第八十一話 持てる力を使って戦え!


 「あのデカブツは強いのか!? ……うっ!」


 寿命残:5分


 デブリンとかいうデブを拗らせたような名前の魔物について聞こうとしたが、『生命の終焉』が赤い文字で警告を告げる。どういう死に方をするか分からないが、時間が無いのは確かだ!


 「くそ……!」


 「新人! どちらにせよある程度は潰さねばならんか……全員突撃だ! デブリン以外を出来るだけ倒せ!」


 俺は槍を手にして走り出すと、後ろからイクシルの号令が聞こえてきた。デブリンに手を出すなと言っているようなので、相当面倒な相手なのだろう。


 そして目に見えるだけでゴブリンは50を越えている。さっきの手ごたえを考えると、回復しながら戦えばそれくらいはやれるはず。


 「そら!」


 ギェェェ!?


 まずは一匹、脳天を突き刺して絶命させる。そのまま槍を横に振り抜き、さらに二匹目の首を刎ねる。


 ギャオッォ!!


 「どけってんだ! ≪炎弾≫ ≪風刃≫ ≪氷の楔ぃ≫!」


 地獄の劫火はあの子を巻き込むので使えないが、今まで見せてもらった魔法を駆使して蹴散らしていく。この調子ならいけるか!?


 ギェッ!


 「後ろ!?」


 前ばかりに集中していたので、背後から近づいてくるヤツに気付かなかった。仕方ない、こん棒は痛そうだが死ぬことはないだろ。俺は歯を食いしばって体に力を込める。


 ドッ!


 HP:552/575


 ぐっ! 中々やるな……! クラーケン戦後、レベルが上がってHPも高くなっているのでこれくらいは全然余裕だ。反撃をしようと振り向いたら俺を殴ったゴブリンが真っ二つに裂けた。


 「無茶するな!」


 「ニドか、助かる!」


 冒険者達が一斉にゴブリンに襲いかかったようで、ニドが俺のところに来てくれていた。俺が礼を言っている間にも、ニドはパーティにオーダーを叫ぶ。


 「コトハ、カケルの前にいるやつの動きを止めろ! アルはサンの護衛、ドアールは俺と逆の敵を倒せ」


 「あいよ! サン、捕まるなよ?」


 「……うん……!」


 「≪足斬≫! カケルさん、あの子を助けるんでしょう? 行ってください!」


 ギャッ!?


 「何か言われるんじゃないか!?」


 「このごたごただ、気にすんな! 行って来い!」


 ドアールが次々とゴブリンを斬り伏せながら言ってくれる。


 「助かる! ナルレア頼む」


 <かしこまりました。『運』を『速』へ振り分けます>


 

 力:29


 速:26→36


 知:14


 体:25


 魔:37


 運:20→10



 「っしゃ! 行くぞ!」


 俺は動きの止まったゴブリンを蹴散らして道を空け、檻を目指す。



 「あいつ、マジでわかんねぇな……」


 「火と風と水属性使ってましたしね……後、ゴブリンの一撃で大して傷を負ってないのも何て言うか……」


 「うわ、速い!? おかしくない!?」



 何か後ろでニド達が何か言っているな? 後で聞くとして、今は檻だ! と、思ったらとんでもないことになっていた。


 「げ!?」


 ぐしゃぐしゃになった檻の前にデブリンが立っていて、檻の中から獣人の子がデブリンに拉致されているところだった。


 「ゲヘゲヘゲヘ」


 べろん、と味見をするかの如く顔を舐めると、あんぐりと口を開けた。


 「こいつ食べる気か! させるか!」


 3mはある体躯のデブリンの頭にすぐ一撃を入れるのは無理。なら、獣人の子を持っている腕を狙えば……!


 ベキン!


 「マジかっ」


 「?」


 丸太のような腕に槍を突きだすと、先の方からぐにゃりと曲がってしまい、槍が使い物にならなくなってしまった。

 

 「新人! 獣人は諦めろ、ネームドではないが、そいつは十分脅威だ、装備を整えなければ倒せん! 獣人に気を取られている内にゴブリンを倒せ! ええい、邪魔だ! 冒険者は囲むように展開して押し込め!」


 ゴブリンを長剣で斬り倒しながら俺に叫ぶのはイクシルだ。確かにこいつは今まで戦った中でも厄介なヤツっぽいな。でも、ここまできて諦める訳にもいかない。


 「≪炎弾≫!」


 「ヒギャ!?」


 固いが効かないって訳では無さそうだな、しかし手を離さないとは、凄い執着心だ。あ、こいつまた口を……!?


 「やめろってんだよ! ぐあ!? お前等もだ!」


 グギャァァ!?


