第71話 森を抜けたその先に
魔法を詠唱すると、放たれた青い光がパァン!と分裂した。
弾けた青い光は骸の形に変化し、エレメントたちの元へ飛んでいく。
そして骸を模った光が奴らを貫通した時、この森につんざく金切り声が一面に轟いた。
陽炎に似た紫色の靄が燃えるように広がる。エレメントたちが絶命したのだ。
だが俺は奴らの最期を見届けることなく、その場で膝を落とした。
あの魔法を放ってからいきなり全身に力が入らなくなった。
ただ、ポタポタとエレメントたちが残した
うずくまったまま呆然としていていると、森の空気が変わった気配を感じた。
力を振り絞って体を起こし上げると、あれだけ霧のように濃かった『陰の気』が少し晴れていることに気づいた。
ひょっとすると、あの死神をぶっ倒したから『陰の気』が弱まったのかもしれない。
そうだ。こんなところでうかうかしてられないのだった。
振り返り、後ろで横たわるアンジェに近づく。
「アンジェ?」
小声で名を呼んでみるが、やはり反応はなかった。
震える手で恐る恐る彼の脈を計る。すると、かろうじて脈拍を感じとることができた。危ない容態であるには変わりないが、彼はまだ生きている。
ひとつ山を越えたからか、俺自身落ち着きを取り戻しつつあった。
ひとまずここをさっさと出よう。話はそれからだ。
アンジェの腹部からは未だに血が出ていたので、彼の鞄から包帯を拝借し、傷口に巻いた。これで止血できるかはわからないが、しないよりはマシだろう。
あとはお互いの武器や転がった
よろめきながら、森の奥へと再び歩き出す。
歩いているうちにだんだん意識が
一歩足を進めるたびに頭が絞めつけられるように痛むし、まっすぐに歩けているのかわからないほどくらくらと眩暈がした。
それでも俺は、ひたすら森の中を歩いた。
そうしてしばらく歩いていると、途端に目の前が明るくなった。あれだけ重苦しかった空気も晴れ、爽やかな風が吹き抜けた。
この環境の変化に辺りを見渡してみるが、目を開けるのもやっとで周りの景色もぼんやりとしか見えなかった。
「エルフ……探さないと……」
自分に言い聞かせるように独り言ちる。しかし、再び一歩踏み入れたところでガソリンが切れたようで、風に流されるようにその場で倒れ込んだ。
懐かしい草の臭いがする。
それに、陽の光が暖かい。
どうやら本当に森を抜けたみたいだ。
このままだと、この温もりに溶けてしまう。
だめだ。もう限界だ。
そう思った時、向こう側から誰かの足音が聞こえた。
ぼうっとした意識でその足音を聞いていると、間もなくして小さな足が俺の頭元で立ち止まった。
「……だあれ?」
幼い声が不思議そうな声で尋ねる。徐に視線を上げると、小さな影が俺を見下ろしていた。
しかし、それ以上応えることができず、その影の顔を拝む前に俺は力尽きてしまった。
もう瞼を開けることもできず、静かに意識が遠退いていく。
ただ、そんな真っ暗な世界の中で、強い風の音だけが脳内に響いていた。
四章【狙われたギルド】終
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