第21話 異世界初心者、ギルドに入る

 セリナからもらった紙をじっくり見る。

 名前、年齢、住所……何度確認しても日本語ジャパニーズだ。

 そんなはず、ある訳がないのに。



 首を貸してげていると、見計らったようにノアが俺の頭に乗ってきた。



「気づくのが遅えよ。なんのために俺と契約したと思っているんだ」



 頭上からノアの得意げな声がする。おそらく、表情も俺を卑下するような嘲笑なのだろう。



 だが、これでよくわかった。

 というか、ノアが日本語のステータスボードを出した時点で気づくべきだ。



 俺がこの世界の言語がわかるのはノアと契約しているおかげなのだ。だから文字もわかるし、この感じだと日本語で書いてもアンジェたちに通じそうだ。



 こいつ、実は翻訳こんにゃくと同じ機能だったのか。

 くそ、こんな奴に感謝したくない。



「……お前が乗ってたら書けねえんだけど」



 悔し紛れに文句を垂らすと、ノアは舌打ちをしながら俺の頭から机に飛び降りる。

 しかし、降りたら降りたで今度はセリナが「可愛いー!」とノアの頭を撫で始めた。



 まあ、相手が猫とはいえ、女子にちやほやされることは決して羨ましくはない。死んでほしいと思うだけだ。



 ――こんな奴は視界から消すとして、ここからどう書こうか。



 登録に書くのは名前や住所、属性魔法などの基本情報なのではあるが、俺の住所は不定だし、例のごとく階級クラスは書けない。



 すっかり筆が止まっていると、見兼ねたのかアンジェがスッと赤いカードを机に置いた。



「住所はうちのを使っていいわよ」



 アンジェがカードに書かれた住所欄を指す。他にもカードには彼の生年月日や年齢が書かれていた。この赤いカードはアンジェのギルドカードのようだ。



 氏名欄は「アンジェ」と下の名前だけ書いてある。そもそもこの世界では苗字という概念がないのかもしれない。

 ここは無難に俺もカタカナで下の名前を記入する。



 住所はアンジェの家のを書かせてもらい、属性魔法は素直に「氷」と書く。

 階級クラスは記憶になければ書かなくていいと言ってくれたので、空欄にしておいた。



「書けたけど……これでいいのか?」



 渡された紙をセリナに戻す。

 記入欄に目を通すとセリナは「オーケーです」とにこやかに笑って、紙を机の上に戻した。



「ギルドカードは更新できるので、ひとまずこれで作ってしまいましょう。行きますよ」



 そう言ってセリナはパンッ! と両手で机を叩いた。



創作魔法クリエイシッド



 セリナが呪文を唱えると、紙がぼんやりと青く光りだした。



「な、なんだ?」



 驚きのあまり身動みじろぎする。

 しかし、光が治まると机に置いてあったはずの紙が紺色のカードに変わっていた。



「はい、できましたよ」



 セリナがカードを手渡す。そのカードには俺が先程紙に書いた項目がきちんと書かれていた。



「これが……俺のギルドカード?」



 恐る恐るカードを受け取る。表も裏も見てみるが、よくあるプラスチック製のカードだ。

 アンジェが赤色だったから、カードの色は属性魔法を表しているのだろう。

 こんなのが一瞬でできあがってしまうなんて、魔法ってすげー。



 まじまじとカードを眺めていると、セリナが「あっ」と思い出したように手を叩いた。



「できあがったといえば、アンジェさんが頼んでいたものも完成しましたよ」

「あら、本当? 仕事が早くて助かるわ〜」

「フフッ、ちょっと待ってくださいね」



 会釈したセリナは早足で別室に向かう。

 間もなく別室から出てきたが、その手には剣が握られていた。



「どうぞ、ご覧になってください」



 両手で丁寧に差し出された剣をアンジェは目を輝かせて受け取る。

 鞘から抜かれた剣は、剣身が細く、ゆるやかに曲がっていた。さらに切っ先が尖っており、剣なのにナイフのデザインに近く見える。



「……うん、使っていたものよりもずっと軽いわ。切れ味も良さそう」



 剣を手に持ったアンジェは刃を見つめながら満足そうに笑う。



「ありがとうセリちゃん。作るの大変だったでしょ?」

「え? 作る? セリナが?」



 アンジェの言葉に思わず反応してしまったが、いささか信じられなかった。こんな可憐で華奢な彼女が剣を作るなんて……そもそも彼女は受付係ではないのか?



 だが、セリナは「そんなことないです」と照れている。



コアと武器の相性がよかったから、とても作りやすかったですよ」



 まずい。コアまで出てきた。さっきから全然話についていけてない。



 そういえばコアで思い出した。俺もスライムのコアを持っていたのだった。



 ごそごそとズボンのポケットを探る。

 そこからコアを取り出すと、二人とも「あ!」と声を揃えてこちらを見てきた。

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