 どさくさに紛れて殴ったり斬ったりしてくるゴブリンを曲がった槍で殴って追い払い、デブリンに石を投げてこちらを向かせようと手を尽くしていると、デブリンが大きく息を吸い込む体制に入った。


 「何をする気だ?」


 「バォォォォォォン!!!」


 俺が呟いた瞬間、デブリンの咆哮が周囲に響いた! 一瞬、その場にいる全員が怯み、次の瞬間……



 ギャァァ!


 グエッ!!


 ガサガサと森から新たなゴブリンが飛び出してきた。こいつら待ち伏せをしてたのか!?


 ギェェ!


 すぐに増援のゴブリン達は手にした弓を使って射かけてきた。頭が悪そうだと思ったがきちんと群れとして成り立っているとは……!



 「ギエハハハハ!」


 「いかん、逆に囲まれる! 集まれ!」


 見ればイクシル達が固まり、その周りをじりじりと狭めながら襲いかかっていくのが見えた。


 「ハッ!?」


 寿命残:30秒


 レッドゾーンギリギリの警告が目に入る。齧る体勢に入っているのが妙にスローモーに見えた。


 <カケル様、『力』と『速』に振り分けました>

 

 でも武器が……あ、いや、武器はある!


 「くぅらぇぇぇぇ!」


 「~!!?」


 俺は渾身の力でゴブリンを踏み台にして飛び上がり、獣人の子を掴んでいる腕へ……錆びた剣を振り降ろす。正気に戻ったのか、獣人の子が俺を見て目を見開いて驚いていた。


 ザン!


 「キェァァァ!?」


 「!! !!!」


 浅いか、半分までしか剣が入らなかった。だが、獣人の子を取り落としたので結果は上出来。即座に拾い、岩肌に座りこませる。


 「大丈夫か?」


 コクコクと素早い動きで首を振ると、目を見開いて目線を俺の後ろに持っていく女の子。振り向こうとしたところで頭に衝撃が走る。


 ガツン!


 「が……!?」


 この威力はデブリンか……? 


 HP:412/575


 げ、一撃で90近いダメージか!? 痛みをこらえて転がり、デブリンを見据えると半分まで斬り裂こうとした腕がくっついていた。


 「再生まで持ってるのか、こりゃ確かに化け物だな」


 「ギガァァァ!」


 獣人の子に興味を失くしたのか、怒りが勝ったのか、デブリンは俺に向かって攻撃を繰り出してくる。


 「ぐ……重い!」


 <はいはい『魔』を『体』に回しますね>


 「ナイスだ……! だありゃあ!」


 「ギェ!?」


 拳を正面から受けて、それを強引に押し返すと、バランスを崩してデブリンは尻餅をついた。


 「チャンス! 師匠、技を借りるぞ! ……えっとなんだっけ……岩って言ってたような……あ、そうだ『斬岩剣』!」


 ドチュ……シャキン……!


 「ギャァァァァァァ!」


 デブリンが手を前に出してガードしようとしたが、その腕をあっさり両断する。もう一方の腕が俺を掴もうと伸びたところで、空から何かが降ってきて腕を串刺しにした。


 「頭をやれ! そうすれば再生できずに絶命させることができる!」


 「クリューゲル! 任せろっ……!」


 「ヒッ!?」


 デブリンが小さく呻いた瞬間、俺の剣は脳天から真っ二つに斬り裂いた!


 「グ、ガ……」


 ズゥゥゥゥン……


 大きな音を立てて上半身が地面に倒れると、頭からおびただしい血が流れ、ぴくぴくと体が痙攣していた。その様子をゴブリンと冒険者達が見ており、場が静まり返っていた。やがてボスが息絶えたことを理解したゴブリン達が悲鳴をあげて逃走を始めた。


 「よ、よし! 掃討戦だ! 逃がすなよ!」


 「お、おう!」


 イクシルが慌てて号令を出し、傷だらけのゴウリキがゴブリン達を追いたてる。だが、囲まれている状況からの逃走のためゴブリン達の方が早い。


 「こりゃかなり逃がすことになるか?」


 獣人の子を背にそんなことを言っていると、近くにいたクリューゲルが槍を構えて俺に言う。


 「フッ、大丈夫だ。俺が逃がさんよ、お前は休んでいろ、その子を守ってるといい」


 「おお!? 速っ!? で、飛んだぁ!?」


 一足でかなりの距離を移動したかと思った瞬間、飛びあがってゴブリン目がけて着地する。もちろん脳天から串刺しだ。その反動でまた飛び上がり、次々と刺し貫いていく様子はよくできたおもちゃのように正確だと思った。




 そして――


 「少し逃がしたが、これでしばらく悪さはできまい。我々の勝利だ!」


 うおおおおぉぉぉ!


 冒険者達は傷だらけになりながら、ゴブリン達を掃討し、勝ち鬨を上げるのだった。 


 はあ……疲れたな……。


 獣人の子の拘束を解いていると、ニド達ブルーゲイルのメンバーが満面の笑みを浮かべて走ってくるのが見えた。


 いくら俺でもこの後のことは予想できる……俺はため息を吐くのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る