第百二話 急がば回れの精神で



 ファライディに乗ってスィーっとのんびり空の散歩……と行きたい所だが、封印の内容が良く分からないので、結構全速力で飛んでもらっていた。

 おかげで、馬車ならほぼ半日くらいかかる道を二時間くらいに短縮することができた。あれだ、高速バスか飛行機か、それくらいの差だと思う。

 

 【ガウ! ガオウ!(旦那、そろそろ到着しますぜ!)】


 「了解だ」


 前方にベリーの村、そしてその後ろに封印がある山『ボウフウン』へと到着する。少し陽が暮れてきたとはいえ、いきなりドラゴンが降りるのでは驚かせてしまうということで少し離れたところへ着陸をしていると、村から何人か人が出てきていた。


 「ありゃ、やっぱ目立つかドラゴン」


 「仕方ないだろう。大丈夫、ちゃんと説明すれば分かってくれるさ。お嬢様とバウム殿が居れば説明もたやすいだろう」


 リファが俺の横に立ちそう言ってくれる。だが、ドタドタと走ってくる人影には見覚えがあった。


 「あ! お前、ニドじゃないか! どうしてこんなところに?」


 「お、お前、カケルか!? どうしたもこうしたも、俺達はゴブリン攫われていた子を村まで連れて来たんだよ」


 そうそう、どこかで聞いたことがあると思っていたんだ! ユリムを助けた時に居た子の一人がベリーの村だって言ってたよな。するとニドの後からコトハが声をかけてくる。


 「私達はともかく、どちらかといえばドラゴンに乗ってきたカケルさん達の方がどうして、だと思いますけど?」


 「ああ、それについては――」


 俺は手短にそして簡潔にことの経緯を説明した。


 「マジか……国王が戻って異種族狩りが無くなったのはいいけど……」


 「おかしな連中が良く分からない封印を解こうとしているってわけだな?」


 アルとドアールがクロウをチラリと見ながら言い、クロウがそっぽを向く。そしてサンが声を出した。


 「……アウロラ様の封印……気に、なる……」


 「意外と怖いもの知らずだなサン。ただ、アウロラの封印かどうかはまだ分からないんだ」


 「……僕はアウロラ様の力が封印されているって聞いたけどね。聖女様が嘘を言うはずがないよ」


 「ボクが知っている限りだと、破壊神はともかく、女神様が封印されているって話は聞いたことないけどね」


 クロウもルルカも嘘を言っているとは考えにくい。特にクロウがアウロラの話をするときは結構マジな感じで食って掛かってくる。

 

 「カケル、あまり時間も無い。急がないか?」


 「ああ、バウムさん。だな、夜の山は危ないと思うから慎重に行こう」


 バウムさんがここで話していても仕方がないと先へ進むのを促してくれるが、そこにニド達を追ってきたのか、一人の爺さんが現れた。


 「夜、山に入るのは止めておいた方がええ。あの山は夜に活動する魔物が多いでな、視界の悪い夜に行ってもあまり先には進めんぞい」


 「私と、この二人は魔王だ。それくらいなら……」


 と、爺さんの言葉を返そうとバウムさんが口を開くが、爺さんは止まらない。


 「若い娘さんが多いようじゃし、暗闇の中でスッと攫われるかもしれんぞい? さっきも黒いローブの集団が入っていったが、今頃どうなっておるやらのう」


 「そんなに危ないんですか?」


 山を見ながらポツリポツリと喋る爺さんにティリアが声をかけると、ぬう、っとティリアに顔を近づけて言った。


 「おぬしのような可愛い娘ならペロリじゃろう……な!」


 「ひぃ……!?」


 「魔王だけどな、ティリアは」


 俺が爺さんを引きはがすと、ニドが爺さんの擁護に回っていた。


 「さっきの話で急ぎ、というのは分かるが、村長の言うとおり止めておいた方がいいと、俺も思う。魔王が三人いても、そっちの剣士と魔法使いのお嬢さんは人間だろ? 何かあってからじゃ遅い」


