第40話 でてこい セリナのお友達!
「大丈夫ですよムギトさん。落ち着いて、しっかりイメージしてください」
セリナの助言通り、頭の中で強くイメージする。
冷たい風……思えば雪というものは北国育ちの俺にとってとても身近なものだった。
記憶を巡らせ、イメージに結びつける。
思い出せ、あの凍てつく空気を。
視界を白く染め上がる光景を。
そして二十年以上体に打ち付けられた冷たい氷の結晶を――
「うぉぉぉ! いけぇぇ俺の内なる
想像力を熱意に変え、俺は呪文を叫んだ。
「
すると、これまで雪程度しか出せていなかった結晶が
「おお! マジか!」
これまでと打って変わったこの魔法に一番驚いたのは俺自身だった。
まさかほんの少しの意識の違いでここまで変わるとは、思いもしなかったのだ。
唖然としながらフォークを見ていると、後ろでセリナが拍手をした。
「その調子です! あとは……風というくらいだからもう少し風力がいるのかもしれません。武器を振ってみたらいかがですか?」
いただいたヒントを元にもう一度、今度はフォークも振ってみる。
そうすると、今度は勢いよく前方に霰が飛んだ。これは、少し
「すげえなセリナ! セリナの言った通りだ!」
興奮して思わず振り向くと、セリナは「いえいえ」と謙虚になる。
「ムギトさんの筋がいいんですよ」
「いやいや、そんなことねえよ」
セリナの言葉に照れ臭くなって頭を掻く。
その隣ではノアがにんまりと笑みを含んでいた。
「まあ、単純とも言うんだけどな」
「うるせえわ」
嘲るように言うノアを睨みつけるが、欠伸されて終わった。半分冷やかしに来ているのは本当のようだった。うざったい。
――さて、魔法も進歩したはいいが、まだ問題はある。
まず、範囲攻撃の割には攻撃範囲が広がっていない。それによりダメージ判定もわかっていない……何もないところで打っているのだから把握していないのも当然なのだが。
ここからは実戦形式で行いたい……と言いたいところだが、雑魚敵ならまだしも、ひとりで魔物を相手にするのはまだ早い。複数相手なら尚更だ。
「何か的みたいなものがあればいいけど……ある訳ないしな」
腕を組みながら独りごちる。
その独り言はセリナにも届いていたようで、一緒になって考えてくれた。
そうしているうちに、セリナが閃いたように手を叩いた。
「そうだ! 私の友達に手伝ってもらいましょう!」
「友達?」
「ウフフ、まあ、見ててください」
笑いながらセリナは両手を広げ、いつものように手のひらをオレンジ色に光らせる。
「おいで! ゴレちゃん! ムンちゃん!」
そう言ってセリナはその場でしゃがみ、地面に両手をつけた。
彼女の目の前で突然土がもこもこと動き出す。
その後も土は波打ったり、山のように膨らんだりと形を変えていった。
やがて、土から丸みのある胴体ができあがる。
そこからさらに手足のようなものが生え、最終的には胴体の上に雪だるまの頭みたいに一回り小さな球体が乗っかった。
そして、その球体に目のように二つ穴が空くと……謎な土人形ができあがった。
「はい! ゴレちゃんとムンちゃんです!」
セリナの紹介にゴレちゃんとムンちゃんは「ム〜!」と鳴き声をあげて両手を掲げた。どうやら、挨拶してくれているらしい。
「これってもしかして……ゴーレム?」
二体を指しながらセリナに尋ねると、彼女は屈託のない笑みを浮かべながら頷いた。
あのひと時でゴーレムを、しかも複数体作れるなんて、恐るべし、【
ところでセリナさん。どちらがゴレちゃんでどちらがムンちゃんなのでしょうか。俺には同個体にしか見えないのですが。
そんなことを考えながら首を傾げていると、セリナはゴレちゃんとムンちゃんの視線に合わせてしゃがみこんだ。
「いいですか、今日からムギトさんの修行のお手伝いをしてあげてくださいね」
セリナの命令にゴレちゃんもムンちゃんも「ムー!」と返事をしながら敬礼する。そしてぴょんぴょんと跳ねながら元気に俺の周りを駆け回った。
「ゴレちゃんもムンちゃんも土さえあれば何度でも甦りますし、分裂させて個体を増やすこともできます。遠慮なく彼らの力を借りていいですから」
活発に動く二体をセリナは微笑ましそうに見つめる。
こうして練習相手まで用意してくれるなんて本当至り尽せりだ。
「何やら何まで悪いな……」
申し訳なさそうに言うとセリナは「いえいえ」と首を横に振った。
「お世話になっているアンジェさんの頼みですから。それに――私も用事があってここに来たので」
「用事?」
深追いするべきではないのはわかっているが、つい聞き返してしまった。
なんせ、こんな町外れにわざわざ足を運ぶほどの用事なんて想像できない。
そんな素朴な疑問が浮かんでいるのがセリナにもわかったのか、彼女はクスッと笑った。
「よろしければ……ムギトさんも一緒に行きませんか?」
「え?」
ドキッとした。
だが、それは彼女とご一緒できる甘いシチュエーションからではない――彼女の微笑みに愁いを感じたからだ。
それでも俺は無意識のうちに頷いていた。
俺の返事にセリナは嬉しそうに目を細めた。
その笑みですらもどこか物悲みを帯びていたが、ヘタレな俺はその理由を尋ねることができなかった。
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