第44話 そこだけやたらと現実的
「……つっても、装備が変わってないから大したことないな」
そう言ってひと呼吸置いたノアは俺のステータスを読み上げた。
「体力が『+三』素早さが『+二』、力も『+三』……ってところか」
「待て待て。それだけしかパラメーター上がってないってことないだろ」
淡々と告げるノアを思わず止める。
一応レベルが二も上がっているのだ。もう少し伸びがあってもいいはず。
けれども、それは俺の考えが甘かっただけで、事態は無情だった。
「成人した野郎がそんなにすぐ筋力やスピードが上がる訳ないだろ」
「そうだけど、なんでそこだけ現実的なんだよ! 今まで散々ファンタジーだったじゃねえか!!」
ステータスボードに向かって指差してツッコミを入れるが、ノアは「やれやれ」とため息をつくだけだった。
だが、こればかりはノアのほうが的を射ている。
完膚なきまでに妥当な見解を言われ、俺はぐうの音も出なかった。
「あ、でも
「え? 本当か!?」
ノアに言われて
どんなにたくさん能力値の項目があろうが、これだけは初期数値を覚えていた。『三』だ。いったいそこからどれくらい上がっているのか……緊張しながら見ると、確かに他の数値より伸びがよかった。
「
力や素早さが二、三しか上がっていないのにこれだけ五も上がっているが、まだ全然足りない。なんせ、
そうなのだが、ノア自体はここまでの伸びを期待していなかったようで珍しく喜んでくれた。
「よかったな。お前の
「底辺っつうことは変わってないけどな」
ケラケラと笑うノアに対し、深いため息をつく。
あれ? 俺って勇者として転生したんじゃなかったっけ? こんなひどい扱いでいいのか?
こんなていたらくなものだから俺自身は先行きが途轍もなく不安なのだが、当の案内人様に焦りは見られない。
どうやら、ノアなりに俺の長所をわかっているからのようだ。
「そもそもお前、転生人にしては戦闘力が高いから、魔法に頼らなくてもそこそこ戦えてるんだよな。だからこの調子でやってもらえば、俺としては何も問題ない」
「そうなのか? なんか俺、初めて法に触れないくらいのやんちゃしてきてよかったと思ったわ」
「……お前、よく神の使いの前でそんなこと言えるな」
ノアが怪訝そうな顔をしていたが、俺は構わなかった。
課題はまだ色々あるが、ノアもこんなに余裕そうということは、俺にはまだ時間があるということなのだろう。
「とりあえず、このままレベルを上げて魔王を迎え撃てってことなんだろ?」
「そういうこった。せいぜい頑張りな」
にんまりと笑ったノアは俺の腹を降りたと思うと、そのまま眠るのか窓の縁にぴょんと飛んだ。
だが、窓の外を見てその場で固まる。何か見つけたのだろうか。
「どうした?」
俺も一緒になって窓の外を眺めてみる。そこでは黒い人影が動いていた。
街灯もないし、暗くて顔がよく見えない。ただ、すらっとしたスタイルのいい体型と肩につきそうな程で毛先が緩やかに巻いてある髪のシルエットには見覚えがあった。
「……アンジェ?」
先に寝ると言ったはずのアンジェが外にいる。しかも、手には何かを持っているようだ。
「あいつ、あんなところで何してるんだろうな」
「さあな……っと」
そう返した矢先、ノアが跳躍して俺の肩に乗った。
何も言わなくてもわかる。彼もアンジェの様子が気になるのだろう。
それに、俺も彼に確かめたいこともある。
「……行くぞ」
ノアに言われ、俺も頷く。そして、外にいるアンジェを見失う前に俺は早足で部屋を出た。
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