 「むう……」


 村長だったのか……ただのエロ爺かとおもった……。


 それはともかく、ニド達は冒険者としてアドバイスをくれた。


 確かにバウムさんとティリアは魔王で、一応俺もそうだけど力押しで話を進めているような気がしないでも無い。ティリアはともかく、バウムさんはエルフの集落からほとんど出ないから冒険者のような考え方はしないため、何かあった時にバウムさんは助かるかもしれないけど、リファやルルカが犠牲になる可能性も捨てきれない。


 「……仕方ない、朝まで待ってから出発しよう」


 「私は構わないが、先を越されないだろうか?」


 「さっきの村長さんの話だと、夜はどこかで大人しくしている可能性が高いだろう。クロウが黒ローブのリーダーで一番強かったなら、こいつが抜けている時点で戦力はかなり落ちているはずだしな」


 「ふん、若造の言うとおり、それが賢明じゃ。あの山には洞窟がいくつもあるから、先に行った連中はそこで引きこもっておるじゃろうて。いや、マジで夜は危ないんじゃ」


 無理無理と手を振って爺さんこと村長が顔をしかめる。ファンキーな感じだが、心配してくれているのは分かる。


 「ではここで野営をするか?」


 リファがそう言うと、村長がリファの所へ行きサムズアップをしてウインクした。


 「ほっほ、若い娘さんに野宿をさせるなどとんでもないわい! 村に空き家がある。それを用意しよう」


 「あ、ありがたく……」


 「なら早い所頼むぜ……?」


 「こ、後頭部をギリギリしちゃいかん!? こ、こっちじゃ」


 リファの手を握って嫌らしい目をしていたので、懲らしめてやると、周り右をして村へと誘導してくれる。やれやれと思いながら俺達は後を着いていくのだった。


 「あ、こいつらは村にいれていいか?」


 「おー! 大人しかったら子供たちが喜ぶじゃろう、構わんぞい! 山側に広場がある、そこへ行ってくれ」


 「だってよ」


 【ガウ(あいあいさー。じゃ、旦那たちが戻るまで待機ってことで)】


 「チューズディも大人しくしていてくれよ」


 【ガオウ(問題ない。人間に危害を加えるなと、シエラ様よりいつも言われている)】


 「おおう!? お前とも話せるのか……」


 【ガウ(ファライディからあなたのことは聞いている。国王様やクリューゲル様を助けて頂いたことなどな)】


 それで友好度があがったのか。ま、話ができるなら楽でいいや。二匹はバサバサと村長の言う広場へと飛んでいった。


 俺達はブルーゲイルの面々と一緒に村へと入り、村長に家を案内され、一息つくことができた。男女は別と、徹底しているので部屋には俺とバウムさん、クロウの三人だけが居る。


 「良かったのか?」


 「何が?」


 「クリューゲルや騎士達の援護を断ったことと、ここで一泊することだ」


 バウムさんが椅子に腰かけながら俺に尋ねてくる。バウムさんとしては、封印が国を脅かすものであれば、と気が気でない様子なので分からんでも無いが。


 「ちょっと考えたけど、強行したところで、この時間ならすぐに眠くなると思うんだ。そうなると魔物が強いなら危ないし、俺やバウムさんだけならいいけど、守りきれるとは限らないからさ」


