第25話 「たいせつなもの」に入るアイテムな気がする
集会所を出ると、外は相変わらず賑わっていた。
空は晴天。風は涼風。お出かけ日和で、買い物日和だからか、辺りがガヤガヤと騒がしい。
そんな雑踏を見つめるようにアンジェは壁に背を持たれかけながら俺を待っていた。
「あ、ムギちゃん。終わった?」
「終わったじゃねえよアンジェ……覚えとけよ」
「あらやだ。顔が怖いわよ」
アンジェは「きゃっ」と女子が怖がるように両頬に手を当てる。だが、そのにやけた表情でからかわれているのは十二分に伝わる。
自分で遊ばれていることにへそを曲げながらアンジェを睨むが、アンジェはおかしそうに笑うだけだ。
「ごめんなさいね。でも、セリちゃんとお話できたでしょ?」
「できたけどさ! なんだよ二人だけの初会話が誤解を解くところからスタートって! どうせならもっと違う話題がよかったわ!」
目くじらを立ててビシッと指差して物申すが、アンジェは俺のリアクションに面白おかしく笑っている。この人、案外ドSなのかもしれない。
そんな他愛ない会話をしていたら、アンジェが何に気づいた。
「あら、シスターだわ」
アンジェの視線の先に顔を向けると、昨日教会で会ったシスターがいた。ここでも修道服を着ている。
手にはバスケットがあるから、彼女もここまで買い物に来たのだろう。
シスターも俺たちに気づき、ニコッと微笑んで会釈する。
「こんにちはアンジェ。それと、ムギト君でよかったかしら?」
「あ、はい。こんにちは」
「私はシスターのモネ。よろしくね」
近づいてくれた彼女に軽くお辞儀をする。
視界に入ったバスケットには、小さな青い石が入った瓶がいくつも入っていた。
こんなに瓶を買うなんて、何に使うのだろうか。
そんな些細な疑問を抱いている間に、アンジェがモネさんに話しかけていた。
「ムギちゃんがギルドに入ってくれてね、これからクーラの水を取りに行くのよ」
「まあ! あの
モネさんの表情がパァッと明るくなり、俺たちに深々と頭を下げる。
ここまでするほどだ。それほど困っていたのだろう。
「本当は私たちが取りに行くべきなんだけど、あそこには魔物がいるから私ではとても行けなくてね」
申し訳なさそうにそう話すモネさん。
教会の中で一番戦闘力が高いのは言うまでもなく筋肉隆々神官のミドリーさんだが、彼は貴重な
それに、万が一彼の身に何かがあったら、それこそ世界の終わりだ。
「遠慮しないでシスター。そのためにギルドがあるんだから」
モネさんの心中を察したアンジェが安心させるように笑いかける。教会の事情は容易く想像できるから、俺も何度も頷いた。
「ありがとう二人とも……そうだ。ちょうど瓶を買ったところなの。持っていって」
そう言ってモネさんはバスケットに入っていた瓶を二つずつ俺たちに渡した。
「二つは
「え? もらっちゃっていいの?」
「ええ。私からの報酬の前払いだと思って」
「ありがとう。大事に使うわ」
礼を言うアンジェに釣られて俺もお辞儀をする。
けれども、この瓶はいったいなんなんだ?
瓶を振って青い石でカラカラと音を鳴らす。
中に入っているこの石も色が変わっているだけで、なんの変哲のない石に見えた。
瓶を眺めながら首を傾げてると、隣でアンジェがクスッと笑った。
「その石が
「ウォーター……コア?」
なんかまた専門用語が出てきたが、思えば依頼書にもそんな単語が書いていたような気がする。確か――「
「凄いのよこれ。あとで使い方教えるから、楽しみにしててね」
「へー、こんなのがねえ」
一見、石が入っただけのただの瓶にしか見えない。だが、アンジェがそう言うから凄い代物なのだろう。
ひとまずは借りたウエストバッグに瓶を入れる。
「んで、そのクーラの水ってどこにあるんだ?」
「ここから東にある洞窟に沸いてるわ。歩いて二十分くらいかしら。多少魔物もいるけど、まあ、きっと大丈夫よ」
「お、おう……」
アンジェの多少って、どれくらいなのだろう……そんな一抹の不安を感じるが、ここまで来たらためらっても仕方がない。
「それじゃ、さっそく行ってくるわ。さよなら、シスター・モネ」
「ミドリーさんにもよろしくっす」
「頼むわね。気をつけて」
モネさんに別れを告げると、彼女も手を振って見送ってくれた。
いよいよ出発だ。
初
そして、おそらく初ダンジョン。
冒険らしくなってきたではないか。
――と、意気込んではみたが、洞窟と言っても、道のりは決して険しいものではなさそうだった。
まず、街から出ると看板に「クーラの洞窟」と矢印が書かれていた。
その先には整備された道ができている。
広い草原の中にまっすぐ伸びた道は機械的に作ったようなものではない。
人が長年に渡って何度も歩いたことにより自然とできあがったものなのだろう。
「道なりに行けばいいから、迷わなくていいでしょ? 今でこそミドリー神官がいるけど、彼がいないほんの十数年前までは街の人も水を汲みに行っていたのよ」
「なるほどな。どうりで道が綺麗だと思ったぜ」
おかげで道に迷わないから無駄な時間と体力を使わなくて済む。
セリナが初めての
ただ、ひとつ気になることがある。
この広い草原に、スライムが何食わぬ顔で堂々と歩いているのだ。
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