第83話 青き水のエルフ銃士

「行くぞ!」



 掛け声と共に、ライザの元へ駆け込む。

 しかし、彼の領域に踏み入れた途端、ライザが俺の足元に向かって発砲してきた。



「あぶねっ!」



 即座にその場で立ち止まる。

 ライザが撃った弾は地面に当たり、泥が俺のズボンの裾に飛んだ。だが、下を見てもそこには弾丸はなく、ただ土が一直線にえぐれているだけだった。

 

 足止めされた俺の隣では、アンジェが剣の切っ先を向けようとしていた。あの構えは、火炎放射を放つつもりなのだろう。



 だが、ここでもライザのほうが攻撃を仕かけるのが早かった。

 ライザが発砲すると、アンジェの剣が弾き飛んだ。

 アンジェが振り下ろすところで彼の剣を狙ったらしい。



 弾かれたアンジェの剣がくるくると宙を舞い、離れた地面に突き刺さる。



「……容赦ないわね」



 アンジェは苦笑いを浮かべながら、手をひらひらとさせる。

 幸い、彼には怪我はないようだ。しかし、これでアンジェは一本取られてしまった。



 なんて野郎だ。早撃ちで、かつ命中率もずば抜けて高い。

 ライザの腕も相当だが、なんなのだあの銃は。

 発砲するところを見ていたが、トリガーを引いても発砲音はなかった。

 かろうじて「ビュンッ」とソニックブームのような音は聞こえたが、撃った時の閃光もないし、銃口に煙が立っていない。



 もしや、そもそも火薬を使っていないということなのか。

 ということはひょっとして、あの銃って――……。



「――水鉄砲かよ」



 頬を引き攣らせながらライザに言うと、彼はにんまりと笑った。



「そんなちゃっちいのじゃねえよ……水核銃ウォーター・コア・ガンだ」

水核銃ウォーター・コア・ガン……?」



 また初めて聞く単語だったが、いい加減俺もコアのことがわかってきた。



 おそらくあの銃の中に水核ウォーター・コアが入っているのだろう。

 それで、銃の加工かあいつの魔法で威力を上げている。


 とはいえ中身はただの水だ。だから発砲音もしないし、煙も立たない。

 加えてあいつの属性魔法は水だろうから、弾切れの心配もない。鬼に金棒というのはこのことだろう。



「水に遠距離攻撃……本当、あなたってあたしのこと嫌いなのね」



 アンジェがため息交じりで半笑いする。

 彼の察し通り、火属性【剣士ソードマン】のアンジェとは相性が悪い。剣を打ち落とされていなくても、彼は苦戦する運命であっただろう。

 その証拠に、ライザは最初ハナからアンジェを相手にしていない。



「殺す気で来いよ。どうせ、死なねえんだから」



 自信たっぷりの目つきでライザは俺に銃口を向ける。今度は足元なんて生ぬるい攻撃ではないだろう。



「……死なないって、俺が?」



 歯向かうように敢えて挑発に乗ってみるが、ライザは余裕綽々だ。



「俺に決まってるだろ、雑魚野郎」



 そう言ってライザは引き金を引いて発砲する。

 放たれた水の弾丸は再び俺の頬を掠めた。



 痛みが走る頬に触れると、血が付着していた。たとえ水でも奴にかかれば立派な弾丸。直撃したら風穴くらい容易く開きそうだ。



 当たったら一貫の終わりだが、それ以前にあんなモーションのない攻撃のどうやってけろというのだ。



「ムギちゃん……」

「ムギト君……」



 立往生していると、アンジェとリオンが心配そうに俺を見つめていた。



 俺が不利だと言うのは、誰もが想像できているだろう。ライザの奴、自分が絶対勝てるからこんな武力行使してきたのだ。まあ、それくらいの腕前があるのだから、当然なのだが。



 しかし、ここで退いてたまるか。

 考えろ。考えるのだ、俺。 



 一発くらい本気で殴りたいのは山々だが、リーチの長さでいうとバトルフォークで突き刺したほうが可能性がある。


 しかし、むやみやたらに突っ込んだところで、アンジェみたいに武器を落とされたら終いだ。



 冷たい風コルド・ウィンド? あれはモーションが長いうえに威力もないから却下。



 いっそのこと、前みたいにバトルフォークを投げてみるか? 

 そのほうがリーチが長いし、どうせ俺の武器は……。

 俺の、武器は……。



「――あ」



 閃きと同時に、無意識に言葉が漏れた。

 なんか、思いついたかもしれない。

 上手く行くかは置いておいて。 

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