第111話 蘇生したほうが早い
その光景に誰もが唖然としていると、やがてセリナがゆっくりと目を開けた。
「……ここは……」
呼吸に混じった消えそうな声でセリナは囁く。
しかし、徐に視線をこちらに向けると、静かに瞬きをした。
「――ムギトさん?」
名前を呼ぶと同時に、握っていた手に微かに力が籠る。
夢ではない。彼女は、目を覚ましたのだ。
頬を綻ばせた彼女の笑顔の眩しさに途端に視界が霞む。
そうだ。俺はもう一度この笑顔が見たくてここまで頑張ったのだ。
「セリナ――」
顔をくしゃっと歪ませ、そっと彼女を自分の元へ引き寄せ――ようとすると、隣からふわりと柔らかい赤い毛が視界に入った。アンジェだった。
「セリちゃ~~ん!!」
アンジェが俺をどかす勢いでセリナに飛びついた。その顔は今まで見たことがないくらい泣いており、みんな半笑いしながら固まっていた。
まあ、こうなるのも当然だ。
セリナがイルマの幼なじみならば、アンジェだって幼なじみだし、妹同然だったはず。彼だって必死だったのだ。
ただ、顔に出さなかった分、こうして今爆発してしまったのだろう。勢いが良すぎて近づけないが。
「ううっ……よかったわぁ……あなたまで死んでしまったら……あたし……」
泣きながらもアンジェはセリナを力強く抱きしめる。
そんなアンジェにセリナは「ごめんなさい」と言いながらなだめるように彼の背中を擦っていた。
「……ムギトさん」
不意に名前を呼ばれ、「ん?」と短く返事をする。
すると、セリナは優しく微笑み、静かに俺に告げた。
「ありがとうございます……ムギトさんがエルフを探しに行くって言ってくれなかったら……私……」
「え……いや、俺は何もやってねえよ。お前を助けたのもリオンだし」
そう言いながら視線をずらすと、リオンが得意気に口角を上げた。
そのどや顔のあさとさも可愛らしくて、俺はガシガシとリオンの頭を撫でた。
と、そこでセリナの発言に違和感を抱く。
「……もしかして、あの時の会話って全部聞こえてた?」
ドキドキしながら訊いてみるが、セリナは頬を綻ばせて目を細めるだけで何も言わない。
だが、その笑みこそが答えだ。
「やっべぇ……超恥ずかしい……」
額に手をつけ、ガクッとうなだれる。額に触れた手が熱い。
羞恥心で体温が急上昇したのが嫌というほどわかる。
というか、俺、他に何を言っただろうか。なんか、凄く必死だったのはわかるんだけど……クソ、こういう時だけセリフが思い出せん。
唸りながら頭を悩ませていると、ポンっと誰かが俺の肩を叩いた。
ふと顔を上げると、ミドリーさんが親指を立ててニッと笑っている。
「よくやった……依頼完了だ」
その言葉を耳にしてようやく実感が沸き、途端に力が抜けた。長い戦いがやっと終わったのだ。
「あはは……ありがとうございました……」
脱力した笑みを浮かべると、ミドリーさんも目を細め、パシッと俺の背中を叩く。
その隣ではフーリが腕でリオンの首元を軽く締め、ぐりぐりと彼の頭を荒く撫でていた。
「よくやったなー坊主! えらいぞー!」
「い、痛いよお兄ちゃん……」
「あっはっは! 悪い悪い! 我慢してくれ!」
「えぇ……」
と言いながらもリオンもまんざらでもないようで、頬を引き攣らせながらもちゃんと笑っていた。
先ほどまでのどん底のような暗さはどこへ行ったのやら。みんなみんな、笑ったり、うれし泣きしたりと、場が打って変わって明るくなった。
その光景が俺も嬉しくて、自然と破顔してしまう。
ただ、そんな和やかな場であっても、みんな思っていることは同じだ。
リオンの存在である。
「ところで……この子はいったい何者なのだ」
腕を組み、ひと息ついて改まったようにミドリーさんは尋ねる。
彼の治癒魔法の凄さは今の蘇生魔法だけで十分理解されただろう。
しかし、流石ミドリーさんというか、着目するところはそれだけではなかった。
「この少年……属性魔法は風なんだろう?」
「わかるんすか?」
「ああ。魔法の空気感が私よりフーリに近い。ただ、彼の場合は副属性魔法も属性魔法と同じくらいの力量を扱えている」
「ふ、副属性魔法……?」
なんだか難しい話になってきたし、初めて聞く単語も出てきた。
ただ、なんとなく意味は理解できる。
おそらくリオンで言う光属性のような属性魔法以外にも扱える魔法のことなのだろう。
「ところで、副属性って誰でも扱えるもんなのか?」
なんとなしに浮かんだ疑問をぶつけると、三人とも難しそうに首を傾げた。
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