第39話 鑑定の結果です
「か、鑑定?」
目を輝かせながら前のめりになるセリナに思わず
【
助けを求めるようにノアに視線を送る。
すると、ノアは了承するようにコクリと頷いた。
「俺も鑑定結果に興味がある。減るもんじゃねえし、やってもらえよ」
ノアの言うことは一理あった。この武器は伸びたり手元に戻ってきたりと、アンジェの武器と違うところが多々ある。確かにこの機会に見てもらって損はない。
「わ、わかった……よろしく頼む」
恐る恐るセリナにフォークを手渡すと、彼女の顔は嬉しそうに綻んだ。
「ありがとうございます。では、さっそく……」
その一言で、あれだけにこやかだったセリナの顔つきが一瞬で真剣なものとなる。
「
呪文と共に彼女の両手がオレンジ色に光った。
その光る手でフォークをそっと撫で、隅から隅までじっと観察する。
この沈黙がまた辺りに緊張感を漂わせた。
いったいどんな鑑定結果が出るのか、この間が怖い。
固唾を飲んで見守っていると、やがてセリナが小さく息をついた。
「面白い武器ですね。こんな武器、初めて見ます」
そう言ってセリナはフォークの先を上に掲げながら裏表とくるくる回す。
「わかったことからお話しますね。まず、こちら純銀製です」
「まあ、フォークだしな……」
「でも、見た目はフォークでも機能は槍です。それなのに、ここまで銀しか使わないのも珍しいですよ」
彼女の言う通りだ。
通常、武器として扱うのならば、鉄や鋼を使用するはず。銀だと切れ味も強度も心持たない。
「つまり、欠陥品?」
怪しむように顔をしかめる。
けれども、セリナは首を横に振る。
「欠陥品ではないです。加工方法は不明ですが、強度も切れ味も他の金属に衰えないほど高いので、刺して攻撃する分には何も問題ないかと思います。また、この武器には銀独特の『魔除けの力』が強く出ているので、アンデット系や
「へー、武器にも敵との相性なんてあるんだな」
言われてみると、現実世界でも銀には特別な力があると言われていた。「
それはこの世界でも同じ……いや、強く現れているようだ。
――ところで、好相性に
なになに? この武器って共食い系?
あと、「さ迷う魂」というのはなんだ……いや、これは敢えて深追いしないでおこう。想像はできるが、想像はしたくない。
俺の表情が強張る隣で、セリナは真顔でじっとフォークを見つめる。
「わからないこともあります。先程も申しましたが、武器の加工方法です。銀なのに武器として成立させるには何かしらの
「俺に?」
咄嗟に両手を見つめる。
振り返ると武器が伸縮したり、手元に武器が戻ってくることはアンジェも驚いていた。
しかし、
色々と考えを巡らしてみるが、結局鑑定結果はここまで。この武器の謎は多いままだ。
しかし、
「ありがとう、セリナ。勉強になった」
素直に礼を言うと、彼女も「いえいえ」と目を細める。
「多分、こちら武器はムギトさんにしか装備できないと思います。きっと武器がムギトさんのことを認めているんですよ」
そう言って、セリナは両手で丁寧にバトルフォークを俺に手渡した。
武器が俺のことを認めている……嬉しい言葉に胸がジーンとなった。それに、武器にも敬意を払っているのも【
「……そういえば、セリナはこの武器を馬鹿にしないんだな」
これまで魔物も、あのアンジェですらもこの武器を見せた時は固まったり、キョトンとしていた。
あのシュールな空気感は作っている俺本人でも耐え難いものがあった。いや、こんなヘンテコな武器を見せられてすんなり受け入れるほうが難しい。
だが、セリナは違う。
彼女は「とんでもない」と慌てて否定するのだ。
「だって、ムギトさんの大事な武器じゃないですか。それを馬鹿になんてできませんよ」
その優しい言葉と、全てを包み込むような温かい微笑みに、俺は思わず息を止めた。
なんていい子なのだ。そして、なんて愛らしい子なのだ。
体温が上がる。心音が高鳴る。
ああ、メルトよ。「恋に落ちる音がした」とはこのことか。
しかし、今はそんな心を溶かしている時ではない。
「ありがとう」
そう一言告げ、俺は彼女から渡されたフォークを強く握った。
――修行の再開だ。
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