第百七話 おいでませナルレアさん
【……死んだか?】
グラオザムがカケルの頭から足をどけて一人呟く。周りを見れば動いている者はいなかった。
【さて、これで誰も動かなくなったことだし、早速いただくとするか】
近くに倒れていたティリアの頭を掴むと、軽々と持ち上げる。その瞬間、ティリアが目を覚まし口を開いた。
「こ、この力は一体……新参の魔王である私はともかく、バウムさんまでが……う!?」
ティリアが喋っている途中で手に力を込め黙らせたグラオザムは笑いながらティリアに顔を近づけて叫んだ・
【ふはは! まだ息があるとは中々の強者だ! しかし魔王だと……? その力はゆ……む!?】
<損傷率80%オーバー……マスターの意識遮断……エマージェンシーと判断し、自己防衛機能を優先します>
「カ、カケル……さん……」
【馬鹿な、頭を砕いたのだぞ? ただの人間が生きていられるわけがない。まあいい、もう一度殺すまでだ】
「きゃ……!」
ティリアを投げ捨て、立ち上がりつつあるカケルへと近づく。
【ふむ。貴様も中々の強者だったが、運が悪かったな!】
ブン! グラオザムの蹴りがカケルの頭を捉え、撃ち砕こうとした。このままではカケルの頭はザクロのように弾けてしまうところだが……そうはならなかった!
ガッ!
【受けただと!?】
<同調まで残り95……96……100%>
そう言った後、カケルはグラオザムの足を掴み、投げ捨てるように手を離した。
【ふむ。やるな】
<ふう、危なかったですね。今のを食らっていたらアウトだったかもしれません。おや、皆さん死にかけですねカケル様には申し訳ありませんが、新スキルの初使用は私めが使わせてもらいますね『還元の光』>
カケル(?)が手をかざすと、ふわっとした光が倒れていた全員にかかり、傷や鎧の損傷などを修復していく。それを見てグラオザムが目を細める。
「な、治っていく……凄い力だわ……」
【……ふむ。あれを回復させるとはな。500年ぶりに復活した余興としては面白かったぞ】
<それは良かったです。では、代金はあなたの命ということでよろしいでしょうか?>
【……】
その言葉を聞いた瞬間、ゴゥ、とグラオザムの体に魔力がみなぎって行くのがハッキリと分かった。するとそこで回復したティリアが声をあげた。
「カケルさん! 私もお手伝いします!」
<フフ、ティリア様ですね? 私のことは大丈夫なので、とばっちりがそちらに行かないようにお願いします>
「……カケルさん……? じゃ、ない!? 目が……青い!」
ティリアがそれに気づくと、ニコリとカケル(?)が笑い、自己紹介をする。
<初めまして、ティリア様。私の名はナルレア。カケル様の心の中でナビゲーターをさせていただいております。意識を失ったカケル様に代わり、この体を使わせていただいている次第です>
「あ、はい。ご丁寧にどうも……ではなくて、お一人では……」
ぺこりとおじぎをしたティリアは慌てて駆け寄ろうとするが、一足早くグラオザムが動いていた!
【ふむ。貴様が何者かなどはどうでもいいこと。潔く死んで私の養分となれ!】
<見たところレベルは高そうですが、頭は悪そうですね。せい!>
ガッ! ザザザザ! キィン!
【ふむ、速い!? はああ! ≪ブラックウインド≫!】
<甘いですよ>
ナルレアの槍が、殴り掛かってきたグラオザムに迫り、激しい打ち合いとなったが、槍のリーチがある分ナルレアが有利。高速で繰り出される拳を槍の背でガードしながら柄や穂先を使いダメージを与えていく。吹き飛ばされる瞬間に放った魔法を槍を振りかぶり闇の真空波を真っ二つに斬り裂いた。
打つ、蹴る、突くと攻防が続くが、ナルレアの動きが鈍くなり、一度後ろに下がった。
<……動きが固いですかねやっぱり。自分の身体を造るべきだと考えさせられますね>
手がジーンと痺れるのを見ながらナルレアが呟く。とばっちりがこないよう光の盾を使って見守っていたティリアが口を開けて呟いた。
「つ、強い……」
【ふむ。手加減していたとはいえ、私の猛攻を凌いだ上に反撃を仕掛けて来るとは。しかし、私は貴様等のいうところの『レベル』で換算すると230はあるぞ? そこの魔王と名乗った女でもいいところ50くらいだろう。 貴様も良くて100前後ではないか? 勝ち目はないぞ】
<……カケル様をベースに考えるなら、今はレベル12ですね! まったくもってあなたと比べたら話しになりませんよ?>
「ええ……」
ティリアががっくりと表情を崩すが、ナルレアはニヤリと笑い言葉を続ける。
<まあ、カケル様はそうですが、私はまた少し特殊でしてね。ネタバレすると面白くないんで割愛しますが……多分レベルに換算すると600くらいはあるんじゃないですかね?>
【なに!?】
ドス!
