第137話 確かによく見るけどさ

 ――次のフロアに着いた途端、俺たちは同時に天を仰いだ。

 天井が吹き抜けになっており、螺旋階段が天井に向かってどこまで伸びていたのだ。



「……マジかよこれ」



 いったい何段あるのだこの階段。考えるだけで気が遠くなりそうだ。しかし、上がるしか手立てはない。



 憂鬱に思いながらも諦めて階段を上る。

 ここまで内装が変わるくらいだ。警戒したほうがいいのだが、数十分歩いただけでそんな余裕はなくなった。



「これ……けっこう……きついな……」



 ぜいぜいと言いながら俺は呟く。「けっこう」と言いながらも正直足のほうはがたついていた。



「ここ、灯台でしょう? もっと簡単に上がれないのかしら」



「ふぅ」と息をつきながらアンジェは手で顔を煽ぐ。顔にこそ疲れが出ていないが、彼の額にも汗が光っていた。



「もしかするとここも内装が変わっているのかもな」

「それか、最初から風核針ウィンド・コア・ピンで移動していたか……」

「あ、それあり得るかも……」



 疲れを誤魔化すように無駄な推測をする。

 というか、地味にこの階段地獄は魔物と戦かうよりキツイ。



「だ、大丈夫か……リオン……」



 後ろにいるリオンがちゃんとついてきているか振り返ると、その心配をよそにリオンはケロッとしていた。

 しかも頭にはノアを乗っけている。俺もアンジェもへばって来ているのにリオンは随分と余裕だ。



「魔法で浮いているから大丈夫だよー」

「へえ、そうか魔法でねー……ってチート使ってるんじゃねえよ!」



 思わずビシッと指差すとリオンは「え?」と首を傾げた。

 そしてノアはリオンの頭の上でニタニタ笑っている。



 こいつ、リオンが魔法を使っていたことに気づいていたな。

 どうりで俺のところに来なかった訳だ。ちゃっかり一番楽をしてるんじゃねえよ、神の使いがよぉ。



 恨みを込めながらじとっとノアを睨んでいると、横にいたアンジェも振り向いた。



「凄いわリオちゃん。それって高度も上げれるの?」



 驚きながらアンジェはリオンの足元を見る。

 一緒になって下を見てみると、リオンの足は緑色に光っており、十センチくらい浮いていた。



「なるほど、天井が吹き抜けてるからこのまま飛べれば一気に行けるな」

 アンジェの目論見に合点すると、リオンも納得するようにコクリと首を振った。



「やったことないけど、やってみる」



 そう言ってリオンは背負っていた杖を横に持って両手で掲げる。すると先端の風核ウィンド・コアがぼんやりと光り、リオンの体がふわりと浮いた。



「おお」

「まあ!」



 ゆっくりと向上するリオンに俺とアンジェも感嘆の声をあげる。

 両手が塞がっているから攻撃はできなさそうだが、風核ウィンド・コアの魔力も使えば自分の体は浮かせられるようだ。

 本当にこのハーフエルフさんの魔法は風に関してはなんでもありだ。



「でも、腕が痛いから大変」

「そう……魔力より体のほうが持たないって訳ね」



 確かにこの宙ぶらりんの状態は体制がきつそうである。

 魔法で体をさらに軽くしているだろうが、リオンの華奢な体だと、そんなに長くは持たなさそうだ。



「疲れちゃう前に様子見てくるね」



 そう言うリオンに空気を読んだノアが彼から飛び降りる。

 それからはリオンは魔女っ子……には程遠いが、杖にぶら下がったままさらに高度を上げてスーッと天井に向かって飛んで行った。



「無理すんなよー」

「よろしくねー、リオちゃーん」



 あっという間に小さくなるリオンに向けて俺とアンジェは口元に手を当てながら彼を見送る。



 彼を見送り終えると、二人して深く息を吐き、その場にしゃがみ込んだ。



「流石にちょっと疲れたわね……」

「本当だな……パルスの性格の悪さがよくわかる」



 やれやれと思いながら、天を仰ぐ。

 相変わらず階段はどこまで続いており、これを上がり切るだけで日が暮れそうである。



 上がり切ったら上がり切ったでおそらくパルスと戦かう頃には体力がなくなっていそうだ。

 頭がいいというか、嫌らしさが爆発している。



「いったいパルスの目的ってなんなのかしらね」

「なんなのって……俺たちが苦しんでいるのを見て楽しんでいるんだろ」

「そうかもしれないけど……最初から妙にまどろっこしくない?」

「最初から?」



 アンジェに言われてつい首を傾げると、アンジェは「そう」と深く頷いた。

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