第6話 魔法と階級は男のロマン

「ほらよ。どうせこっちの言葉なんてわからないだろうから、お前の母国語でルビを振ってやった。感謝しろよ」

「おお、ありがたい。流石案内人様だ」

「チッ……こういう時だけ……」



 ノアは小さく舌打ちをしながら小さくため息をつく。

 しかし、そんな彼にも構わず、俺は自分が使える魔法を見ていた。



 まず、最初に目に入ったのはこの二つだった。



 ・大爆発魔法イクスプリジッド……魔力マジックパワー:三十

 ・集団即死魔法ディジリッド……魔力マジックパワー:十五



 なんかいきなり凄そうなのと物騒なのが入っている。

 けれども、「大爆発」だなんて最初から範囲攻撃が使えるとはついている。試しがいがあるではないか。



「おっしゃ! やってやるぜ!」



 さっそく手を正面に突き出して呪文を唱える。



大爆発魔法イクスプリジッド!」



 ……だが、何も起こらない。

 ただ、爆発音の代わりに横でノアが「ブハッ!」と吹き出している。



「何してるんだお前……自分の魔力マジックパワーを見てみろよ」



 必死に笑いながらもノアは前足を振ってステータスボードの画面を変える。

 そこで確認できた魔力マジックパワーに俺は絶句した。



「さ……三だって?」



 何度見ても結果は同じ。俺の魔力マジックパワーはたったの三しかなかった。



「どういうことだよ三って! これじゃなんも魔法撃てないじゃねえか!」

 


 ステータスボードを指差してノアに詰め寄るが、ノアはかったるそうに息をつく。



「しゃーねえだろ。お前の階級クラスがそういう能力アビリティなんだから」

「俺の階級クラス?」



 階級クラス……そのキャラクターの職業や肩書きのようなもので、ゲームでよくあるのは「剣士」「魔法使い」「騎士」などなど。そのキャラクターの特色や強みが顕著に現れるものだ。



 それにしても転生して得た階級クラスにそんな魔力マジックパワーに影響するだなんて……いったいどんな階級クラスなのだ。

 緊張しながら、階級クラスの項目を探す。

 そして見つけたその内容に目を疑った。



「……【赤子の悪魔ベビー・サタン】?」



 なんだこの聞いたことのあるワードは。それに、手前の余計な単語はなんだ。



「これはもしや……強力な魔法が使えるけど、まだ赤ん坊だから魔力が足りなくて全然扱えないってこと?」



 助けを求めるようにノアに訊くがノアはそれこそ悪魔のようなにたついた笑みを浮かべて、深く頷いた。



「ちょっと待て! なんだよこの階級クラス!」

「知るかよ。お前に適性だった階級クラスがこれだったんだ」

「なんでこれから魔王倒しに行く奴の適性が魔王側の階級クラスなんだよ! どう見てもハズレだろ!」

「しゃーないだろ結果がそれなんだから。それに、【赤子の悪魔ベビー・サタン】を馬鹿にするな。奴らだって生きてるんだ。ぞんざいに扱うんじゃねえ」

「俺の命をぞんざいに扱った奴に言われたかねえよ!!」



 余すことなくツッコミを入れるが、ノアは鬱陶しそうに自分の肉球で耳を塞ぐ。

 それでも俺は構わずにノアに向かって前のめりになって捲し立てた。



「どうするんだよこれ! 強力な魔法持っていても使えなきゃ意味ねえじゃん!」

「待て待て、よく見ろ。使える魔法もあるだろ」



 ノアは前足を上げながらステータスボードを指す。

 すると、確かに彼の言う通り上記二つ以外にも使える魔法があった。



 ・自己犠牲魔法サクリファイド……魔法マジックパワー:零



 絶 対 使 い た く な い 。

 というか、使えても一発死亡ゲームオーバーじゃねえか。



 渋い顔をしていると、ノアが俺の胸内を察したように口を開いた。



「まあ、発展途上とはいえ、最初から強い魔法持ってるんだ。お前の望み通りじゃねえか。それに、一人くらい悪魔系の勇者がいたっていいだろ?」

「確かに『悪魔の子』と呼ばれてる勇者いたけどよ。むしろ最新作それだけどよ」



 ツッコミは入れるが、頭は自然とうなだれた。なんだか俺、ノアに会ってからずっと突っ込んでばかりな気がする。

 いい加減、ツッコミを入れるのも疲れてきた。



「もう……わかったからさっさと街にでも行こうぜ」



 こうなったらさっさと魔王を倒して生き返ってやる。

 そんな意気込みとは反比例するように、俺の口からは深いため息が出た。



 街についたら、温かいベッドに横になって休みたい。

 そんなことを思いつつ、俺は一歩踏みだした。



 その時だ。



「ピギャ!」

「……ぴぎゃ?」



 聞いたこともない甲高い鳴き声と足元の柔らかい感触に思わず歩みを止める。


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