第51話 残念ながら僕らは魂の伴侶《ソウルメイト》
突然のことで目が点になる。
けれどもノアは呼吸をするように背中から羽を生やし、無言で窓を開けた。
「待て待て待て! もう行こうとするな!」
窓の縁に足を開け、今にも飛び立とうとするノアを止める。
しかし、ノアは「なんだよ」と不機嫌そうに顔をしかめた。
「『なんだよ』じゃねえよ。なんで呼ばれたか説明しろよ」
「それは俺が知りてえわ。ニートのお前にわかるか? 上司から用件も何ひとつ言われずに呼び出しくらうこの恐怖を」
「だからニートじゃねえから! まだ学生だから!」
クワッと口を開けてツッコミを入れるが、ノアには億劫そうに欠伸をされた。人の姿になってもいちいちムカつく奴だ。
「そもそも、俺たち契約してるんじゃないのかよ。離れていいものなのか?」
「それは問題ない。残念ながら契約はそう簡単に切れるもんじゃねえ。お前が俺の前から逃げようが効力は続く」
「なるほど、魂が一心同体って訳な。クッソほど嬉しくねえけど」
「そりゃお互い様だ」
眉をひそめる俺を「シッシッ」とあしらうようにノアは言う。
「と言っても、かかっても二、三日くらいだろ。俺がいなくてできなくなるのはせいぜいステータスボードが観れないくらいだ」
言われてみるとこいつがいなくても大して困らない。
どうせレベルは上がっても気づかないし、ステータスの伸びも悪い。数日程度では然程変化はないだろう。それに、わからないことがあればアンジェに聞けばいい。
「どうせ神様に会うなら魔王の情報くらいもらってこいよ」
「言われなくてもわかってる。お前も死んだらぶっ殺すからな」
「へいへい。こっちも二度も殺されてたまるかよ」
わざとらしく半目にして返すと、ノアは煙たそうな表情で窓の縁を蹴った。
羽を広げたノアは飛んだと思うとそのまま白い発光体に包まれて消えた。その姿はまさしく天使そのもので、今まで半信半疑だった「神の使い」というのにようやく信憑性が増した。
さて、ノアもいなくなって清々したところだし、俺も朝食を取ることにしよう。
欠伸をしながら寝巻のままリビングに行く。
そこではアンジェが優雅に紅茶を飲んでひと休みしていた。
「おはようムギちゃん……あら、ノアちゃんは?」
ノアがいないことに気づいたアンジェは不思議そうに首を傾げる。だが、ここで馬鹿正直に「上司に呼ばれた」なんて言っても意味不明なので、適当に誤魔化すことにした。
「まあ……あれだ。猫の集会って奴?」
噓が下手くそか俺は。
と、思ったのだが、アンジェのほうから「野暮用って奴ね」と深入りしないでくれた。本当、空気を読んでくれる良い人だ。
「ノアちゃんがいないのは淋しいけど……ひとまず今日も集会所に行きましょうか」
「そうだな。それしかやることねえし」
息をつき、椅子に座って皿に置かれたパンを口に入れる。差し詰め今日も
それでもアンジェは張り切っており、「頑張るわよ」と俺の背中を押した。
朝の準備と言っても、あとは俺の仕度が終わればいいので、そこまで時間がかからずに出発ができた。
この様子だと、ちょうど集会所が開く頃にたどり着きそうだ。
いつもより早い時間に着いたからか、市場も集会所前の広間もそこまで人がいなかった。人だかりができるほど賑わうのはもう少し後からなのだろう。
いざ、集会所へと入る。
――ギルド員の朝は早い……というのは言ってみたかっただけで、来ているのは俺たち二人と職員の【
「たまにはこんな時間もいいわね」
アンジェがフフッと笑う。
彼の言う通り、変に騒がしくないし、いつも混み合う
【
カウンターの後ろで荷物を持った彼らがひっきりなしに右往左往している。
この時間帯だとギルド員も来ないことが彼らもわかっているようで、受付にいるのはセリナだけだった。
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