ナルレアが『ですかね?』と言い終わる前にはすでにグラオザムの右肩が槍で貫かれていた。ブシュ! っと血しぶきがあがる! すかさず右足をい抜き、膝が落ちたところで心臓を狙う!
<流石に心臓を壊されたら死ぬでしょう。背中からいきますよ>
【おのれ……!】
<チッ!>
ゴロゴロと転がり、槍の一撃から逃れると、ボン! という音と共に、巨大な蝙蝠へと姿を変えて上空を飛びあがった。
<しまった! そんな能力を!>
【ふむ……私も復活したてで思うように動けんようだ……他の封印をといてエアモルベーゼ様と合体せねば……次は必ず養分にしてやる……これは負け惜しみではな……うわ!?】
<外しましたか! ティリア様、バウム様の弓を貸してください!>
喋っているところに槍を投げつけるがすんでのところで当たらなかった。
「は、はい!」
【ふははは! その娘、ティリアと言ったか、光の『勇者』なら破壊神の生贄として相応しい。その時まで命を預けておーくぞー!】
グラオザムはオペラチックな捨て台詞を残して神殿の天井にある裂け目から逃げ出していく。寸前でナルレアが矢を放ったがそれも届かなかった。
<他人の宝具ではダメですね……しくじりました>
「で、でも結果的に撤退させたから良かったんじゃ……」
<いえ、あの男の言うとおり、今のメンバーでまともにやりあって勝てるものは居ません。自分で言うのも
お恥ずかしいですが、『現時点』では私が唯一追いつめられる力があったので、できれば倒しておきたい、と……思っていたのです……が……切り札、として、は、今一歩……>
「どうしました?」
<稼働、限界のようです。初めての『同調』でしたので、思いのほか負担があったようです、ね。それ、とカケル様が目を覚まそうとしている影響で、す……すみませんが後をお願いします……(やはり身体を造らねば全力は……)>
ガクリとティリアにのしかかるようにカケルの身体が倒れ、慌てて抱きとめるティリア。力が無いので支えている、という言葉の方がしっくりくる。
「ふう……それにしても破壊神の力が具現化して襲ってくるなんて……」
そこでティリアは男の言葉を思い出す。
『他の封印を解いて……』
「ここ以外にも封印がある……? それに私を『光の勇者』と言ったのは何なのでしょう……デヴァイン教の文献、後で拝見せねばなりませんね。ルルカの知恵も必要でしょうか……」
「……ん」
「カケルさん? 気づきましたか?」
「あれ……俺は一体……」
「カケルさんがナルレアさんという方に成り代わってあの男を撃退したんですよ!」
「ナルレア……そういや、ビシバシ戦っている夢を……夢じゃなかったのか……」
「そうですよ。とりあえずみんなを起こして作戦を……」
と、ティリアがカケルの頭に手をおいた時、カケルはくんくんと匂いを嗅ぎ始めた。
「んー……何かいい匂いがする……柔らかくてふかふかしてる……何だこれ……」
ふにょん
「――!? きゃあああああ! カケルさんのエッチ!」
「ふぎゃ!?」
ティリアの支えが無くなり、カケルは顔から地面に落ち、鼻血を出しながら再度気絶した。
「ああ!? ご、ごめんなさい! カケルさん! カケルさーん!」
カケルが目を覚ますのはそれから15分後のことであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます