4章 狙われたギルド

第50話 一周まわって振り出しに戻る

 さて、正式にアンジェと「魔王討伐同盟」を組んだので、翌日からさっそく今後のことを打ち合わせすることにした。



「ところで、この前の依頼クエストって収穫あったのか?」



 先日アンジェが買ってくれたミレアを頬張りながら尋ねるが、彼の表情は浮かなかった。



「ぶっちゃけるとね、ハズレだったの」

「ハズレだって?」



 初めてのパターンに思わず素っ頓狂な声をあげてしまうが、こんなこともなくはないらしい。



「『街の周辺で魔王の配下を見かけたから倒してほしい』っていう内容だったんだけど、結局見つからなくてね。タイムオーバーで帰ってきちゃった」



 魔王の配下には街を襲う輩もいる。貿易区だから先方は早く倒してほしいようだったが、アンジェいわく街の中や周辺を探しても何も見つからなかったらしい。



 それで先方はアンジェのようなギルド員でなく、傭兵を雇って街の整備の強化を図ったとかなんとか。つまり、ほぼ無駄足だ。



「謝礼はもらったとはいえ、あんまりよね」

「お手上げ」と言うようにアンジェは両手を広げ、ため息をつく。

「ルソードの時はすぐ見つけられたのに……あいつ、三下だったからかしら」

「三下とか言ってやるな……俺、そんな奴に殺されかけたんだから」



 半笑いで返すとアンジェの頬が引き攣った。

 とはいえ、ルソードの時は相当運が良かったようで、ピンポイントで魔王の配下を見つけるのも骨が折れるらしい。



 魔王の配下を見つけるのも大変だが、魔王本体を探すのも大変だ。なんせこちらのほうがもっと情報がない。

 わかっているのはまだ、、復活しないということ。

だが、これはノアの受け売りだ。これを言うと色々説明するのが面倒だからアンジェには言ってない。



「つまり、振り出しってことな……」



 頼りになるのはギルド経由の情報……手持ちのカードがゼロである今はセリナからの連絡を待つしかない。



「とにかく今はどうなってもいいようにギルドの仕事をして準備を整えておきましょ」

「まあ、それが最善だよな」



 情報がないとはいえ、やることはたくさんある。武器や防具の強化、コアの採取、そして俺のレベル上げだ。それに、依頼クエストをこなしていくうちに情報も得られるかもしれない。



 そんな理由から、しばらくは魔王の配下の討伐は休み、手頃な依頼クエストをこなしていった。



 そうしているうちにだんだん自分たちの中で活動のルーティンができてきた。



 朝起きて、午前中にギルドの集会所へ行き依頼クエストの確認。良さそうなのがあればその場で受けて、その日のうちに依頼クエストを完了させる。どうしても依頼クエストがない日は市場へ行って買い出しをしたり、俺は俺で魔法の修行をする。



 一見代わり映えのない日々なのだが、依頼クエストの内容は日によって違うし、少しずつ自分が強くなっているような気がして不満は一切なかった。



 そんなことを繰り返して十日くらい経ったある朝。



「……おい、起きろ」



 今日もノアに起こされたので、俺は半分寝ながらもうっすらと目を開けた。



 だが、この日はなんだかノアの様子がおかしかった。いつもなら目を開けるとノアの顔面が視界に入るのだが、今回は頭上から声が聞こえただけだ。

 ぼうっとしながら起き上がって掛け布団の周りを見てみるが、やはり見つけられない。



「お前……まだ寝てるのか?」



 ノアの呆れたような声が横からしたので、寝ぼけたまま徐ろに顔を向ける。

 しかし、そこにいたのは猫のノアではなかった。



「うわっ! びっくりした!」



 俺が仰天した声をあげるのも無理はないだろう。

 なんせ、俺の横にローブを着た水色の長い髪の青年が立っているのだ。

 しかし、彼こそがノアだ。すっかり猫として定着していたが、これこそが本来の姿なのである。



「なんだよその格好! 驚かすんじゃねえよ!」



 朝っぱらから予言なしていきなりその姿で現れるなんて心臓に悪い。起こすならもっと丁寧に優しく起こしてほしいものだ。

 しかし、ノアは「やれやれ」とため息をついた。



「お前、俺の顔忘れてただろ」

「こんだけ会ってなかったら忘れるわ。すぐに認識しただけでも感謝しろ。というか、異世界でもその姿になれるのかよ」

「むしろなぜなれないと思った。確かにお前以外の奴には認識されないが、自由に姿を変えられる。ただ、猫の姿あれのほうが動きやすいってだけだ」



 そう言ってノアは腕を組んで舌打ちをする。

 そんな彼が今になってこの姿になっているのは訳があった。



「呼び出しくらった。ちょっくら上司のところに行ってくる」

「……は?」

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