第204話 SS:エムメルクの再構築 ④
「なんだこれ。初めて見た」
「そちら、対象物の追跡と瞬間移動両方を兼ね揃えた道具なんですよ」
「ほぉ……こんな物が作れるなんて……なんて優秀な【
「それは……リオンの母親が作った」
唸るフーリとミドリー神官にライザ君がぼそっと呟く。
その答えにフーリとミドリー神官はさらに「ほう」と唸る中、フーリが思い出したように「あ」と漏らした。
「リオンの母ちゃんが作ったってことは、これってオリビアが作った奴じゃん。すげー、初めて見た。」
「お、お、お前、オリビアを知ってるのか?」
フーリの何気ない発言に、ライザ君がうろたえる。いつも淡々としている彼だが、なんの前触れもなく出てきた「オリビア」の名前には動揺せざるを得ないらしい。
だが、冷静な彼をここまで食いつかせておきながら、フーリはばつが悪そうに頭を掻いた。
「あー……悪い。知っているのは名前だけだ。彼女が活躍していた時は多分生まれてないし」
「でも、『オルヴィルカ』の【
「なんせ今のギルドの礎を気づいた人だからな」
「彼女がいなければ、今のギルドはなかったと思います」
「へえ、あの人がねえ……」
目を輝かせながら誇らしげに語るセリちゃんとフーリを前にライザ君は他人事のようにぼやくが、口元はしっかりと上がっていた。嬉しいなら嬉しいと言えばいいのに、素直じゃないところが本当に可愛らしい。
そんな彼の表情を見てミドリー神官も色々察したのだろう。頬を綻ばせながら彼らの会話に割り込んだ。
「私は会ったことがあるぞ。まだこの街に神官として赴任した時、彼女にはお世話になった。好奇心旺盛で、探求心があって、それでいて明朗な人だった。素敵な人だったよ、君の継母は」
「……当然だ。こいつの母親なんだから。でも、そっか。この街がオリビアが暮らした街か……」
ミドリー神官の証言を噛みしめた後、ライザ君は空を仰ぎながら「スゥ」と息を吐いた。継母であるオリビアの暮らした街の空気を体に取りこんでいるみたいだ。きっと肌で、体で、感じているのだろう。彼女がいた、痕跡を。
「……運命とは、なんて不思議なものだろうか。突然街を飛び出した彼女が、何十年もの時を経てから、人とエルフを繋げようとしている。そして、そんな我々を繋ぐきっかけを与えているのが人とエルフの混血児とは、誰が想像できただろう」
空を仰ぐライザ君の隣に並びならが、オズモンド神官長が呟く。
ライザ君はそんな彼に目を向けず、「そうだな」と小さく返した。
「──でも、運命って案外そういうものかもしれない」
「フッ。その通りだ」
ライザ君の言葉にオズモンド神官長が笑う。
でも、彼の言う通りだ。『オルヴィルカ』はエルフと繋がる。それが、運命だった。その時がいつか、わからなかっただけで。
みんながしみじみとしている中、リオちゃんがとことことライザ君の元まで歩み寄る。
「兄ちゃん。お母さんの言った通りだったね」
「ん? 言った通りって、どれのことだ?」
唐突に言ってくるリオちゃんにライザ君は首を傾げる。すると、リオちゃんはあどけない笑顔でこう答えた。
「お母さん、言ってたんでしょ? 『この世界は広くて、美しい』って。みんなにも、早く教えてあげなくちゃ」
その答えにライザ君は驚いたように目を瞠ったが、すぐに破顔してリオちゃんの頭を優しく撫でた。
「そうだな……お前、教えてあげるの頑張れるか」
「うん!」
ライザ君の請いに元気よく頷くリオちゃん。その光景だけでその場にいた誰もが察したはずだ。「もうエルフの里は大丈夫」と。
「これからギルドは忙しくなるわね。頑張ってね、フーリ、セリちゃん」
ポンポンッと彼らの腰を叩いて激励を送る。だが、そう言ったところでなぜかフーリは気まずそうだ。
「えっと……俺は頑張るけど、セリナは……その……」
珍しくまごまごするフーリに思わず眉をひそめる。
逃げるように視線を逸らした彼と目が合うセリちゃん。彼とは裏腹に、セリちゃんはニコッと笑ってはっきりと告げた。
「私、『イルニス』に移住しようと思うんです」
「──え?」
自分でもびっくりするくらい間抜けな声だった。
「セリナちゃん……『イルニス』に引っ越すの?」
リオちゃんにも聞こえていたらしく、ライザ君の元から離れてセリちゃんのほうへと駆け寄る。しかし、どんなにリオちゃんに淋し気な顔をされても、彼女の答えは変わらないだろう。
「やはり、一番被害はあるのは『イルニス』ですから。私の
「そうね……【
『オルヴィルカ』に戻る前、彼女が深く考え込んでいた理由がわかった。ただでさえ魔王の根城に一番近い街だったのに、ケインが街を爆破させたところも彼女は目の当たりにしている。
「どうにかできる」力を持っているのなら、「どうにかしてあげたい」と思うのは自然なことだった。
しかし、彼女が『イルニス』に移住する理由はそれだけではなかった。
「それに──あの人が帰ってきた時の居場所を作ってあげたいのです」
そう言って彼女は青い空を仰いだ。眉尻は切なそうに下がっていたが、その顔は清々しく、迷いないように見えた。
──そんな顔をされたら、誰も彼女を引き留めることなどできなかった。
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