第百四話 休憩時間、終わり!!


 「いたた……」


 「ご、ごめんなさい……」


 「す、すまない……盗み聞きなどはしたないことを……」


 着替えた俺はティリア達に拳骨をきめ、口を尖らせる。クロウにだけ聞いて欲しかった話だけに、気恥ずかしい。別に隠すつもりもないので聞かれることについては問題ないが盗み聞きは怒っておくことにしたのだ。



 「ったく、まさか男風呂に来るとは思わなかったぞ……」


 「リファが間違えたんだよ! ねえお嬢様」


 「へあ!? そ、そう言われればそうですね!」


 「あ、ずるい!?」


 「もう遅いからあまり声をあげるな……まあ、そういうことだけど、俺は俺だ。親殺しをした俺が怖いとか気持ち悪いと思えば無理に接してくれなくてもいいからな?」


 常識的に考えると母親は殺すわ、教祖は殺すわで日本という国を考えるとやりすぎた感はある。この世界ならいい、と言う訳ではないが、見る目が変わるのは有り得ると思った。


 「いいえ、その場に居なかった私があれこれ言うことはできません。今のカケルさんは優しいですし、恐らく相当だったのでしょう」


 「ティリア……」


 ニコリと微笑み俺の手を握る。


 「……それじゃ俺達はもう休むから、ティリア達も遅くなるなよ? 何が起こるか分からないからな」


 「うん。ボク達もすぐお風呂に入って寝るよ! ……異世界の話、もっと聞きたいからゆっくりできたら教えてね?」


 「気が向いたらな」


 ティリアの手を外し、ルルカの言葉には振り返らず、片手だけあげて俺は家へと戻って行った。入れ違いにバウムさんがお風呂へ行くと俺とクロウだけになる。するとクロウが口を開いた。


 「どうして僕に自分の話をしたんだい? そんな話で僕が君達の仲間になるとでも思ったのかな?」


 フードを取ったクロウが目を細めてニヤリと笑いながらそんなことを言う。俺は首を振ってクロウへ言葉を返す。


 「そういうんじゃない。ただ、勿体ないと思ってな」


 「勿体ない?」


 「お前はまだ若い。それに俺と違って復讐をする必要も無い。もしかしたら何かそういう思いがあるのかもしれないけど、今から舵を変えて生きることはできるはずだってな」


 「……」


 「俺の言いたいことは一つ。誰かに言われたことをするんじゃなくて自分で考えてやりたいことをやれ。そうすりゃもう少し面白くなるぞ? お前の殺した騎士にはきちんと謝ってな」


 「あ……」


 クロウの体にハイヒールをかけると、ふわっと光が包み込み、みるみるうちに火傷の跡が消えて行った。


 「これでティリア達にも顔を見せられるだろ?」


 「よ、余計なことをして!」


 「んじゃおやすみー」


 「こら! 話はまだ終わって……くそ!」


 俺が返事をしないことに怒りながら、クロウもベッドへと入っていく音が聞こえた。昼間の激戦からの疲れもあり、俺はすぐに眠りについた。


 (覗きだ! 今のは村長だったぞ!)


 (出てこいごらぁ! 村ごと焼き払うよ!)


 (お、落ち着いて二人とも……!)


 外が騒がしいな……ふわ……寝るか……。



 ピロン


 <――を失い、――に変化しました>


 ん? ナルレア? 悪い……また明日にしてくれ……。


 


 ――深夜





 むくり……


 

 「……何が『逃げ出すかもしれないから一緒にいる』だ、ぐっすりじゃないか。僕が抜け出すことを考えていないのか? 縛りもしないで……今なら逃げれる……風斬の魔王もよく寝ているし……」


 カチャリ


 「……」








 そして翌朝―― 


 「ナマコが口の中で大暴れを……!?」


 「何を言ってるんだ?」


 「あ、あれ? おはよう、バウムさん……」


 酷い夢を見たが何故か思い出せなかった。いや、きっと思い出さない方がいいのだと直感が告げていた。そして、部屋を見渡すともぬけの殻になったベッドがあった。


 「あれ? クロウは?」


 「あいつは――」


 バウムさんが目を閉じて、俺に告げる。



 ◆ ◇ ◆



 「へえ、そんな顔をしてたんだ。将来かっこよくなりそうだね」


 「そうだな、もう少し大きくなったらモテモテだぞきっと!」


 「リファ、モテモテは古いと思ふふぁ」


 「うるさーい! ゆっくり食べさせてくれ!」



 村長の家で朝食ができていると言うので、俺とバウムさんが村長宅へ向かう(起きるのを待っていてくれたらしい)と、先のやりとりが繰り広げられていた。


 「おはよう」


 「あ、カケルさふぁん! おふぁようございます!」


 ティリアが目玉焼きとソーセージとパンを頬張りながら挨拶をする。食いしん坊魔王は今日も元気だった。


 「よう、起こしてくれてもいいじゃないか」


 「起こしたよ! 全然起きないから風斬りの魔王に任せて先に来たんだ! ほら、パンとミルク」


 頭を撫でるリファの手を払いのけながら


 「お、サンキュー。フード、取ったんだな」


 「……傷も無いのに被ってる必要もないだろ? 暑いし」


 ふん、とパンをかじりながら鼻を鳴らす。もう起こしてしまったことは取り返しがつかないが、この先こいつが少しでも生きやすい様になってくれればいいな、と俺は思いつつ、朝食を平らげた。


 ……ぼこぼこになっている村長はあえて無視した。



 ◆ ◇ ◆


 

 朝食を早々に済ませて村長にドラゴンをお願いして俺達は村の入り口へと向かうと、ニド達が入り口で待ち構えていた。


 「どうしたんだニド? まだ朝は早いぞ」


 「ま、まあその通りだが……俺達もついて行こうと思ってな。いいだろ?」


 見ればブルーゲイルのメンバーが笑いながらうんうんと頷いていた。


 「戦力が大いに越したことはないが、何かあっても責任は持てないし報酬もないぞ?」


 俺が何かを言う前にバウムさんが注意をしてくれた。冒険者ならタダ働きは嫌うし、今回は特に危険が伴う。


 「なあに、デブリンを倒せるカケルがいれば早々何かあることは少ないだろう? それに魔王が二人……カケルを合わせて三人なら尚のことな。報酬は……何かあったら分けてくれ!」


 「危険だぞ?」


 すると、アルがニヤリと笑いながら俺に言う。


 「ま、神殿と聞いちゃお宝を期待しない訳にはな? 代わりに俺達を使ってくれていいし、どうだ?」


 俺がティリアやルルカを見ると、彼女たちは困った顔をして『カケルさんに任せる』という感じで見返してきた。


 「ま、このパーティのリーダーは実質カケルだ。好きにしてくれ」


 「うっそ!? いつの間に!?」


 「いや、クロウを連れてきておいてそれは無いと思うぞカケル……」


 ああ!? それで俺主導みたいになってるのか! ……アウロラのことなら他人事じゃないから真相を知りたくて動いて来たけど、あまり気にしてなかった。


 「……ええい! なら役に立ってもらうぞ!」


 「……そうこなくっちゃ……」


 むふふ、とサンが笑い、そのまま俺達の後を着いてくるように歩き出す。人数が多いのは守りにくいが、数で有利を取れるのはありがたい。クロウの仲間が何人いるかまでは聞いてないしな……。


 そして俺達は程なくして『ボウフウン山』へと足を踏み入れた。


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