第203話 SS:エムメルクの再構築 ③

 だが、オズモンド神官長が驚いたのはこれだけれはない。



「兄ちゃーん!」



 満面の笑みで彼の元へ走っていくリオちゃん。そんなリオちゃんを両腕広げて受け止めるエルフの長君。真顔を取り繕っているつもりだが、口角はしっかりと上がっている。リオちゃんとの再会の嬉しさが隠しきれていないみたいだ。



 そんな兄弟が感動的な再会をしている最中、オズモンド神官長は一人ぽかんとしていた。



「に、兄ちゃん……だと?」



 瞬きをしながらオズモンド神官長はうわ言のように呟く。どうやら、エルフの長がリオちゃんの兄だとは思っていなかったらしい。



「まさかこんなに若い者とは……それに、彼がリオンの兄か。言われてみれば、少し顔立ちが似ているな……」

「二人共お父さん似らしいですから」



「フフッ」と笑いながら、あたしもリオちゃんたちに近寄る。顔見知りなのだから、挨拶くらいしなければ。



「はぁい、ライザちゃん。あなたなら来てくれると思ったわ」

「『ちゃんづけ』するんじゃねえ、クソカマ野郎。眉間撃ち抜くぞ」



 そう言いながらも、彼は即座にホルスターから自身の銃を出し、あたしの眉間に銃口を当てた。

 眉間にしわが刻まれた顔が怖い。これは、本当に打ってきそうだ。



「もー、相変わらずつれないんだから。なら、ライザ君なら?」



 とりあえず両手をあげて降伏しながら提案すると、ライザ君は「……勝手にしろ」と言いながら銃口を下ろした。



 ちなみに「ライちゃん」ではない理由は、ムギちゃんの弟「ライトちゃん」と呼び名を区別させるためだ。呼ぶ機会があるかは、怪しいが。



「ったく……わざわざ来てやったというのにうざってぇな」



 そう言いながらホルスターに銃をしまい、軽くリオちゃんの頭を撫でたライザちゃんは、軽く辺りを見回した。



「おいカマ野郎。あいつは、行ったのか?」



 名前を告げなくても、「あいつ」が誰なのかはすぐにわかった。ライザちゃんが事態を知っていることは意外だったが、察しの良い彼なら不思議ではない。



「……ええ、無事にね」



 それだけ言うと、ライザちゃんは「そうか」と一言呟き、改まってオズモンド神官長に近寄った。



「神官長のオズモンドだ。このたびは遠路はるばる来てくれて感謝する」

「別に……道具を使ったから一瞬だ」

「そうか……いや、すまん。正直、来てくれるか不安だった。私が言える口ではないが、こう──エルフとの間の溝は深いと思っていたから」



 オズモンド神官長は探るように、だが、しっかりと自分の本心を伝えた。

 そんな彼を見てライザ君は「ああ……」とぼそりとささやいた。



「なあに……俺もどっかの馬鹿に感化されただけだよ」



 そう青い空を仰ぐライザ君の顔は安らかで、どこか寂しそうだった。その寂しさの理由は粗方想像できるが、彼を見ていると茶化す気は起きなかった。



「んで……俺はどうすればいい? 打ち合わせをするんだろ?」

「ああ。その件だが少し待ってくれ。多分、そろそろ……」



 と、オズモンド神官長が言いかけたところでギルドのほうから見慣れた三人がやってきた。一人はセリちゃん。そしてもう二人は、フーリとミドリー神官だ。



 この街を去ってから一週間も経っていないのに、何年も会っていなかったような錯覚に陥った。胸の奥がほっこりと温かくなる。



 二人もあたしと同じ気持ちだったようで、あたしの顔を見た途端にっこりと笑った。



「ご苦労だったな、アンジェ」

「本当、よくやったよ」



 フーリにもミドリー神官にもバンバンと背中を叩かれる。二人共力任せに叩くものだから、背中がじんじんとする。特にミドリー神官。彼がこんなに加減なく激励することなんてこれまであっただろうか。確かに、それくらいのことをあたしたちはやり遂げたのだが。



 そんなことをしている中、ライザ君は待ちくたびれたのかいつの間にか煙草を吹かしていた。



 これには流石のオズモンド神官長も「すまない」と平謝りをする。どうやら待っていたのはこの二人らしい。



「改めて紹介する。この街の神官を務めるミドリーと、ギルドに勤めるフーリだ。フーリは馬の扱いも上手くてな。物資や商品の配送も行ってくれている」

「紹介に預かったミドリーだ。リオンには世話になった」

「フーリだ。おそらく里に出入りするのは俺になるだろうから、よろしく頼む」

「こちらこそ」



 煙草を咥えながらミドリー神官とフーリに握手をするライザ君。態度は置いておいて、握手なんて友好的なことをすると思っていなかったから意外だった。



 それに流石オズモンド神官長というべきか、配送役にフーリを指名するのは見事な割り当てだ。彼は優秀だし、何よりリオちゃんとも親しい。



「どうやら、上手く行きそうですね」



 この様子にセリちゃんも微笑む。先行きが良さそうな感じで、あたしも安心だ。



 出だしは上々。あとは問題をあぶり出していくだけだろう。なんせエルフの里は何十年も時が止まっているような発展途上地帯だ。



「確認だけど……エルフの人って魔法道具とか使えるのか?」

「使えるのは俺だけだろうな。といっても、使えるのもこいつの母親が残してくれた物だけだ」



 そう言いながら、ライザ君はポケットから緑色の水晶玉と風核針ウィンド・コア・ピンによく似た羽ペンを取り出した。その出てきた魔法道具を見て、フーリたちは「おお」と目を丸くさせた。

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