第69話 お前はいつもそうやって
そのピンチに追い打ちをかけるようにアンジェが告白する。
「ムギちゃん……謝りたいことがあるの」
「なんだよ、この期に及んで……」
「多分……あたし、魔法打てるのあと一発だわ」
「マジか」
ちらりとアンジェを見ると、彼は頬を引き攣らせながら滲んだ脂汗を手で拭っていた。
彼の場合、当の昔に体力の限界が来ていたはずだ。
火事場の馬鹿力でここまで動いてくれたのだろうが、それも切れたのだろう。
しかし、ここまでふらふらなのにアンジェは徐に剣の切っ先を死神の前に向けた。
「だからこそ……これであいつの動きを止めるわ」
「そんな……無茶するなよ」
「いいえ、このままだと今度は体力がなくなっちゃう。動けるうちに動かないと」
だから、力を貸して。
そう紡いだ彼の剣は、すでにわずかに炎が纏っていた。
「……わかった」
彼の覚悟に俺も腹を括る。
おそらく彼は死神目がけて火炎放射を一直線に打つだろう。そして死神がサイドどちらかに動く隙を突いて俺が攻撃を仕かけるのだ。同時に襲いかかれば一発は食らわせられるはず。
「行くわよ」
彼の言葉を合図に俺は一気に死神に距離を詰めた。その動きを見てアンジェが火炎放射を放った。
だが、その時空洞になっているはずの死神の口元がにやりと笑った気がした。
息を呑んだ時にはもう遅かった。俺は奴の術中にはまっていたのだ。
チームプレイなのは何も俺たちだけではない。奴らにも仲間がいるのだ。
「ケケケケッ!!」
笑い声をあげたブルースピリットたちが一斉に俺に飛びかかる。しかも嚙みつくのではなく視界を阻んでいるように俺の顔面に纏わりつく。これのせいで俺の足は止まり、見事に押さえ込まれてしまった。
「こいつら……気持ち悪いんだよ!」
わらわらと群れるブルースピリットたちを力任せに薙ぎ払う。するとフォークに直撃したブルースピリットたちは喚きながらぶっ飛んでいった。
これでようやく邪魔者は消えた。
けれども、視界が晴れた俺を待っていたのは、振りかぶった死神の鋭利な爪だった。
はめられた。
ブルースピリットが俺の動きを止めたのは攻撃を防いだだけではない。死角を作って死神に攻撃させる隙を与えたのだ。あいつらは、初めから俺を狙っていたのだ。
しかし、この間合いでは避けることができない。
――刺される!
その恐怖に俺は反射的に目をつむってしまった。
途端、横から何かが俺に突っ込んできた。
あまりの勢いに俺は地面に転がるくらいふっ飛ばされた。
一瞬何が起こったかわからなかったが、ハッと振り返ると、視界に飛び散った赤い鮮血が映じた。
――嫌な予感がした。
地面に倒れ込んだまま、恐る恐る顔を上げる。
そこで見えた残酷な光景に俺は目を見開いたまま動くことができなかった。
それは、呼吸を忘れるほどの衝撃だった。
「……アンジェ?」
思わず彼の名前を呼ぶが、返事はなかった。
アンジェは死神に腹部を貫かれて宙に浮いたままうなだれていたのだ。
しかもアンジェの血液は貫通した死神の爪を伝い、ぽたぽたと凋落している。
ピクリとも動かないアンジェを見て、浮遊しているブルースピリットがケタケタと笑う。
まるでアンジェを仕留めたことを喜んでいるようだ。
一方、死神はアンジェに興味がないのか、腕を振ってアンジェを捨てるように地面に叩きつけた。
振り落とされたアンジェは地面に何バウンドした後、そのまま転がって動かなくなった。
そこで俺は我に返り、
「お、おい……アンジェ……?」
うろたえながらもアンジェの体を起こし上げる。息はあるが、彼が噎せるとそのまま吐血した。刺された腹部の傷も深いようで、未だにどくどくと血が流れ出ている。
「ま、待ってろ……今、治してやるから……」
慌てて鞄からクーラの水を取り出し、蓋を取って彼の患部に水をかける。
だが、いくら水をかけても傷は一向に塞がらない。
クーラの水では回復が追いつかないのだ。
そしてついには持っていたクーラの水がなくなってしまった。
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