第百二十八話 聖女とお話し合い


 「せ、聖女様!?」


 と、クロウが大声を上げて片膝をついた。俺達はクロウと女の子を交互に見た後、呟く。


 「え、聖女ってこの子が……!?」


 「うん……」


 クロウが俺の言葉に頷く。まあ今から話を聞く、という名目で集まっているのだから当然と言えば当然なのだが……


 「ここにある気がするけど開かない……」


 水色の髪の聖女は俺のカバンを開けようと必死だった。近くで見れば確かに綺麗な肌や身なりをしており、顔も整っていた。


 というか……


 「人のカバンを勝手に触るんじゃありません!」


 「あう」


 俺がカバンを引っ張ると、あっさり床に転がる聖女。それをクロウが慌てて抱き起こす。


 「ちょ!? カケル、なんてことをするんだ! 何でもいい、何か食べ物を分けてくれないか?」


 「あ、クロウ君だ」


 「今気付いたんですか!?」


 目を細めてじっとクロウの顔を見ていたと思ったらそんなことをいう。ボーっとしているように見えてボーっとしているようだ。


 「何かあったかな……お、ホットケーキの作り置きがあったぞ」


 「カケルさんもたいがい優しいよね」


 「困っている人間を助けるのが趣味みたいなやつじゃからのう」


 何かルルカと師匠がやれやれと言った感じでため息を吐いていた。そんな事は無いと思うんだが……・


 さて、ホットケーキをとりだしたのだが、時間経過が無いのでまだホカホカである。今更だが勝手に食材や道具、素材といったカテゴリ分けがされている点も見逃せない。アウロラがくれたアイテムの中ではこれが一番信用できる。

 

 早速ホットケーキを皿に盛りつけて渡すと、ボーっとした目が見開いた。


 「これは……きっと美味しい……!」


 「僕も食べましたがかなりでしたよ」


 「やはり……!」


 しかしテーブルは無いため手で持って食べることになる。そこで、聖女がきょろきょろと何かを探し、テーブルになりそうなものの上にホットケーキを置いて手を合わせた。


 「いただきます」


 「あ、あの、聖女様……そこは……」


 「くっく……面白いじゃないか」


 「ん~……♪」


 クロウが冷や汗をかきながら聖女へ声をかけ、レヴナントが苦笑する。だが、ご満悦の表情でクロウの声に聞く耳を持っちゃいない。

 味わっているのか、のんびり食べているのか分からないが、ようやく半分を食べたところで玉座裏の扉から神経質な足跡と、声が聞こえてきた。


 「聖女様! 聖女様はこちらですか! 部屋にいらっしゃるようにとあれほ……」


 ガチャリと入ってきたのは先程俺達と話していた枢機卿のエドウィンだった。ずかずかと玉座の前に回り込んだ瞬間、言葉が止まり、固まった。


 「エドウィン。これ、美味しい。明日から朝食はこれで」


 にこっと笑う聖女とは裏腹に大量の汗を流しながらエドウィンは叫んだ。


 「せ、聖櫃の上で何か食べてるー!?」


 食べてるー!?


 食べてるー……


 


 

 ◆ ◇ ◆





 「よく、無事で戻ってきましたねクロウ」


 「は、はい……ありがとうございます……」


 「それに入信者の皆様も。ご存じかもしれませんが、私はデヴァイン教の聖女、ユーティリアと申します」


 にこっと笑う顔は可愛いが、俺は気になっていることを口にする。


 「口の周りを拭け」


 「貴様、聖女様になんて口を聞くのだ!」


 聖女っぽい感じで取り繕ってはいるが、さっきの惨状を見る限りもう神秘的な感じで見ることはできなかった。こう、ちょっと期待していたんだけどな。ごしごしと口を擦り、納得したように頷くとまた神秘的な感じでクロウへと尋ねる。


 「それで成果は?」


 「は、エリアランドにあるという封印を無事発見し、解くことができました」


 「そうでしたか、偉い偉い」


 「や、やめてくださいよ」


 「ではアウロラ様の神託はお間違えでは無かった、ということだな」


 エドウィンも満足気に頷くが、クロウはスッと真顔になり、話を続ける。


 「いえ、この話には続きがあります。封印は確かに解けたのですが、まずその時にトロベルが瀕死の重傷を負い、さらにその直後『破壊神の力』の一つと名乗る者が現れました」


 「な、何、破壊神だと!? 聖女様、そのことは……」


 「聞いていませんね」


 エドウィンがユーティリアに顔を向けると首がちぎれんばかりの勢いで首を振っていた。


 「続けます。彼のもの……グラオザムは私達を攻撃し、全滅の危機に陥りました。ですが、そこにいるカケルという冒険者のおかげで九死に一生を得、何とか退けることができました」


 「な、何と……では入信したいというのは……」


 「嘘だ」


 俺がクロウの横に立ち、そう言うとユーティリアが玉座から立ち上がって頭を下げた。


 「せ、聖女様……!?」


 「クロウ君達を助けてくれてありがとうございました。彼等の代わりになる者はいませんから、心より感謝します」


 「ま、乗りかかった船だったしな。で、ついでと言っちゃなんだが、俺達から聞きたいことがある。時間はあるか?」


 するとエドウィンが少し腕を組んでから目を瞑ると、俺に目を向けて頷いた。


 「……よかろう、破壊神の手の者を退けるほどの者だ。本日の礼拝は聖女様抜きで行ってもらおう。手配してくるから、待っていてくれ」


 「ああ」


 「……くれぐれも私の居ない間に話を進めるんじゃないぞ? 帰ってきて進んでいたら怒るからな?」


 「……心配するなって」


 エドウィンが扉から出たのを見計らって俺は口を開く。


 「で、話というのは……」


 その直後、玉座後ろの扉がバーン! と、開かれて怒号が飛んできた!


 「だから待ってろって!!」


 そしてまた扉の向こうへ消えて行った。


 「あのおっさん面白いな」


 「可哀相だから止めてあげなよ」


 ルルカが苦笑いしながら俺にそう言い、横を見るとクロウとユーティリアが笑っていた。


 「え、エドウィンがあんな叫ぶなんて! あははは! カケルはやっぱり面白いよ」


 「珍しいですねー」


 そして数分後、エドウィンが戻り、情報交換が始まった。










 ◆ ◇ ◆









 『カケルさんが聖女と接触したわね。ここまでは想定内……』


 アウロラが池から見えるカケルを見ながら呟きティーカップに口をつける。


 『さて、どう誤魔化そうかしら? あの聖女、ボーっとしているから神託だとちょっと伝わらないかもしれないし』


 腕を組んで考えた後、目を開いてニヤリと笑う。


 『そういえばこれがあったわね。もう一回役立ってもらいましょう』


 そういうアウロラの手には、以前封印を解いた時に使ったガラケーが握られていた。


 残念なことに、アウロラはスマホを使いこなせなかったので、仕方なくガラケーを使っていた。


 『電話ができればいいしね。携帯は電話機なんだし』


 使いこなせない負け犬の遠吠えをしながら、アウロラは電話帳を押した。

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