第九十五話 カケルの頼みごとは死亡フラグ


 ――エルフの集落



 「バウム様ぁ!? 竜の騎士団が動いたとの報告が!」


 「早かったな、ウェスティリアさんが来訪して焦ったか?」


 慌てて報告する斥候エルフとは裏腹に、バウムは冷静に状況を分析する。実はウェスティリアが王都オルカンへ向かった時点でこの動きは予測の一つとして頭の中にあったりする。


 そもそも、魔王が別の国へ出向くことが稀であり、国の状況を考えると、魔王同士が繋がっていない訳がないと人間は思うだろうとも。

 それでもウェスティリアが洗脳される、または罠にかかって倒されるということも有り得るため、様々な状況でも戦えるよう準備を進めていた。しかし、ウェスティリアが出発してから三日でことを起こすとは思っていなかったのも事実である。


 「どれくらいで着きそうか?」


 「ワイバーンの速度を考えると、おやつ時には攻撃を受けるでしょう」


 バウムが聞くと、違う方向から声がし、振り返るとユリムが弓を持って立っていた。


 「……お前も行っていたのかい?」


 「ええ、森からは出てないけど、町に入っていた斥候のお出迎えにね。クリムが一緒じゃなければ私の強さはお父さんがよく知っているでしょう? それで、迎え撃つの?」


 「無論だ。結界があるから空からの攻撃はそれほど脅威ではないと思うよ。ワイバーンは森に入れるほど小さくはないしね」


 バウムの言うとおり、地の利はエルフにあり、総攻撃をかけてきたとしてもエルフが圧倒的な有利を取れ、地上戦に持ち込んでもよくて五分。魔王のバウムが居る分、さらに勝ち目など薄いのだ。


 「(私がまだ毒でやられていると思っているなら僥倖だな。フィアムは来るだろうか……? あれは私の手で始末をつけないと……)」


 「バウム様、ご指示を」


 バウムが考え事をしていると、斥候から声がかかりハッとする。頷いたバウムは斥候とユリムに戦闘準備をするよう触れて回るよう言った。


 「迎え撃つぞ、結界の外へ出る必要はない。射程外からの弓をお見舞いしてやれ。逃げ帰る者は追うな、戦闘後、負傷者がいれば敵味方問わず助けるんだ。交渉材料にもなる」


 「カケル様とウェスティリア様はどうなったのでしょうか……」


 「……分からん。が、敵に居ないことを祈ろう」


 「どうかご無事で……カケル様……」




 そこからさらに数時間が経過――



 まだ黒い点のようだが、一際大きい赤いドラゴンを筆頭に、竜の騎士達が視覚できる状態にまで近づいてきた。


 「ギリギリまで待つんだぞ……赤いドラゴン、フレイムドラゴンか。手ごわい相手だが、さりとて私は魔王。力負けはしない」


 槍を背に、弓を手にしたバウムが皆を鼓舞し、段々と距離を縮めてくる竜の騎士を見やる。


 だが、さらにその後ろに、凄い速さで飛んでくる三匹のドラゴンの存在までは気付けなかった。


 そして――!


 「何!?」


 バウムの驚愕した声が上がった!





 ◆ ◇ ◆





 「わー、はやーい!」


 「『はやーい』じゃないだろ!? 速すぎだろこれ!?」


 ティリアののんきな声に俺は、速く鋭くツッコミを入れる。こいつは空を飛んでいるから慣れているのか、ファライディはかなりの速さを出していた。それでも前を全力で行くサンデイには追いつけないようだ。


