第87話 余りものには福がない

「馬鹿かてめえは。相性を考えろ」



 完全に蔑んでくるライザだったが、彼の言い分はこうだった。



 まず、属性魔法から見ると、「火」のアンジェは「水」であるライザが弱点なので、能力が反発しあうこの二人は自然と分かれる。



 幸い、髪色からしてアルジャーの属性も「火」だ。

 となると、ライザの相手はアルジャー一択となる。



「火属性の近距離攻撃なら、リオンがついたほうが動きやすいんだよ。だったら、消去法でお前は俺につくしかないだろ」



 ここまで見事なまでの正論を並べられると、ぐうの音も出ない。

 しかし、その言いようだとつまるところ俺は「余りもの」だということか。



「ぐぬぬ……」とライザを見ていると、冷ややかな目でライザは「なんだよ……」と言う。



「拾ってやってるんだから感謝しろよ。というか、お前の属性魔法なんだよ」

「氷」

「余計カマ野郎と組めねえじゃねえか、ド阿呆。というか、今までどうやって闘ってきたんだよ」

「うるせえなあ、気合いだよ」



 語気を強めてそう返すと、ライザはいかにも忌まわしそうな顔で俺に聞こえるように舌打ちしてきた。



 そんなやり取りをリオンはきょとんとした様子で眺めている。



「兄ちゃん。僕、アンジェ君とあのライオンさんと戦えばいいの?」

「ああ。行けるだろ?」

「うーん……凄く頑張る」



 一瞬難しそうにしたリオンだが、ライザにポンッと軽く頭を撫でられると途端に澄ました顔になった。彼も戦う覚悟ができたようだった。



「というかお前、リオンにも戦わせる気かよ」



 確かにリオンはとんでもない【治療師ヒーラー】だし、ここに来たのは彼の意志だ。

 そうではあるのだが、アンジェと組むとはいえこんな子供にあのどでかい魔物の相手をさせるなんてライザの奴は何を企んでいるのだ。



 そんな俺の心配をよそに、ライザはリオンのことを信頼しきっていた。



「安心しろ。こいつはお前よりも強えよ」



 そうやって不敵な笑みを浮かべるライザだが、俺も、おそらくアンジェも懸念していた。



「サポート頼むわね。リオちゃん」



 そう言いつつもアンジェの表情が緊張で強張っている。リオンをかばいながら戦おうとしているのだろう。



 だが、そんな攻防同時に行って戦えるような相手ではないこともわかっているはずだ。

 飄々としているのは、このエルフ兄弟だけだ。



 一方、俺たちのやり取りを眺めていたアルジャーは頭の後ろで腕を組みながら退屈そうにしていた。



「ねー。まだっすかー。俺は別に誰とでもいいんすけどー」



 ゆらゆらと揺らしながら、俺たちの戦闘準備が整うのを待っている。



 その隣で、リッチーヌは身をかがめながら俺たちをじっと見つめていた。

 両者共戦いたくてうずうずしているようだ。



「……待たせたな」



 アルジャーたちに向けて笑みを浮かべながら、ライザはトントンと銃を持った手でトントンと自分の肩を叩く。

 もういつでも戦えるという合図だ。



「待ってました」



 緊張感が流れる中、アルジャーは無邪気な顔で自分の両腕に鉄の爪を付けた。これが彼の武器のようだ。



「そっちは頼んだよ! リッチーヌ!」



 アルジャーが声を高らかにあげると、それと調和するようにリッチーヌが吠えた。



 身をかがめたアルジャーが力強く地面を蹴る。

 その瞬間、数メートル先にいたはずのアルジャーが一気に俺の懐に入ってきた。



「速っ!」



 反射的にバトルフォークを構えて振るってきたアルジャーの爪を押さえ込む。

 この速さはまるで獣。まったくもって目で追えなかった。



「あれあれ~? いいの? 終わっちゃうよ」



 そう言ってアルジャーはにんまりと笑う。

 これまで通り軽めの明るい口調であるが、目はもう笑っていない。こいつもる気満々である。



「汚物、そのまま押さえとけ!」



 俺の後ろでライザが銃を構える。

 アルジャーの間に俺がいるとはいえ、射程距離はごくわずかだ。この距離で撃たれたらひとたまりもない――はずなのに。



「おおっ! こわっ!」



 驚いたような声をあげながらも、アルジャーはトリガーを引いたタイミングを見切ってこの距離で水の銃弾を避けた。



「マジかよ!」



 目の前で尋常じゃない動きを見せつけられ、思わず驚愕する。

 この瞬発力。反応速度。人間とはかけ離れている。こいつ、本当に魔物だというのか。



 だが、今はそんなことを考えている暇ではない。



「じゃ、次は俺の番だ」



 八重歯を見せながら笑うアルジャーだったが、その口の中から火の外炎がいえんが見えた。

 もしやこれは――火の息か?

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