第58話 依頼、開始
「いつまでもそんなところにいないで、君たちも入ってきなさい」
ミドリーさんが声をかけると、扉から二人の青年がよそよそしく顔を出し、そのまま部屋に入ってきた。
「あ、あんたらは……」
と言ってみたものの、正直「誰だ?」と思った。
セリナと同じ制服を着ているからおそらくギルドの【
「セバスさん、フーリ……あなたたち、怪我はもういいの?」
彼らを気遣うようにアンジェが尋ねると、二人とも黙って首を縦に振った。
「ひとまず治療はひと通り終えたからシスターからも休んでいいと言われたので……それで、セリナの様子を見に来たのですが……」
丸眼鏡をかけた茶髪の青年がおどおどしながら答える。小柄でもやしのようにひょろっとした彼はとてもひ弱そうな人だ。ただ、もう一人の緑色でツンツンに髪を立たせた彼は真剣な表情で俺たちを見つめていた。
そんな彼らにミドリーさんは力強く言う。
「今から彼らに
ニッと歯を見せるミドリーさんに丸眼鏡の人は「ええ!?」と驚いた声をあげる。このギルドが半壊の状況で
ミドリーさんの
「方法はどんなことでも構わない。彼女の命を救ってほしい。期限は……三日前後。おそらくそれが彼女の寿命だろう。報酬はなんでもいい。資金でも武器でもお前らの望むものをなんでもやろう」
「し、神官様?」
つらつらと話すミドリーさんにアンジェもまごついた。
「別に俺たちは報酬がほしいんじゃないんすけど」
「まあ、そう言うのでない。お前らだってギルド員の端くれだろ? ここまでやるなら正式に依頼させてくれ。それに、
「そうかもしれないけど……本当にいいの?」
申し訳なさそうに眉尻を垂らすアンジェにミドリーさんは「いいんだ」と首を振る。
「私もムギトの言葉で目が覚めたんだよ。君たちの誠意に私も精いっぱい応えさせてくれ……いいだろう?」
同意を求めるように【
「わかりました……僕も、セリナが死ぬのは嫌だから……」
「俺もです。できることならなんでもサポートさせてください」
「そうか……ギルドのご協力に感謝する」
ミドリーさんは安堵したように息をつく。
正式にギルドの
「タイムリミットは三日……いや、それよりも短いかもしれないのか」
口にするとより緊張感が増した。こればかりはセリナの生命力にかかっているし、あくまでも目安で事態が一刻を争うということは変わりない。
「でも、歩きだと森にたどり着くだけで半日はかかるわ。移動するなら馬車がいいと思うけど……」
「問題は、
ミドリーさんの言う通りだ。森までの道中も魔物が出るのだ。そんな危険な場所まで俺たちを送るなんてリスクが高いことを御者がしてくれるとは思えない。
どうしようかと悩んでいると、ツンツン頭の青年が「あの」と俺たちの話に割り込んできた。
「俺が二人を森まで送って行きます」
「なんですって?」
青年の発言にアンジェが素っ頓狂な声をあげる。隣の丸眼鏡の人なんて「マジで言ってるのかこいつ」と言わんばかりに目を見開いて数歩退いた。しかし、彼の表情は真剣だ。
「フーリ……いいのか、そんな危険なことを担ってもらって」
確認するようにミドリーさんが彼、もとい、フーリに訊くと、フーリは力強く頷いた。
「俺なら馬車を扱えるし、帰りであれば馬車ごと魔法で街に戻れます」
「それはそうなのだが……」
「それに、仲間がこんな目に合ったのにここで何もしないなんて男が廃るじゃないですか」
彼の真っすぐな眼差しから彼の本気度合いが伝わる。それはミドリーさんも感じ取ったようで彼も渋々「わかった」と了承した。
「ということで、セバスさん。書類関係はお願いします」
「わ、わかりました。任せてください」
フーリがセバスと呼ばれた丸眼鏡の人に請うと、彼は「こうしちゃいられない」と慌ただしく部屋を出て行った。
彼は彼で忙しくなる。忙しくしているのは紛れもなく俺たちなのだが。
立ち去ったセバスを見送ると、フーリは腰に手を当て、「よしっ」と気合いを入れた。
なんかいつの間にかあれやこれやと事が進んでしまった。完全に差し置かれているが、今の俺たちに味方が増えるのにデメリットはないだろう。
「ど、どうもありがとうございます」
まごつきながらも会釈すると、フーリはふるっと首を横に振った。
「言っただろ。できることならなんでもサポートするって」
そう言って彼はニッと口角をあげた。
「改めて……俺はフーリ。属性魔法は風だ」
「こちらこそ、よろしく頼むっす」
握手を求めるフーリに俺も彼の手を握り返す。そんな固い握手を交わす俺とフーリを見て、アンジェは嬉しそうに微笑んだ。
移動手段も得た。一時的とはいえ味方も増えた。
あとは、出発するだけである。
――死ぬんじゃねえぞ。セリナ。
振り返り、眠る彼女に心の中で話しかける。そして人知れず瘴気と戦う彼女の姿をしかと目に焼きつけ、自分自身を奮い立たせた。
「――行くぞ。お前ら」
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