第116話 あー、そういうことね

「え? なんで?」



 瞬きしたり、目を擦ったりしてみても、画面の数値は変わらない。何度見たって必要な魔力マジックパワーは十三に下がっている。



「おい、ノア。これってどういうことだよ」



 画面を指差してノアに問うと、彼は澄ました顔のまま尻尾をゆらりと揺らす。



「考えられるとしたら、この魔法が純粋な氷属性だからだろうな。お前のレベルが上がったから必要な魔力マジックパワーの消費も減ったんだろう。現に『冷たい風コルド・ウィンド』だってだいぶ威力上がってるんだろ?」

「い、言われてみればそうかもしれん……」



 魔力マジックパワーの消費量が減るだなんてRPGでも熟練の賢者でないと扱えないイメージなのだが、こんな低レベルな俺でも扱えるとは思わなかった。



 それともここ数日魔法を使いまくっていたから魔法自体の熟練度が上がったのか。

 可能性は色々ありそうだが、そもそもステータスの上がり幅の法則性も掴めていないからなんとも言えない。



 しかし、使える魔法はひとつ増えたという事実は揺るがない。

集団即死魔法ディジリッド』をものにしたという実感が俺の感情を高めさせる。



「っしゃー! ザラキ覚えたー!」



 しかも全体即死魔法なんてめちゃくちゃ強いではないか。これで俺も無双ができるってもんだ。



 しかし、ガッツポーズをしている俺の横で、ノアは気難しそうな表情を浮かべている。



「有頂天になってるんじゃねえぞ。まず、この魔法は自分より弱い魔物にしか効かないし、効いても効かなくてもこれを使うだけでお前の魔力マジックパワーは一発で枯渇する……まあ、これは身をもって知ってるか」

「……え? あ」



 言われて思い出すが、確かに『ザラクの森』でこいつを使った時、魔力マジックパワーが枯渇してぶっ倒れた。

 というか、自分より弱い魔物にしか効かないとはどういうことだ?



「お前、俺の戦いも見てたんだろ? この魔法でエレメント系の魔物を一撃でぶっ倒してたじゃねえか」



 特に死神はどう見ても俺より格上の魔物だった。

 ノアの言うことが本当なら、さっそくここで矛盾が生まれている。

 だが、ノアは「やれやれ」とため息をつきながら、説明を続ける。



「ありゃ偶然……いや、奇跡だな。場所と相手がよかった」

「場所と……相手?」

「ああ。氷属性でもあれは死を司る魔法だからな。最初から魂の存在であるエレメント系には効きやすいんだよ」



 それに加えてあそこは瘴気に近い毒霧が充満している。

 魔界と近い地形だからあの魔法の威力も一時的に上がったのだろう。と、ノアは仮説を立てる。



「それってつまり……」

「他の魔物や場所で使っても魔力マジックパワーが無駄に消費するだけ」

「意味ねえじゃんそれ!!」



 なんだよなんだよ。

 せっかく新しい魔法は使えるようになったのに、使ったほうが不利になるってどういうことよ。

 これでは何も変化がないではないか。ちょっとは強くなったと思ったのに、こいつにドヤ顔ひとつできないなんてそれはないぜ。



「まー、でも、今回の一件でお前も自分のことがわかってきたんじゃねえの?」



 そう言ってノアはうなだれている俺の頭にぴょんっと乗っかる。



「わかってきたって……何がだよ」



 頭上の重みの文句を言いたいのは山々だが、それよりもノアの意味深な発言のほうが気になった。しかし、ノアは「わかってるだろ」とそれ以上は何も言わない。



「もしかして……瘴気が効かないってことか?」

「そういうこと。流石悪魔サタン様だ。魔界の空気のほうがお気に召すようで」

「……俺、勇者じゃなかったのかよ」



 むくっと頭を上げると、ノアもひょいっと俺から降りてテーブルに着地する。



 しかし、ノアのこの言い分だとそれが俺の能力アビリティということになりそうだ。

 瘴気が効かない……これは他の人、いや、人間にはない俺だけの潜在能力ポテンシャルと言えよう。といっても、使いどころは他になさそうだけれども。



 それにしても、階級クラスといい、能力アビリティといい、どれもこれも勇者というよりは魔王側の能力な気がする。

 これで『ザラクの森』での出来事の確信は持てたとはいえ、このことは隠しておいたほうが面倒なことにはならなさそうだ。



「あ、そういえば俺、ライザに階級クラスバレたんだった」



 ライザと話していた内容もノアに駄々洩れだったとしたら、このことも彼は知っているはず。

 やはり、他人に階級クラスがバレることはアウトだっただろうか。



 そんな不安が一瞬過ったが、ノアは相変わらず淡々としていた。



「そもそもあのエルフが只者じゃない。たったあれだけのことでお前の階級クラスを当てるだなんて正直俺も思っていなかった。ただ、バレた相手がよかったな」

「ということは、これからもバレないほうがいいってことな……」

「悪魔狩りされたくなければな」



 ククッと肩を揺らしながらノアは小さく笑う。

 なんか今、とても物騒なことを言われたような気がするのだが、気のせいだろうか。



 そもそもそういうことはもっと先に言ってくれませんかねえ、案内人さんよお。

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