第26話 初ダンジョンといえば洞窟が鉄板っすね
スライムだけでない。
一本角を生やした子虎のような魔物。
首が異様に細長い鳥。
人参に足を生やした妖怪みたいな謎の生物。
いろんな魔物が辺りをうろついている。
ただし、どの魔物も襲ってくるような気配はなかった。
「おいノア。スライムとかいるけど、あいつら襲ってこねえじゃん」
アンジェに聞こえないよう、頭上にいるノアに小声で尋ねる。
すると、ノアは欠伸混じりで退屈そうにこう答えた。
「あの程度の雑魚なら余程キレることをして、相手に見下されてない限り襲ってこねえよ」
「あれ? ワタクシ昨日スライムさんに襲われた気がするのですが」
「余程キレることをしたうえに相手に見下されたんだろうよ」
ノアにピシャリと言われ、「ぐぬぬ」と言葉に詰まる。
つまり、スライムに襲われている時点で雑魚確定ではないか。俺が。
ぐうの音も出ないでいると、頭上でノアが呆れたように息をついた。
「まあ、魔物も人間と同じようにいろんな奴がいるからな。喧嘩っ早い奴もいれば、単純に凶暴な奴もいる。強さのステータス関係なく問答無用で襲ってくるのもいるから注意しろよ。お前の防御、三しか上がってねえから」
「は? 三? 片手で?」
「両手一式だよ面倒くせえ」
吐き捨てるようにノアに言われ、改めてつけた小手を見る。
甲を守る青い緩衝材は相変わらずプニプニと柔らかい。これが守備力一.五しかないというのか。
せっかくセリナが作ってくれたのに……あんなに大々的にやってくれたのに……。
腑に落ちないでいると、ノアが「やれやれ」と半ば呆れながら話を続けた。
「雑魚敵で作った小手が強い訳ないだろ。それと防具が増えたからって力を過信するなよ。お前はまだまだ弱え」
「うっ……」
ここまで正論を完膚なきまで言われると流石の俺も何も言えなかった。
確かに、振り返ると俺の戦歴は逃走一回(しかも失敗)にスライムに辛勝。彼の言う通り、戦闘力は皆無に等しい。
「それくらいわかってるよ……」
と、強がってみたものの、そこまではっきりと言われるとちょっとへこんだ。
肩を落としながらとぼとぼ歩いていると、やがて小高い山々が見えてきた。
「ほら、見て見て。あそこの麓に洞窟はあるのよ」
アンジェが指差したのは一際目立つ大きな岩山だった。よく見ると岩山には穴が空いており、そこから滝のように水が溢れている。
「何あれ……すげー……」
岩山から流れる滝にあんぐりとする。
そんな俺のリアクションを見てアンジェは「ウフッ」と口角を上げる。
「近くに行くとさらに凄いのよ。さ、行きましょ行きましょ!」
余程楽しいのか、アンジェは軽やかにスキップをしてどんどん先へ進んでいく。
「これは完全に遠足だな……」
当初の目的を忘れそうになりながらも、俺は鼻歌混じりのアンジェに着いていった。
◆ ◆ ◆
例の岩山に近づくと、道端にクーラの洞窟を導く看板が再び立っていた。
看板の横には木の板でできた道がある。アンジェいわく、この道を行けばすぐ洞窟に着くらしい。
あれだけ水が流れていたこともあってか、辺りは湿原のように水浸しになっていた。
この板でできた道も先人が洞窟を行き来しやすいように作ったのだと言う。
道なりに進むと、間もなくして岩山の麓にたどり着いた。
岩山にはくっきりと大きな穴が空いてそこが洞窟になっていた。
洞窟の入り口には看板が刺さっており、そこにはちゃんと「クーラの洞窟」と書かれている。
「ここからが本番か……」
洞窟の奥からビュービューと風の音が聞こえる。だが、その先は真っ暗でここからは何も見えず、少しばかり恐怖を感じた。
それでも、アンジェはためらうことなく洞窟の中へと進んでいく。
「足場悪いから気をつけるのよ」
「お、おう」
アンジェにエスコートされながら、俺も洞窟の中を行く。
彼の言う通り洞窟の中は水浸しで、気を抜くとつるりと滑ってしまいそうだった。
「こんなに暗いのに、奥まで行けるのか?」
入り口付近はまだ光が射しているから視界は見える。しかし、その光も少し先へ行っただけで届かなくなってしまう。
そんな懸念を抱いていたが、心配は無用だった。
「ところどころ燭台が置いてあるから大丈夫よ。ほら、さっそくあそこにもある」
アンジェが指差したところには、確かに木でできた燭台が何個も置かれていた。
俺たちの身長くらいある大きめの燭台なので、これらに明かりを灯すだけでかなり明るくなりそうだ。
「こういうのは、あたしに任せて」
パチンとウインクしたアンジェは徐に腰に差した剣を抜く。
「そーれ」
その掛け声と共に剣の切っ先を向けると、火炎放射のように炎が出た。
アンジェが出した炎でどんどん燭台に明かりが灯る。これでしばらくは明かりに困らないだろう。
炎の属性魔法……便利だ。
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