 「なるほどな」


 「ただ、女の子の前でかっこつけたいだけなんじゃないの?」


 「やかましい!」


 「がうあ!?」


 一言多いクロウをぐりぐりしていると、ドアがノックされる。


 「はい?」


 「あ、その節は……お風呂のご用意ができたので……」


 見ればあの時ゴブリンから助けた女の子だった。


 「村長、気を使わなくていいのに……」


 「ふふ、ブルーゲイルの人と私からあなたが助けてくれたってことをお爺ちゃんに言ったんですよ。だからだと思います」


 「あれはティリア達もいたけどな……」


 「もちろん女性の方たちにもご用意していますよ! では!」


 女の子は村長の孫だったか……何となく申し訳ない気もするが、折角なのでお言葉に甘えよう。


 「それじゃ風呂に行こうぜクロウ」


 「はあ!? 何でさ。僕は一人で入るよ……」


 呆れたように呟くが、こいつから目を離す訳には行かない。


 「いや、それだと逃げるかもしれないだろ? だから一緒に行くぞ」


 「ぼ、僕の顔を見たヤツは殺す! あ、おい引っ張るな!?」


 「バウムさんは?」


 「フフ、そいつの顔を見たら殺されるんだろ? 私は後でいい」


 バウムさんがおかしそうにそう言うと、クロウが激高する。


 「ば、馬鹿にして! 決めた君はもうここで殺すよ! ≪漆黒の……≫」


 「ほら、遊んでないで行くぞ」


 「ぎゃあああ!? こめかみはやめてくれぇええ!?」


 家から出ると、ちょうど隣の建物から湯気が出ていた。ここがお風呂場だろう。女性陣と鉢合わせ、ということラッキースケベイベントは無く、クロウも実は女の子でした! ということもなく、風呂へと入る。 


 「ぼ、僕がどうしてこんな目に……」


 「いいじゃないか……あー昼間は激戦だったから疲れが取れるな……お前、肩まで跡があるんだな……何の傷なんだ?」


 「……」


 口を湯船につけて俺を睨みつけるクロウ。言いたくないと無言の圧力をかけてくる。


 「まあ、言いたくないならいいけどな。さて、頭でも洗うか」


 「ふん、平和に暮らしてきた君に分かる……はず、も……」


 ざばっと俺が湯船から出たところで、クロウが口を開くが、段々と歯切れが悪くなってきた。


 「き、君……それは……」


 「ん? ……ああ、背中か……」


 クロウに言われるまですっかり忘れていた……俺の背中には一際でかい傷がある。左肩から右腰の近くまで。それを見てクロウは驚いたのだろう。


 「悪いな、気持ちの悪い物を見せて。ほら、これで見えないだろ」


 「いや、僕の傷より大きいけど気持ち悪い感じはしない……何の傷なんだい……?」


 「んー、聞いても面白くないぞ」


 「僕には聞いておいて自分のは言わないのか?」


 「お前が言うなら、話してもいいが……」


 「分かった」


 「いいの!?」


 「ああ、さあ聞かせてもらうぞ」


 えー……何でこいつこんな食い下がっているのだろうか……? 


 「面白い話じゃないけどなあ……これは――」





 ◆ ◇ ◆



 「お嬢様、お風呂とはラッキーでしたね」


 「ええ、実は結構魔力を消費して疲れていましたから、ゆっくり休めるのはありがたいです」


 「ボクは封印が気になるけど、ボクとリファ、それにクロウを考慮して休んでくれたカケルさんに感謝だね」


 三人もお風呂を案内され、外に出て浴場へと向かう。しかし勝手を知らないので、間違えてカケルとクロウ入っている浴場へとやってきてしまった。


 (――さて、頭でも洗うか)



 「あれ!? カケルさんの声がするよ!? ボク達間違えたみたい……」


 「あ、あれ? こっちじゃなかったのか? すまない……気付かれない内に出よう」


 リファがそう言った時、クロウの神妙な声が聞こえてきた。


 (――何の傷なんだい……?)



 「傷……? カケルさんに……?」


 (――面白くないぞ?)


 すると、ルルカの目がキラリと光り、お風呂場のあるドアに耳をつけた。


 「ルルカ? どうしたのです?」


 「シッ! きっとカケルさんの昔話ですよこれは。あの人、異世界からきたってだけで自分の話をほとんどしないじゃないですか? 聞くチャンスかと思って」


 カケルに興味があるルルカはチャンスとばかりにウェスティリアとリファを手招きして呼ぶ。


 「うーん……いいのだろうか……」


 「……ま、まあ、気を悪くさせたら謝りましょう……私も少し気になりますし……」


 結局三人で聞き耳を立て、カケルの話を聞くことに。


 そしてカケルの口からでた過去は――

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