第百八話 やらなければならないこと


 「とりあえずみんな目が覚めたようだな」


 「いや、そんなにキリッとされてもさ……カケルが最後だったんだけど……」


 クロウが呆れながらツッコミを入れてくる。それに対し、俺は涼しい顔で話題を逸らす。


 「ま、細かいことはいいじゃないか。それにしてもティリアは着やせするタイプだったんだなあ」


 「……!! う~!」


 俺が蒸し返すと、顔を真っ赤にしてポカポカと俺の背中を叩いてくる。腕力が無いのでまったくダメージは無い。むしろ膨れた顔が可愛いくらいだ。


 そんなティリアはともかく、今後のことを話さないと……そう考えているとバウムさんが手を上げて口を開いた。


 「いいか? グラオザムとやらは『破壊神の力の一つ』と言っていた。他にもあるということになるが、お前達はそれを知っているのか?」


 バウムさんがクロウ達デヴァイン教徒へ向けて尋ねていた。確かにあの口ぶりだと他にもあるってことになるな。


 「……知っているかどうか、という話なら僕達は『知っている』だけど、破壊神の力が復活することは知らなかったよ。アウロラ様の封印と聞いていたからね」


 「ならボクからも一つ聞いていい? デヴァイン教って白いローブが基本だよね? どうして黒のローブを見に着けているのかな?」


 ルルカもここぞとばかりに聞いていた。それについては女性の教徒、レオッタから弁明が入る。


 「聖女様が言うにはこの封印、ヘルーガ教は破壊神が封印されていると思っている、だから争いにならないよう、変装して行きなさいと言っていたわ。後、クロウがやった人間の異種族狩りを主導したのはヘルーガ教徒と見せかけるように、というお達しもあった」


 「……おかしくないか? 変装はまだいいとして、聖女が神託を受けてアウロラの復活のために争いを起こさせるというのが腑に落ちない。封印を解くだけなら黙ってこの山に来て封印を解けばいいだろう?」


 「……それは……聖女様に言われたから」


 「それが教徒の悪い癖だな。言われたことだからと、考えない。でもここでクロウ達を責めても仕方ないか……聖女とやらに話を聞いた方がいいだろうし。それともう一つ……いや、二つ分からないことがある。一つは文献だ、それには一体何が書かれている? それとバウムさんにティリア、二人は破壊神のことをどれくらい知っている? 封印についてもまるで知らない感じがしたけど……」


 するとバウムさんが腕を組んで目を瞑り、ゆっくりと喋り出した。


 「正直言って破壊神のことはほとんど知らないのだ。500年前、どこからともなく現れて世界を闇で覆った……その後は女神アウロラ様が倒した、ということだけなのだ」


 「私も似たようなものですね。でもお父様からはアウロラ様と破壊神は相討ちになった、と聞いていますけど……」


 食い違いがある? 


 「なら――」


 と、俺が声を出そうとしたが、ルルカに先を越された。


 「クロウ君に文献を見せてもらったけど、封印の解き方くらいしかめぼしい情報は無いかな。それとボクが知っている話も、魔王様二人の話と違うね。ボクはアウロラ様と魔王が協力して『倒した』と教わったよ?」


 「……まるで話が繋がらない……どれが本当なのか……クロウ、この文献はどこで手に入れた?」


 俺がクロウに聞くと割と簡単に教えてくれた。


 「城の地下だよ……こうやって他人から言われてみるとおかしな点がいくつかあるね……地下の警備が厳重だからと騒ぎを起こしたけど、そもそもそこまでする必要があったのか? 大人しく王へ事情を話すだけで良かったんじゃないか? アウロラ様は封印を解く際に破壊神が復活することを知っていたのに聖女様に教えなかったのか? そういったところだね」


 「……だな。文献があることを知っているのに、内容を伏せている意味が解らない……アウロラめ……」


 俺はスマホを取り出し、折り返してみるが非通知にはつながらない。


 「くそ、繋がらん! あいつが話してくれれば一番早いのに……」


 「あ、それ、気になってたんだ! 後で見せてよ!」


 ルルカが目を輝かせて俺にくっついてくる。見たところで意味があるか分からないが、それは後だ。今分かっている情報をまとめてみるか。


 ・アウロラの封印と破壊神の封印は一対


 ・神託を受けた聖女が何かを隠している?


 ・そもそもアウロラが何かを隠している?


 ・変装させて危険を避ける=ヘルーガ教も封印を狙っている?


