第77話 こんなところにレアアイテム?

「お前の兄貴、いつもこんな感じなのか?」

「うん。里の見回りしてる」

「見回り……ふーん……似合わねえな」



 そんなことをぼやきながら、背中を伸ばして立ち上がる。

 すると、リオンもベッドから降りて俺にピタリとくっついてきたので、一緒にリビングに向かった。



 リビングには美味しそうなにおいが充満していた。

 机には野菜スープと白いお粥みたいなものが乗っかっている。多分、アンジェが作ったのだろう。



「麦があったから牛乳で煮たの。さ、食べて食べて」



 アンジェに促され、さっそくいただく。いつもより味付けはシンプルだったが、十分美味しくいただけた。


 リオンも美味しそうにして目を細めながらもぐもぐ食べている。これも彼にとってはご馳走なのかもしれない。



「ところで、よくライザが俺たちにも食材分けてくれたな」

「ああ、交渉したのよ。いくつか保存食作ってあげるから、食材分けてちょうだいって」

「な、なるほど……」



 アンジェの抜かりなさに脱帽する。

 しかし、こんな交渉に臨めたのも理由があったらしい。



「見てよムギちゃん。この家、氷核箱アイス・コア・ボックスがあるの」



 聞きなれない単語に首を傾げると、アンジェがシンクのほうまで歩き、無造作に置いてあるスチールのような箱を軽く叩いた。



「これよ、これ」



 箱を開けると中には牛乳や卵、野菜などが入っていた。

 これはもしや、こっちの世界の冷蔵庫なのだろうか。



 推測だが、箱に内蔵された氷核アイス・コアで中身を冷やしているのだろう。電気のないこの世界ではとても貴重なアイテムなはず。



「ここまでしっかりしているの、商人かお金持ちの人しか持ってないと思ってたのに……誰かが作ったのかしら」



 少なくとも、アンジェの家にはなかった。

 それがこんな人里離れた小さな家に置いてあるなんて、と彼は思ったのだろう。



 一方リオンはというと、この会話の最中で朝食を食べ終えたようで「ごちそうさま!」と手を合わせた。



「あら、全部食べてくれたの? えらいわね」

「美味しかった! ありがとうアンジェ君」

「どういたしまして。リオちゃんはこの後どうするの?」

「うーん、遊びに行くー」

「そう、それはいいわね」



 そう言ってニコニコと屈託のない笑顔のリオンをアンジェは微笑みながら頭を撫でる。



「リオちゃんも出かけるなら、あたしたちも出たほうがいいわよね」

「そうだな。それに、セリナの治療の交渉もしないと」



 そう言ってズズッとスープを流し込む横で、アンジェも同意するように頷いた。



「そうと決まればさっそく行きましょう」

「ああ、すぐに準備する。なあ、リオン。この村に村長とか長老っているのか?」

「そんちょー? ちょーろー?」



 リオンに尋ねるが、わかっていないようでぽかんとしている。



「なら、えらい人は?」

「えらい人……兄ちゃんのこと?」

「うーん……確かにリオンにとってはえらい人かもしれないけど……」



 半笑いしながらアンジェを見ると、アンジェも似たような顔をしていた。残念ながらリオンから情報を得れそうにないと彼も思ったのだろう。



「……とりあえず里の様子を見て回ろう。話はそれからだ」



 そう提案すると、アンジェも「そうね」と賛同した。

 その会話にリオンだけが不思議そうな表情を浮かべていた。


 * * *


 それからしばらくしてアンジェの仕事も俺の準備も整ったので、俺たちはリオンと一緒に家を出た。



「いってきまーす」

「いってらっしゃーい」



 元気いっぱいに駆け出すリオンを二人で見送ると、アンジェが「さて」と息をつく。



「村っていうか……集落よね」



 リオンたちの家から辺りを見回すと木造の小さな家がポツポツと建っていた。その隣には畑もセットだ。ここの人は自給自足で生活しているらしい。



 みんな家にいるのか、エルフたちの姿はどこにも見当たらない。

 それどころか、朝が来ているのにどの家もカーテンがピシャッと閉まっている。



 今日の天気が曇りだというのも相まって、里からどんよりとした空気が漂っていた。



「……あたしたちも少し探索してみましょうか」



 そう言ってアンジェは里の奥へと進んでいく。

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