第23話 階級《クラス》格差激しくないっすか?

 しかもこれは現実世界で伝わっている(※ただし漫画の知識しかない)高価な金に錬成するためや、賢者の石を作るための錬金術とは違う。



 アイテムの鑑定、創作、錬成まで、広義的な錬金術を扱える万能なものだ。

 これも高い魔力マジックパワーと優秀な魔法によって成し得ているのだろう。



 セリナはただのギルドの受付嬢ではない。

 チート階級クラス・【錬金術師アルケミスト】。

 そして、ここはそんなチート階級クラスが取りまとめているギルドということらしい。なんてこったい。



 さて、【錬金術師アルケミスト】が優秀なのは勿論なのだが、その能力アビリティを成し得るにはコアの力も必要なのだという。



「魔物のコアには魔力マジックパワーが溜まっているので、ベースとなる物質さえあればこうして錬金術で合成もできるんです。しかもその魔物特有の魔力マジックパワーを利用して作るので、この小手みたいに魔物の特色が現れることがあるんですよ」



 そう言ってセリナはできあがった小手の緩衝材部分を指差した。言わずもがな、このジェル状の緩衝材がスライムの特色を現している。

 なるほど、これはノアも「拾っておけ」と言うはずだ。



 ふとノアを見ると、奴もにんまりと口角を上げてこちらを見ていた。

 その下衆げすい笑顔からノアがなぜコアの説明を端折はしょった理由も把握した。ただ、面倒臭かっただけである。



「よかったな。専門家、、、に教えてもらえて」



 皮肉ってくるノアに思わず舌打ちする。

 この数十分でコアのことも理解できたが、階級クラスの能力格差もひしひしと感じた。

 万能すぎないか【錬金術師アルケミスト】。

 そして、お前はいったいなんなんだ【赤子の悪魔ベビー・サタン】。



 世界の不条理に不貞腐れそうになったが、せっかくセリナが作ってくれたので小手をつけてみた。

 ベースが金属だから重たいかと思ったが、想像よりも軽い着け心地で動きにくさは感じなかった。これなら戦闘も妨げないし、防御力も上がる。



「ありがとう、アンジェ。セリナ」



 素直に礼を言うと、二人とも「どういたしまして」と微笑んだ。美男美女の笑顔は絵になるなと思ったのは内緒だ。



 ひと段落ついたところで、ふと思い出した。

 確かアンジェの新しい剣もコアから作ったと言っていたはず。



「なあ、その剣のコアってもしかして」

「そ。ルソードのコアから作ったの」



「ウフッ」と笑ったアンジェだったが、俺はつい退いてしまった。



 確かに剣のデザインはナイフに近いと感じたが、それがまさか昨日自分の肩をぶっ刺したものから取られているとは――ちょっと血の気が引く。



 それを言うと俺も同じか。俺だって、バトルフォークでぶっ刺したスライムの小手をつけているのだ。



「これって自分がった魔物で作った武器防具を使ってるんだな……」



 冷静になって考えると、俺のやっていることってただのサイコパス。

 そんな懸念をしていると、アンジェが「うーん」と腕を組んで唸った。



「魔物も『倒した』とは言うけど、『殺した』訳ではないのよね。コアをなくした彼らは魔界に戻るだけ」

「魔界? そんなのがあるのか?」

「あくまでも言い伝えだけどね。人は天に昇る。魔物は地に帰る。そうやって言われてるのよ」



 魔界。また新たな単語が出てきた。

 それが本当に存在するのなら、そこの住民が魔物で、そこを統べる者が魔王……ということだろうか。

 ここに来てようやく魔王に関する情報を得た気がする。覚えておこう。



「でも、それならなんで消えた時にコアだけ残るんだ?」



 なんとなしに浮かんだ疑問を二人にぶつける。

 アンジェは「鋭いわね」と褒めてくれたが、彼もセリナも回答に困っていた。彼らいわく、コアには謎が多く、まだ解明されていないことがたくさんあるらしい。



「それを研究するのも、私たち【錬金術師アルケミスト】の仕事なんですよ」

「え、だって他にも依頼クエストの斡旋やアイテムの錬成もやってるんだろ? 大変じゃないの?」

「大変と言えば大変ですけど……でも、やりがいがあって楽しいですよ」



 セリナが口角を上げてにっこりと笑う。その屈託のない笑顔が眩しくて目がくらみそうになる。



「やりがいか……凄いなセリナ」



 ああ、俺に足りないものはこの輝きなんだろうなあ。俺なんて、働く前から目が死んでたもんなあ。そら内定決まらねえわ。

 しみじみと思っていると、アンジェがフフッと微笑ましくしていた。



「そんな忙しいセリナちゃんたちのために、依頼クエストこなすのがあたしたちなのよ」



 パチンとウインクしたアンジェは、そのままスッと依頼クエストが貼られている掲示板に目を向けた。



「せっかくだから、このまま依頼クエストやってみる?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る