 ・アウロラと破壊神の戦いの結末がバラバラに伝わっている。


 こんなところか? 最後のは500年は経っているから、と思えばそこまで違和感はないけど……するとここでティリアが声を上げた。


 「どちらにせよ、封印は一つ解かれました。あのグラオザムという男が残りの封印を解く可能性も十分にあります。それを食い止めないといけないと思います」


 「しかしお嬢様、魔王が三人いてこの惨状では止めるのはかなり難しいと思うのですが……」


 「それでも世界の危機です。あなたとルルカは国へ戻りなさい。特にリファに何かあれば国王に申し訳が立ちません」


 「う……」


 リファがティリアの剣幕に押され呻く。だが、ルルカは首を振って答えた。


 「ボクは一緒に行くよ。アウロラ様の封印だなんて研究材料としてこんなに面白い物もないし。危険は承知だけど、もしお嬢様達が倒せなかったら世界は終わりだよね? だったらどこに居ても一緒かな、って」


 「ルルカ……」


 「……私もできればお供させて……」


 「いえ、リファは国王様と兄上が怖いのでダメです」


 「そんなあ~……」


 いいシーンかと思ったけど、リファはぴしゃりと止められていた。それほどまでに怖いのか……? と、場が和んだところにブルーゲイルの面々がようやくとばかりに喋り出した。


 「俺達はとんでもないものを見てしまったようだぜ……なあ、ユニオン経由であちこちへ知らせておいた方がいいんじゃないか?」


 「そうですね。封印の情報などを集めてもらえれば守りやすいかもしれませんよ。……わたし達ではお役に耐えませんが……」


 ニドとコトハがそう言ってくれるが、俺はもう少し待ってほしいと言い放つ。


 「まだ止めておいた方がいいと思う。混乱が広がるだけだと思うんだ」


 「ならどうするんだい?」


 アルが聞いてくる。


 「……今の情報からできることをやる。一つ目は聖女に会うこと。二つ目はティリアの最初の目的である各魔王の協力を仰ぐこと。三つ目は封印について調べることだな、これは一旦文献のあったハインツ王に話を聞けるかもしれない」


 俺がそこまで言うと、バウムさんが口を開いた。


 「私は先程の件に関わった者として、協力を惜しまないつもりだ。だが、今のままではヤツに勝つのは難しい。私は私なりに調べものをするのとレベルを上げるつもりだ。着いて行くことはできない。しかし時が来たら必ず合流すると約束しよう」


 バウムさんは協力してくれるが独自で動くようだ。もしかしたら何か考えがあるのかもしれない。


 「それにこの馬鹿な弟を締め上げねばならんからな……!」


 黒ローブに混じっていたフィアムがビクッと体を震わせたが、すぐにフッと笑いながらバウムさんを見る。


 「フッ……まさか死んでいないとは思わなかったよ……伊達に魔王じゃないということ……かぁぁぁ!?」


 大仰な態度を取って喋るフィアムにバウムさんの拳が後頭部に炸裂した!


 「何を格好つけている? 正直死ぬかと思ったぞ。カケルに助けてもらわなかったら危なかった。どうしてこんな真似をした?」


 「フ、フフ……エルフはもっと世界に出るべきだ……森の中で閉塞したまま終わるには勿体ない……! 都に出て田舎者だと言われることも……兄さんに便所掃除を押し付けられる事も……!」


 あ、かなりしょぼい理由になってきた……バウムさんの顔が鬼みたいになってる……。


 「お前がちゃんと働けばいいだけだろうがぁ!! それが嫌で逃げた上、私を殺して集落を掌握しようとしたとは……よし、帰ったら覚悟しておくんだな」


 「あ、その……ごめんよ兄さん……もうしないから……」


 「ダメだ」


 「あ……あ……」


 終わったな。とりあえず裏切り者の件はバウムさんに任せておけばいいか。


 さて……破壊神とやらに興味は無いが、ここへ俺を送り込んだアウロラが噛んでいるなら動かない訳にはいかない。俺をここに送った理由、もしかすると何か関係しているのかもしれないしな。



 それに、あのちっこい魔王は一人でも戦いに行く。どうせなら一緒に戦う方がいいだろう。


 「カケルさん! どこから向かいますか?」


 まだ何も言っていないのに一緒に行くと思っているのか、そんなことを言ってくるティリア。


 俺はティリアの頭にポンと手を置いてから行き先を告げた。


 「そうだな、まずは――」

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