第122話 そして新たな依頼《クエスト》へ
ミドリー神官の誘拐。
この一大事に居ても立っても居られない俺たちは昼食を取ったあと、すぐにギルドに向かった。
かといって事を大きくできることもなく、ごく数人……具体的にはフーリとセバスさんのみこの現状を伝えた。
「おいおい、マジかよ」
この事件の勃発にフーリは唖然としていた。
魔王の配下が絡んでいる以上、悪戯とも言い難い現状。だが、いかんせん詳細がわかっていない。
「セバスさん。他の地方で神官様が戻っていないとか情報ないの?」
アンジェの問いにセバスさんは腕を組んで「う~ん」と悩む。
教会の会合が頻繁に開かれている情報は入っているのだ。帰ってきていないという情報も入っていたっておかしくはない。
ただ、教会も事を大きくしたくないのか、それとも現状を知っていないのか、そういった情報はまだ入っていないらしい。
「その代わり、新米の【
クイッと眼鏡を上げながら答えるセバスさん。これは、一理ありそうである。
「といっても、誘拐された神官を探すって言ったってどこから探せばいいんだ?」
この世界全域となると雲を摑むような話になる。
虱潰しに探したって時間切れになるのがオチだし、その間に魔王復活どころか世界が滅んでいるかもしれない。
だが、そこはアンジェが目星をつけていた。
「『未解決の
そう言ってアンジェは鞄の中から一枚の紙を出す。それはギルドからの依頼書で、前に彼がセリナから受け取ったものだった。
「それ、私も覚えてます。確か内容は、内容は『街の周辺に魔王の配下を見かけたから退治してほしい』というもの。そして場所は――」
「貿易の街『カトミア』」
セリナのセリフにアンジェがかぶせるように言う。
言われてみると俺も思い出してきた。俺がまだこの世界に来たばかりの時、アンジェがひとりで受けた
「その時って結局魔王の配下って見つからなかったんだっけ?」
「そう。結局時間切れで強制終了。その時は魔王の配下の情報も掴めなかった……でも、相手が人に化ける
アンジェがたどり着いた時にはもうすでに街の中にグルがいて、情報を撹乱させているというのであれば自体は変わってくる。
これは、もう一度『カトミア』に行く価値はありそうだ。
俺とアンジェは互いを見合わせながら「うん」と頷く。
そして二人で同時に、カウンター越しにいるフーリに顔を向けた。
「……あ、やっぱり、そこまで運ぶの俺?」
「モチのロン」
「お願いフーリ~。頼めるのあなたしかいないの~」
目を光らせながら親指を立てる俺と、わざとらしくくねくねと腰を振って請うアンジェに、フーリは諦めたように息を吐く。
「まあ、そうなるよな……そんな訳で、ちょっと行ってきていいっすか、セバスさん」
「当然です。神官様の救出は最優先の任務ですから、みなさんのお力になってください」
「それに、もう私も復帰できます!」
セバスさんの横でセリナがガッツポーズを取りながら深く頷く。フーリが抜ける穴はセリナが補ってくれるそうだ。
「それに、セリちゃんには個人的なお願いもあるしね」
にこっと笑いながらアンジェはセリナに一枚の紙を渡す。おそらくこれが先ほど話していた彼女に頼む調べものなのだろう。
「セリナに何を調べてもらうんだ?」
そう尋ねてもアンジェは人差し指を口に当てるだけで、答えは言わなかった。
「今は内緒。核心が持てるようになってから……ね」
ウインクしながら返すアンジェ。意味深な言葉が気になるが、彼が話さないならそれまでだ。
「まあ、お前らを送るのはいいんだけどよ……リオンはどうするんだ?」
頭を掻きながら言うフーリの素朴な疑問に、俺とアンジェは「あ」と口を揃える。
遠出になるからまた家を空けそうだし、だからと言ってまだ子供のリオンを連れて行くのは気が引ける。
そう思っていたが、リオンのほうから話を切り出してきた。
「僕も行く。ミドリーのおじさんたちを助ける」
その大きな眼差しは凛としており、彼の答えに迷いはない。だが、また魔王の配下と戦うのだ。また危ない橋を渡ることになるのだが……意外にもノアが口を挟んできた。
「いいじゃねえか。少なくともお前より使えるだろ」
「悪かったな、使えなくて」
ごもっとも。このパーティーで一番弱いのは他でもなく俺である……言わせんなこの野郎。
顔をしかめる俺だったが、その隣ではアンジェが「よし」と納得するように頷いた。
「リオちゃんがそう言ってくれるなら心強いわ。さっそく行くとしましょう」
「おー」
アンジェの号令にリオンも気合いを入れるように拳を掲げる。
目指すは『カトミア』。目的は攫われた神官の救出。
気持ちを新たに、次の冒険がスタートする。
七章【崩壊の足音】終
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