第22話 教えて、アンジェ先生

「ムギトさんもコア持ってたんですね!」

「お、おう……アンジェと会う前に倒したんだ」

「そうだったんですか。よろしければ鑑定しますか? それとも、錬金にします?」

「鑑定? 錬金??」



 セリナの口からいっぱい専門用語が出てきたものだから、俺の頭の上にはクエスチョンマークが浮かんでいただろう。



「た、助けてアンジェ」



 引き攣った顔でアンジェに顔を向ける。

 最初は小首を傾げた彼だったが、高速に泳いでいる俺の目を見て色々察してくれたようで、「あらあら」と言いながらも、スッと俺の持っていたコアに手を伸ばした。



「ムギちゃんはコアのことどこまで覚えてるの?」

「えっと……魔物の心臓部?」



『覚えている』というか、ノアからここしか聞いていないというのが正しいが、とりあえず話を合わせる。



「なら、このコアが何に使われるかは?」



 続け様に尋ねられたが、答えに詰まった。

 ノアは「金にも武器にもなる」と言っていた。

 だが、こんな石コロがどうやってそれらに変化するのか、その理屈は未だに想像できていない。



 口を噤んでいると、アンジェは「オーケー」と頷き、今度はセリナにコアを渡した。



「ここからは実際に見てもらったほうがわかりやすいわ。セリちゃん、まず鑑定からお願いできる?」

「はい、任せてください!」



 セリナは元気に応えてコアを受け取る。だが、コアを手にした途端、彼女はすぐに真顔になった。



鑑定魔法アプレザイド



 静かに呪文を唱えると、それを合図に彼女の手がぼやんとオレンジ色に光った。

 セリナが手をかざすと、その光に反応するようにコアがわずかに輝き出す。



 真剣なセリナを固唾を飲んで見守っていると、やがてセリナはフゥ、と一息ついた。



「鑑定終了です。スライムのコアですね。こちらが引き取るとしたら八十ヴァルと言ったところでしょうか」

「うーん、買い取ってもらうには金額がイマイチね」



 鑑定結果にアンジェは腕を組んで考え込む。



「はちじゅうばる?」



 ぽかんとしていたら、アンジェが置いてけぼりになっている俺に気づいてくれた。



「こんな感じでコアはギルドの人に鑑定してもらえるの。コアはいろんなことに使えるから、そのまま売ることもできるのよ」

「へー、金になるってそういうことなんだな」



 勿論強い魔物や珍しい魔物のコアのほうが高く売れる。

 言うまでもなく、スライムは最低値のほうだ。八十ヴァルなんてりんご一袋買えればいいほうだと言う。



 ひとまずこれでコアが金になる理由はわかった。

 次は「武器」だ――と言いたいところだが、セリナが提案してきたのは別物だった。



「あと……このコアだと小手なら作れそうです」

「小手?」



 防具が出てくるとは思わず、つい聞き返すと、アンジェが「いいじゃない」と言ってきた。


 

「今のムギちゃんは防具がないからちょうどいいと思うわ。どう? ムギちゃん」

「お、おう……じゃ、それで」



 まだ話が読めていないが、アンジェが目を輝かせて同意を求めてきたのでとりあえず頷く。

 すると、セリナもセリナで「ちょっと待っててください」とその場でしゃがんで机の下の棚を開けた。



 そこから古い木箱を取り出し、机の上に置き直す。

 箱を開けると年季の入った短剣や具足が入っていた。



 セリナはその箱の中身を探り、奥から何かを引っ張り上げる。

 出てきたのは、それまた年季の入った鈍色の小手だった。



「これらは昔、冒険者の方々から寄付されたものなんです。自由に使って問題ないものなので、こちら差し上げますね」

「あら、いいの? 太っ腹ね」

「ムギトさんのギルド登録祝いです。これくらいならすぐにできるので、もう少々お待ちください」



 そう言ってセリナが小手をスライムのコアの横に置く。



「行きます!」



 気合いの入った掛け声と共に、セリナは自分の手を叩いたあと、勢いよく机に両手を置いた。



錬金魔法アルケミッド!」



 声を強めて呪文を唱える。

 すると、コアと小手の下が輝き出し、瞬く合間に魔法陣が現れた。



 魔法陣に反応してその二つがオレンジ色に光り出す。



 光に包まれたコアと小手は魔法陣の上でふわりと浮き、小さな光の球体になった。



 そのタイミングでセリナはそっと手をかざし、二つの球体を融合させる。

 球体は合体した途端、互いを吸収したように大きくなり、カッと強く瞬いた。



 神々しい光に目が眩む。だが、それもわずかな時間だけで、その後は徐々に輝きをなくし、ゆっくりと机の上に下降していった。



 机に着陸すると同時に魔法陣も消える。

 そこに現れたものに、俺は目を疑った。



 まず、コアが跡形もなく消えた。

 残ったのはあの古びた小手のはずだが、置かれているのは新品同様に真新しい小手だ。しかも、表面には青いジェルのような緩衝材がついている。



「はい、完成です」



 セリナに渡され、恐る恐る小手を受け取る。

 くっついた青い緩衝材は触ると弾力があった。まるで、スライムを固めたような弾力だ。



 ――スライム?

 その感想を抱いた時、俺は息を止めていた。



「そう、これが錬金――彼女たち【錬金術師アルケミスト】の能力スキルよ」

「【錬金術師アルケミスト】……だと?」

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