第190話 魔王の正体
◆ ◆ ◆
あれだけ瘴気が溢れていたはずなのに、火口に充満していたはずの瘴気が綺麗さっぱりなくなっていた。これも魔王が消滅した影響なのだろうか。喜ぶべきところなのに、胸がズキンと痛んだ。
だが、瘴気がなくなったおかげで、先ほどまで濃厚な瘴気で近づけそうもなかった火口へとたどり着くことができた。
ノアの背中から火口を覗き込むと、溢れていたはずの紫色のマグマが綺麗さっぱりなくなっていた。直前に噴火して中身が
火口には石っころひとつ落ちていないくらい殺風景なところだった。ただ、その中心には大きな紫色のクリスタルが鎮座していた。これは『オルヴィルカ』で見た、魔王の卵……のはず。
「ここは……?」
「魔界と地界の狭間と言ったところだろう」
話しながら、ノアが地面に着地する。
殺風景な風景にぽつんとあるクリスタル。存在感が強い。
「でも、どうしてこれが、こんなところに……」
よくわからないまま紫色のクリスタルに近づく。だが、一歩近づいただけで全身に鳥肌が立つくらいぞわっとした。
たまらず一歩退く俺に仲間たちが不思議そうな顔を浮かべる。しかし、この感覚をなんて説明しようか。
リアクションに困っていると、クリスタルを前にノアが「へー」と納得したように頷いた。
「なるほど……魔王の原石とは、よく言ったものだ」
「魔王の原石って、どういうことですか?」
ノアの意味ありげな発言にセリナが食いつく。すると、ノアは視線だけ俺に向けて問うてきた。
「お前……今、何かぶっ壊したいと思わなかったか?」
「え?」
突拍子もない問いに仲間たちが揃って声をあげる。だが、俺はすぐに頷けなかった。図星だったのだ。今さっき、クリスタルに近づいた時に感じた戦慄。それは確かに心が掻き立てられるような、強い破壊衝動だった。
「これ、クリスタルじゃなくて馬鹿でけえ
時同じくして、リオンも思い出したように自分の服のポケットを探った。出てきたのは紫色の
「リオン……お前、それずっと持っていたのかよ」
「うん。せっかく兄ちゃんがくれたし、綺麗だからずっとお守りにしてた」
「いいのを持ってるじゃねえか。お前ら、ちょっとそれを見せてみろ」
一瞬で本来の人型になったノアが、俺とリオンからそれぞれ
「なんとなくわかったぜ。お前らこれを見てみろよ」
と、ノアが手のひらに
「あれれ? 色が違う?」
リオンの言う通り、俺とリオンの
同じ紫であるが、リオンが持っていたほうが色合いが薄い。その代わりに、
「おそらくだが……この
核心を突くノアにみんなが黙り込む。
ずっと疑問だった魔王の正体が少しずつ明らかになろうとしている。それもあって緊張しているようだ。無論、俺も含めて。
再び、ノアが沈黙をやぶる。
「アンジェ、お前、何体か魔王の配下を討っていただろ。そいつらもこんな
「……いいえ、違ったわ。他の魔物同様、属性魔法の
と、アンジェは徐に自分の剣を鞘から抜き、切っ先を天に向けてじっと見つめた。その動作で、俺とセリナは思い出したように息を呑んだ。
「そうだ。その剣、確か魔王の配下の
「ええ、私が鑑定したから覚えてます。なんの変哲のない普通の
しかし、違いがわかったとはいえ、まだ疑問がある。どうして同じ魔王の配下なのに
「あいつら、自分らのことを『あの方の恩恵』ってずっと言ってただろ。それこそが、この
ケイン。アルジャー。パルス。思い返せばどいつもこいつも、人間とは思えない身体能力と魔力があった。特に生命力は凄まじく、本来なら致命傷になる傷でも生きていた。
そして、全員とどめを刺せたのは、俺の持っていくバトルフォークだけだった。まるで、魔王の劣化版。そう考えると、『恩恵』と言った意味合いも全て頷ける。
「死んで魔界に堕ちた者を転生させるにはこの
魔王というくらいだから、魔界にいる者は自分の配下にできたのだろう。そのマーキングこそが、あの刺青みたいな赤い花のマークだ。
だが、同じ配下であっても、三下には使わなかった。それがこの
「あの紫色の
セリナの推理も一理ある。『オルヴィルカ』のギルドであった事件が各地であったら、世界はもっと大騒ぎになっていたはず。
だからピンポイントで優秀な【
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