあるからだ」
「やってもらいたいこと?」
「ああ。お前には魔王を討伐してもらいたい」
「まおう??」
こいつ、頭大丈夫だろうか。
確かに俺はこれまで十回近く魔王を倒している。だが、それもゲームの中での話だ。
「魔王なんて、この世にいる訳ないだろ」
「お前の世界ではな。倒してもらいたいのは俺の世界のほうだ。といっても、まだ魔王復活にはまだ時間がある。それまでにお前は転生先の世界に馴染んでもらいたい」
「お、おう……」
厨二病くさい展開に思わず変なリアクションをしてしまったが、もしやこれが今流行りの「異世界転生」というものか。
この辺りの知識はあまりないのだが、「神の使い」の胡散臭さといい、「狭間の世界」の設定といい、それっぽさはある。
「お前……もしかしてまだ夢だと思ってるのか?」
「そりゃ、当たり前だろ。魔王とか転生とか簡単に信じられるか」
「ったく、面倒臭えなあ……まあ、そのうち嫌というほど現実がわかる。それまで夢を見てるっていうのもいいか」
ノアはニンマリと笑う。
ところでこいつ、「神の使い」とか言いながらさっきから言動が悪人っぽいのだが信頼していいのだろうか。
俺は眉をひそめて怪しむが、ノアはまったく気にしていないようだ。
「とにかく、お前は神に選ばれたんだ。魔王を倒せる素質があるってこった」
ノアはわざとらしくニッと歯を見せて笑い、俺に言った。
「頼りにしてるぜ。ライト・オオダテ君」
「……あぁ?」
その名前に、ついドスの効いた声が出た。
途端に眉間にしわを寄せて嫌悪感を示す俺に、流石のノアもおかしいと思ったらしい。
だからこそ、小首を傾げるノアにはっきりと告げた。
「俺は
「は!?」
この発言にノアは目を見開いて素っ頓狂な声をあげた。
慌てた様子でノアは
すると、彼がかざした先に四角くて青いモニターのようなものが現れた。
「ライトじゃないって……この画像どう見たってお前だろ!」
声を荒げたノアが画面に出したのは、間違いなく頼人の画像だった。
隠し撮りされたのか本人は気づいていないようで、真顔で伸びた茶色の髪を掻きあげている。
というか、この時期に髪を染めているなんてこいつ内定決まったなこの野郎。
まあ、俺は俺でほんの一週間前までは茶髪だったんだけれど。
それはさておき。
頼人の顔を改めて見てもノアは事態を飲み込めていないようだった。
「この世にまったく同じ顔が二人もいる訳ないだろ!」
ノアは眉間にしわを寄せ、奥歯を噛みしめる。
どうやら、相当うろたえているようだ。
だが、初めて見る奴ならそんなリアクションにもなるか。
「まったく同じ顔じゃねえよ。目元をよく見ろ」
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