 「空気圧も低いし、寒い……でも、これなら一気にいけそうだな。馬車での移動がゆっくりと感じるなこりゃ」


 「ドラゴンは万能ですからね。飛べない竜もいますから、ファライディ達は優秀だと思います」


 「グルウ♪」


 「地竜とか飛べなさそうだな……いるのか分からないけど。この後は戦闘になる可能性が高い。仲間と戦う事になると思うが頼むぞ」


 嬉しそうに鳴くファライディの背中をペしぺしと叩きながら俺は前を見る。まだ追いつけはしないようだ。時間が少しあるな、と思い俺はティリアに話しかける。


 「……なあ、この戦いが終わったらお前の宝具で俺を見てくれないか?」


 「え? どうしたんですか急に?」


 「いや、アウロラが俺をここへ送った理由がやっぱり気になるんだ。何も無ければそれでいいけど、あいつを崇める宗教や、来るときに言わなかった破壊神のことが引っかかるんだ」


 デヴァイン教が何かをした、という訳ではないが、その対立団体とも言うべきヘルーガ教はがっつり活動している。もし封印が破壊神の復活とかであれば、破壊神がいると俺に一言あっても良かったんじゃないかとも思う。魔王の力が無ければ巻き込まれることは無かっただろうし……。


 「分かりました。それでは終わった後に必ず」


 「途中まででいいならお前達に着いていくよ。ルルカが離れるのは困るだろうし」


 「いえ、あの時は私も意固地になっていましたから……すいません……無報酬でやります!」


 「……ま、お礼は考えておくよ」


 協力はしなくていい、とティリアは言う。俺としては願ったりだが、タダというのは忍びない。……というか今、『この戦いが終わったら、俺●●するんだ』的なフラグ立てた?


 そんなアホなことを考えていると、少し速度を落として近づいてきたクリューゲルが俺達に叫んだ。


 「見えたぞ! 竜の騎士団だ! かなり戦力を持ってきているが、国王を倒せば説得に応じてくれるはず。俺は正面から行く。チューズディとファライディは左右から挟むように動いてくれ」


 「グルオオオ!」


 「ギャオオオ!」


 「おー、言葉が分かるのか? 賢いなこいつら」


 言葉が分かれば腹が減ったとかコミュニケーションが取れるし、何を考えているかも何をして欲しいのかも伝わる。異世界の言葉が分かるんだからこれくらいはできてそうなもんだけど……。


 「喋れればいいと常々思うがな。では先に失礼する!」


 竜の頭部を模した兜を装着し、クリューゲルとサンデイは速度を上げた。デブリンを貫いたあの槍、やっぱ強いんだろうな。


 「リファ、ルルカ、無理をしないでくださいよ!」


 「お嬢様も!」


 「ボクは魔法で牽制していくよ!」


 そう言いながら、右側へと回り込むように移動する。


 「俺達も行くか、ファライディ左だ!」


 【ギャ!(お任せくだせえ!)】


 元気よく鳴いた……鳴いた!? ってか喋らなかった今? と思ったら「ピロン」という音と共に、ナルレアが


 <全世界の言語習得:読み書きが上書きされ、『全言語習得:読み書き』になりました。ファライディとの友好度により、意思の疎通が可能になりました>


 おっと、ここで面白いのを手に入れたな。さっきの握手は無駄じゃなかったって訳か。


 「ファライディ、お前の得意技は何だ!」


 「いきなりどうしたんですかカケルさん?」


 ティリアがドラゴンに話しかける俺を訝しむが、気にせず語りかける。


 【グルォォォン! (そりゃやっぱりこの爪でしょう。実は一本だけ毒がありますぜ)】


 「毒か……それってどれくらい強いんだ?」


 【グルグル。ギャオオン!?(まあ、毒耐性があれば嘔吐、下痢が一週間。耐性が無いヤツはヘタをすると死にます……って分かるんスか、あっしの声!?)】


 「そういうこった。左から回り込んでワイバーンを叩くぞ。人間はできれば無力化だけにとどめたい」


 【グルルウ(この高さで無理難題をおっしゃる……ですが、このファライディ。そういうのが大好きなんスよね! しっかり捕まっててくだせえ!)】


 グオンと体を傾け、左側面へと移動する。


 俺のレベルでどこまで戦えるか分からないけど、竜の騎士の実力を見せてもらうとするか。

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