第8話 結局頼るのは物理の力
「とにかくそれの柄を強く握れ」
「握れって……こうか?」
半信半疑でフォークの柄をぎゅっと握る。すると、フォークは紫色のオーラを纏って俺の身長くらいまでに一気に伸びた。
こうなると見た目はフォークだが、形はトライデントのような
そんな淡い期待を抱いていたが、ノアが「ふふん」と笑いながら速攻で打ち砕いた。
「名づけて『バトルフォーク』だ」
「やっぱりこれフォークなんじゃねえのかよ!」
「少しくらい望みをくれよ」と思ったが、ノアは俺のツッコミをスルーして言葉を紡いだ。
「それと、自分の属性魔法なら
「え⁉︎」
俺の持つ属性……すなわち氷。ノアの言うことが本当なら
さっそく使おうとしているとノアも俺の行動を読んでいるかのようにステータスボードを出した。
俺が覚えている魔法は――
「『
その呪文を告げると、まるで自分から冷気が出ているかのように手のひらが冷たくなった。その冷気がバトルフォークにも伝い、周りの空気を一気に冷たくさせる。
――これが、魔法。
この感触なら、行ける気がする。
「おっしゃぁぁ! 行けぇぇ!」
雄叫びをあげながらバトルフォークをスライムに向けて突き出す。
すると、フォークの櫛状の部分に冷気が集まった――気がした。
「……あれ?」
俺の気合いとは裏腹に、フォークの先端から白いキラキラとした粒子が出ている。
粒子はスライムのほうに飛んで行ったが、スライムの顔が少し濡れただけで何もダメージは与えられてない。
これには構えていたスライムもポカンとしており、不思議そうに首を傾げた。
ただ、それを一部始終見ていたノアだけが爆笑している。
「なんだよそれ、お前が出してるのただの粉雪じゃねえか」
「うるせえクソにゃんこ! 初めてなんだから仕方がないだろ! そもそも案内人なんだからコツくらい教えろよ!」
「魔法にコツなんてねえよ。強いて言えばイメージと情熱と
「本当にコツじゃないな! むしろ今その三つでやったわ!」
啖呵を切って喋る俺に、ノアは呆れたように息を吐く。
このやり取りには敵のスライムも戦いの最中なのに半笑いだ。
ギャグみたいな事態だが、状況が悪さは相変わらず横ばいだ。流石にそれはまずい。
「くそ……結局物理攻撃かよ」
魔法は一旦諦め、改めてバトルフォークを構える。
すると、スライムも
スライムがまた俺を目がけて飛んでくる。だが、同じ手は二度も食らわん。
「おらぁ!」
かけ声と共に突撃してきたスライムを蹴り返す。
「ピギャッ!」と短い断末魔をあげたスライムはまるでサッカーボールのやうに勢いよく飛んでいき、そのまま原っぱに何バウンドもして転がった。
「おお〜」
俺の肩の上でノアが感心した声をあげる。
正直、スライムがここまで飛んでいったことにも驚いたが、何より自分の体の軽さに驚いた。
体が軽いことだけでない。蹴りの力だって強くなっているし、腹部まで飛んできたスライムをちゃんと芯を狙って蹴り返せた程の動体視力と瞬発力も身についている。
これは、俺の身体能力が上がっているということか?
疑問をぶつけるようにノアを見ると、彼はニンマリと悪戯っぽく笑った。
「――そういうことだ。存分に暴れろよ」
それだけ言うと、ノアはポンっと俺の肩から降りて距離を保つようにその場から退いた。
そうしている間に倒れていたスライムが復活している。しかも今ので完全に堪忍袋の緒が切れたようで、つぶらな目が怒りで吊り上っていた。
次も来る。
そう思った途端、本当に突進してきた。
助走がついている分、先程よりもずっとスピードが速い。だが、飛んでくる方向が真正面というのは変わりない。
スライムが勢いに身を任せ、飛び上がる。
あとは、その勢いを利用するだけだ。
「これでも食らっとけ!」
バトルフォークを強く握り、突撃するスライムに向けてバトルフォークの先を突き刺す。すると、狙い通りスライムはフォークの先に貫通した。
差し込んだスライムの体はぬるっと柔らかい感触だったが、手応えを感じた。
そしてスライムは大きく目を見開いたまま、体から紫色の
スライムが完全に消えると、どこからか手のひらサイズに角張った石が転がり落ちた。
いきなり現れた石だが、俺にはスライムの体からこれが出てきたように見えた。
消えたスライムが再び出てくる気配はない。
これは、やったか?
緊張が抜けたのか、俺は無意識にバトルフォークを手から落とし、崩れるようにその場に座り込んだ。
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