第67話 テンション上げて物理で殴れ!

「見た目のまんま、青色のさ迷う魂……まあ、ギルドのほうで勝手にそう呼んでるだけで、本当の名前はわからないんだけど」



 説明してくれるのはいいが、アンジェの足はふらついている。

 ほんの少しまで立てないほど弱っていたのだ。

 こうして剣を構えているのも無理しているに違いない。



 その証拠に戦う前からアンジェはもう肩で息をしていた。

 けれども、彼の鋭い目がブルースピリットを捉えているものだから、俺は「下がってろ」なんて言えなかった。



「大丈夫……自分の身は、自分で守るから」



 そう言ってアンジェはニッと口角を上げる。

 彼の心配をしたいのは山々だが、危機的状況なのは俺も同じだった。



「ケケッ!」



 不気味な笑顔を浮かべながら、ブルースピリットは引き裂かれるほど大きな口を上げて俺に襲いかかってきた。



 顔面目がけて飛んでくるブルースピリットの攻撃をなんとかしゃがんで避ける。

 だが、その途端「ガチン!」と奴の歯が当たる音がした。これは、噛まれたらひとたまりもなさそうだ。



 ハッとアンジェに顔を向けると、彼のほうにもブルースピリットが飛んでいた。

 けれども、たとえ絶不調でもアンジェは持ち前の運動神経で避けるどころか、次に攻撃してくるもう一体にも斬撃を入れていた。



「流石アンジェ――」 



 と、褒めようとしたのだが、彼の斬撃はブルースピリットの体をすり抜けて空ぶる。



「ちっ……噂通りの面倒くささね」



 舌打ちをしながらアンジェは眉間にしわを寄せる。

 どうやらこのブルースピリットは攻撃をすり抜けるようだ。自分は嚙みついて攻撃できるのに、本体に実体はないなんて厄介な魔物だ。



「でも、ここなら魔法を使えるわ」



 これだけだだっ広い場所なら、彼の火炎放射でも何かに燃え移ることはない。アンジェはためらいなくブルースピリットの群れに剣の切っ先を向けた。



 放射された炎はまっすぐブルースピリットたちに飛んでいく。

「ギャッ!」と短い悲鳴をあげているので、今の斬撃よりは効いているようだ。



 しかし、ダメージを与えられたとしても、アンジェの体力が持たなかった。

 火力もいつもより明らかに弱いし、一発撃っただけで彼はひざまずいた。連続でなんてとてもじゃないが撃てそうにない。



 ブルースピリットは容赦ない。弱っているアンジェをいいことに背中ががら空きになっている彼をためらいなく襲った。

 だが、俺がフリーになっていることを忘れている。



「うおりゃ!」



 反射的に持っていたバトルフォークをブルースピリットの頭に振るう。

 すると、攻撃を止めるだけのつもりが攻撃に手ごたえを感じた。



「ぐぎゃっ!」



 ブルースピリットも変な声でそのまま地面に叩きつけられる。

 自分らが物理攻撃が効かないことに余裕ぶっこいていたのだろう。他のブルースピリットも俺に警戒するように距離を取った。



「あれ? 効いた? なんで??」



 攻撃した手前、俺自身も何が起きているのかわからなかった。

 どう見ても攻撃力の高そうなアンジェの剣よりも、ただのフォークのほうが食らわせられるなんて、そんなことある訳―……。



「あーー!!」



 稲妻に近い閃きに思わず声があがった。

 いや、閃いたより思い出した。このバトルフォークは純銀製。つまり「魔除けの力」があるのだ。だから、ブルースピリットのようなエレメント系の魔物とは相性がいい。

 あの時はまだ可能性の話だったが、セリナの言う通りだった。



 セリナー! 鑑定してくれててありがとー!



 遠くの地で眠る彼女に届くよう心の中で叫びながら、俺は改めてバトルフォークを構えた。



「物理攻撃が効くならこっちのもんだぜ!」



 なんせ俺は、物理攻撃こっちのほうが得意なのだから。勝算が見えてくると俄然やる気が湧いてきた。



「うおぉぉ! 悪霊退散―!!」



 勢いに身を任せながらブルースピリットの群れに向かってフォークを薙ぎ払う。するとブルースピリットたちはけたたましい叫びをあげながら吹き飛ばされた。

 この攻撃で地面に転がって動かない者もいれば、恐れをなして逃げていくものもいる。形勢逆転だ。



「どうだ! 人間様を舐めるんじゃねえ!」



 高笑いしながら転がるブルースピリットを見下して指差す。

 そんな俺の横でアンジェは目をぱちくりさせていた。



「凄いけど……大丈夫? やたらテンション高くない?」

「いいんだよ。こういう実体のない魔物にはテンション上げて攻撃するのが一番だろ」



 まあ、それはゲーム(ナンバリングでいうとⅧ)の話なんだけど、気持ちで負けないところは共通しているはずだ。それに、攻撃が当たるとなれば怖いものはない。



「さぁさぁ、この俺が相手してやんよ」



 得意気な表情を浮かべながらバトルフォークをポンポンと手のひらで叩く。

 主人公補正というのを見せてやろうではないか。

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