第115話 二度目のステータスチェック
「ほら、リオン。そのまま抱っこしてていいから、さっさと中に入るぞ」
そう言うと、リオンは目を輝かせたままノアを胸の前で抱える。ノアはふてぶてしい顔をしているが、気にせず家に入った。
久しぶりに戻ったアンジェの家。たった三日離れただけなのに、随分と懐かしく感じる。
ただ、家主のほうは食料もなく、少しとはいえ埃がかぶった家が不服そうであった。
「荷解きもしなきゃだし……いったい、どこから手をつければいいかしら……」
「まあ、帰ってきたばかりだし、ゆっくりやろうぜ」
と言いながら、ぐでんとダイニングチェアーに腰かける。隣ではリオンがノアを興味深々につんつんと指で突いている。そんな俺たちに気が抜けたのか、アンジェも「そうね」と一息ついた。
しばらく家でまったりと休んでいたが、昼食を食べ終えた頃になるとアンジェが動き出した。
「リオちゃんに街を案内しがてら、食材を調達しようと思うんだけど……ムギちゃんは来る?」
アンジェに尋ねられ、「あー……」と曖昧な声をあげながら考える。
行ってもいいのだが、窓の縁で日向ぼっこしていたノアが何か言いたそうにこちらを見ている。
俺もノアに色々と訊きたいことがあったから、二人きりになれるのは今がチャンスなのかもしれない。
「行ってこいよ。俺はもうちょっと休んでる」
「そう? わかったわ」
そう言ってアンジェは特に深追いもせず、リオンを連れて家を出る。
リオンも初めて『オルヴィルカ』を周るから、おそらく戻ってくるも時間がかかるだろう。
窓から見えなくなるまで手を振るリオンを見送りながら、ちらりとノアに視線を送る。すると、ノアも日向ぼっこを止め、ちょこんと俺の前に座った。
「随分と勇者がさまになってきたじゃねえか」
「ハッ。三日近くもいなかったのに何を言ってるんだよ」
まったく、こいつがいなくなってからこっちはめちゃくちゃ大変だったのに。
不貞腐れながらアンジェが淹れてくれた紅茶の口に運ぶ。ただ、ノアは俺の言い分を聞いたうえでニヤニヤと笑う。
「よく言うぜ。『友達ひとりも救えないで勇者になれるかよ』とかくっせえこと言っていたくせに」
「ぶはっ!」
ノアの発言に含んでいた紅茶を思わず噴射させる。しかも気管の変なところに入ってしまったのか、その場で何度も噎せた。
プールで溺れたような鼻と喉の痛みと、紅茶の熱さにやられて死にそうになっている横で、ノアが小刻みに体を揺らしながら笑っている。そんなに人が苦しんでいる姿を見るのが楽しいか。
「というか、なんでお前が、そんなことを、知ってるんだよ」
口元を手の甲で拭きながらしどろもどろに尋ねると、ノアはわざとらしく「んー?」と首を傾げた。
「お前……俺を誰だと思ってやがる」
「はいはい、神の使い様でしたっけ? ……あ?」
神の使いということはつまり、
あんなことも? こんなことも? こいつがいないから言った発言とかもあったのに?
思い返すと、体中の体温が一気に上がった。
「うわぁぁ! いっそのこと死なせてくれぇぇ!」
「こんなことで死なせるかよ、ばーか」
羞恥心に殺されている俺を見て、ノアはケラケラと笑っている。
くっそ、監視していたなら別行動した時に話してくれたらこんな恥ずかしい思いなんてしなかったのに。
「……あれ? 全部見てた?」
一部始終見られていたということは、ひょっとすると、こいつも
うなだれていた頭をガバッと上げ、ノアを見る。
すると、ノアも何か悟ったようにニッと口角を上げる。
「ノア、俺のステータスボード出してくれ」
「ああ。わかってるよ」
ノアがクイッと自分のあごを上げると、いつもの青いステータスボードが現れた。
今のレベルは『六』か。
前回は『三』だったから、最後に確認した時から三つも上がっている。
馬車での移動中で出くわしたあのアーチャー・ワン公と直進暴走イノシシはアンジェが倒したからノーカウントだとして、利いているのはおそらく『ザラクの森』のブルースピリットと死神、あと、アルジャーというところか。
「上がったのは『体力』『力』『素早さ』……こいつらは『三』ずつ上がっている。あと、知力は『四』か。これは前より伸びがいいな」
「……知力なんてあったんだな」
まあ、賢くなることに越したことはないんだけど――俺が見たいところはそこだけではない。
「……
「まあまあ、そう焦るなって……ほら、あったぞ」
そう言って出された項目を見ると、
本来ならやっと二桁の数値になったことを喜ぶべきだろう。だが、俺は素直に喜べなかった。
この数値には大きな矛盾がある。なぜなら、あの魔法……『
なら、なぜ俺はあの魔法を打てたのだ?
手をあごに当てて考えていると、ノアは俺の魔法欄の項を出してくれた。
「……ほう。なかなか興味深いじゃねえか」
ノアの呟きに慌てて『
そこには、「
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