転生するのにベビー・サタンの能力をもらったが、案の定魔力がたりない

第127話 アンジェの疑問

　フーリの魔法で移動すると、ちょうどアンジェとリオンも待ち合わせ場所にたどり着いたところだった。

「よお、どうだった？」

　二人に尋ねてみると、案の定リオンは不思議そうに目をぱちくりとさせているし、アンジェの表情もどこか浮かない。

「……とりあえず、ご飯食べましょうか」

「そうだな。腹減ったし」

　とにかく今はどこかで座ってゆっくり話がしたい。

　そんな訳で俺たちは一度街の繁華街へと向かった。

　ただ、すでにどこの店も混雑しており、入れる店を探すのに苦労をした。

　梯子して三軒目でようやく入れたのだが、そこですらごった返すくらい人で溢れている。

「座れたのが奇跡ね……」

「ノアの入店が許されたのもな」

　飯を食うだけでもこんなに大変だとは思わず、四人とも注文を終えた頃にはぐったりとしていた。

　この中で元気なのはずっと俺の頭上にいたノアくらいだろう。

　そもそもこいつのせいで入店できないかと思ったが、この世界には【魔物使い（テイマー）】という階級（クラス）があるから、俺が思っているより動物の入店は緩いようだ。

　まあ、こんなにも人がいて騒がしくしていたら、動物の一匹や二匹入店していたとして誰も気にしなさそうだが。

「……んで、そっちはなんか有力な情報が入ったのか？」

「そういう言い草をするということは、そっちもそんなに収穫がなかったようね」

「おっしゃる通り」

　真顔で返す俺とフーリにアンジェは苦笑いを浮かべる。

　ちなみにリオンは、飯が来る間大人しくノアの頭を撫でて遊んでいる。この話はエルフの里から出た彼にはいかんせん難しい。

　とりあえず、三人で情報を共有することとなる。

「とりあえず、この街にめちゃくちゃ人が来ているということはわかった」

「それは、この状況を見れば察しはつくわ」

　ため息をつきながらアンジェはぐるっと辺りを見回す。

　そんな話をしている間にも向こう側ではアルコールが入り始めたようで、声のボリュームも大きくなっていた。

「この街って、前からこんな感じだったのか？」

「いいえ。少なくともあたしが依頼（クエスト）で来た時はもっと少なかったわ。今は冒険者が多い気がするわよね」

「ああ、それは鍛冶屋のおやっさんも言っていたな」

　アンジェの言葉にフーリがうんうんと頷く。この騒がしい野蛮な感じもきっと酒飲みな冒険者たちが騒いでいるのだろう。

「聞けば市長殺しの犯人捜しの依頼（クエスト）……かなりの高額な報酬らしいわよ。しかも受付人数は無制限」

「だろうな。金は持っていそうだし」

「それに加えて傭兵も増えてるんだろ？　そらここまで増えるわな」

　人は入るが、出ることはない。ただただ、ひたすたこの街に溜まっていくだけ。その結果がこのごった返しだ。

「なんというか……この人の流れも誰かがコントロールしている気がして気持ち悪いわよね」

「誰かっつうか……パルスなんだろうけど」

「相当やべえな、そのパルスって奴……」

　フーリが頭を搔きながら表情を強張らせる。彼がそう思うのも無理はない。ただでさえ人に化けられる能力だ。頭の切れる奴が使えるとなると、悪いことなんていくらでも考えられるだろう。

「でも、なんでわざわざ下水道なんかに市長の遺体を破棄したんだろうな。市長に化けられるなら、出張に行くとか適当なことを言えば遺体なんて見つからずに済んだだろ？」

　これではまるで、わざと遺体を人に見つからせたようなものだ。

　考えれば考えるほど、情報を集めれば集めるほど、パルスのやることに謎が残る。

　いや、そもそも『カトミア』にいる人のみんながこの事件のことを知らなさすぎるのだ。

　犯人のことを知っているのはおそらく俺たちだけ。

　だが、犯人を知っていてもこんなに詰まっているのだ。外から来た人はもっと苦戦するはず。というか、俺たちみたいに事情を知らないと市長殺しの犯人ですらたどり着けないと思う。

　みんなで唸って考えていると、アンジェひとり思い詰めたような深刻な表情をしていた。

「どうしたアンジェ」

「あ、いや……ちょっと考え事をしていてね」

「なんだよ水くせえなあ。悩みか？」

「悩みというか、ちょっと引っかかることがあってね。ただ、この事件にはあんまり関係がないと思うから、あまり考えないようにしていたんだけど……」

　半笑いするアンジェだったが、そこまで言われるととても気になる。

「なんでもいいから話してくれよ」

「そうそう。なんかヒントになるかもしれないぜ」

　俺とフーリが二人してそういうものだからアンジェも折れた。

　ひとつ嘆息を吐いたアンジェは前のめりになり、なるべく周りに聞こえないように俺たちに告げる。

「なら訊くけど……二人は最近の魔物の動きについてどう思う？」

「どうって……何かあるのか？」

　アンジェの問いに首を傾げてみるが、隣のフーリは深刻な表情をしていた。

「……増えてるよな、魔物も、魔王の配下も」

「そう。あたしがギルド員になり立ての時より凄く数が増えているの。依頼（クエスト）だって魔物討伐ばかりだもの」

　その前も魔物も魔王の配下もいない訳ではなかった。他の魔物よりも知能が高く、ルソードのように喋れるような魔物は初めからいた。

　だが、そういう魔物も根本的なことは変わらない。

　人に襲いかかり、強姦や捕食する。それもアンジェの妹であるイルマのように――……。

　それが、今の魔物の配下はどうだろうか。

　そのことについて、アンジェは思うことがあるようだ。

「この際、魔王の配下に人間がいることはどうでもいいわ。それよりも、配下の行動パターンが明らかに変わっているのが引っかかるのよ」

「変わっている？」

「明らかにあたしたち人間を潰しにかかってきているってことよ」

　その核心を突くような発言に、俺は思わず息を呑んだ。