第二百二十七話 集え、力ある者達よ



 <灼熱の国フエーゴ>



 「魔王様、残念でしたな」


 「……うむ。火の破壊神の力を持つ者とはいいライバルになれると思ったのだがな……」


 ここはフエーゴ城の謁見の間。ニド達ブルーゲイルは火焔の魔王グリヘイドと共に封印を解いた後、戻ってきていた。

 残念、というのは封印を解除して一時復活した破壊神の力の一部に事情を話すも、勝ったら言うことを聞くと脳筋全開の会話の末に戦闘になり、激闘の末グリヘイドが勝った。

 お互い似た何かを感じ取って友情めいたものが芽生えようとした瞬間、アウロラによって吸収消滅したのだった。


 割と本気で落ち込んでおり、現在も今後の話をしようという時にテンションがだだ下がりだったため、ニドが気にかけて口にしたのだ。意図を察したのか、グリヘイドも咳払いを一つし話を続けていた。


 「さて、これで『女神アウロラ』が復活する手はずが整ったということだな」


 「ええ、他の封印がどうなっているか分かりませんが、エスペランサ王国へ燃える瞳のパーティが向かったので、また動きはあるはずです。回復の魔王であるカケルさんと合流していればなおのことですね」


 コトハがそう言うと、グリヘイドが眉を顰めてニド達に尋ねていた。


 「……そのカケルとかいう新しい魔王は強いのか? ウェスティリアもその者と行動を共にしていたようだが……」


 「……はい、強いです……」


 「こ、こらサン……そんなあっさり……」


 「でも、デブリンを槍で倒してしまうのは、そうそうできない」


 アルが慌ててサンを諫めるが、確かにと納得する。


 「なるほど、一度会ってみる必要はありそうだな。箱入りだったウェスティリアが他の男と一緒にいるのは気にいらん」


 「そういうことですか」


 ドアールがにやにやと笑いながら言うと、口をへの字にして睨みつけるグリヘイド。


 「では、我等もエスペランサへ向かうとしよう」


 「ですな。ですがその前にユニオンへ行きましょう。何か情報が――」


 と、ニドが提案したその時、慌てて謁見の間へと人が入ってきた。


 「た、大変です! 空が! 人が!」


 「客人がいるのに無礼ではないか。そんなに慌てて何があった?」


 グリヘイドが尋ねると、フエーゴの人間の特徴である褐色の肌をした若い男が姿勢を正して答えていた。


 「ハッ! 申し訳ありません! 報告します。空が急に漆黒の闇に包まれました! そして、直後、民達が不調を訴え気絶する者も出ている状況です!」


 「なんだと?」


 「グリヘイド殿、行ってみましょう」


 グリヘイド達は男の報告を聞いた後、城下町へと足を運ぶ。すると報告通り空は暗く、町は活気ではなく呻き声が上がっていた。


 「……どういうことだ?」


 「ニド、ユニオンへ行ってみよう。何かわかるかも……」


 「だな。俺達はユニオンへ行きますが、どうされますか?」


 「俺も行く」


 さらに場所を移し、ユニオンへと向かう一行。中へ入ると、バタバタと慌ただしく人が仕事をしている所に出くわす。


 「元気なヤツは道で倒れている人を家へ連れていってやれ! 近くのベンチでもいい。とにかく介抱するんだ」


 「おおー!」


 「どうも病気じゃないようだが、医者も待機させておけ。ユニオンなら広いし、一カ所に集まってくれたほうが楽だ」


 ユニオンの従業員はテキパキと指示を出し、散開していく。魔物を退治するどころではなくなったか、冒険者達も次々と戻ってくる。


 「フレイムリザードを退治しに行ってたんだが、やっこさん急に苦しみだしてな。あっさり倒せたのは良かったが、魔物の動きが鈍い」


 「一体何が起こっているのかしら……空もあんなだし、怖いわ」


 そんな会話を耳にしながら、ニドは受付へ向かいやはり忙しそうに応対をしていた男性に声をかける。


 「忙しいところすまない。燃える瞳のグランツという者から、俺……ブルーゲイルのニド宛に何か伝言は無いか?」


 「え、ええ? この忙しいのに……それにさっきからセフィロト通信も調子が悪いんだよ、ええっと……」


 文句を言いながらも対応してくれる男性に感謝をしつつ、ニドは待つ。五分ほど待ったところで男性が魔法板を手渡してくれた。


 「これですね」


 「ありがとう。さて――」


 ニドはペリッティと同じ文言を受けとり、把握する。アウロラが復活し、この空と人々が倒れているのはその影響で、魔力を吸われているということをみんなに伝える。


 「ということだ」


 「アウグゼストか、久しぶりに向かうことになりそうだな。魔王の招集だ、すぐに発つぞ」


 グリヘイドが踵を返して外へ出ると、ブルーゲイルの全員が顔を見合わせて頷き後を追って外へ。城へ戻るのかと思いきや、城の近くにある建物へと足を運んだ。


 「今から船で行ってもかなり時間がかかる。だから、こいつらを使うぞ」


 「こ、これは魔王様! 様子を見に来られたのですかな?」


 「いや、乗ってアウグゼストまで行く。準備を頼むぞ」


 「!? ……か、かしこまりました」


 白髪交じりの男が建物の入り口で慌てて口を開き、グリヘイド達を中へ案内する。


 「何か獣臭いな……」


 アルが顔を顰めて呟くと、目的の場所についたようで天井が開けた場所へ出た。そこに居たモノを見てサンが感嘆の声を出す。


 「……わあ……」


 クルルルル!


 それは真っ赤な羽をした巨大な鳥だった。一行を見て嬉しそうに一声鳴き、首をサンの方へ伸ばして撫でてくれとせがんでいた。


 「これは……?」


 「エリアランドにドラゴンが居るのは知っているな? 万が一国同士の戦いになった場合空からの攻撃は脅威だ。だからその対抗策の一つとして、この巨大鳥『緋王』を飼っているのだ。こいつならアウグゼストまですぐ到着できる」


 「すごいですね、大きさもですけど綺麗……」


 「へへ、そう言って頂けると世話をしている甲斐がありまさぁ。では、二人一組で準備を――」


 ドゴォン!


 「うお!?」 


 「地震か!?」


 ドアールとアルが急な衝撃でぐらつき、驚きの声をあげ、ニドとグリヘイドは建物から外に出る。


 「あれは……」


 「神殿の方角か! ――何だあの柱!?」


 「……大きい。あ! 様子がおかしい!」


 サンが柱を見て異変に気づき、指をさす。柱が怪しげな光を放ち始めたのだ。


 「淡い光……でも、嫌な感じ……」


 コトハが目を細めて言うと、後ろでドアールが叫ぶ声が響いて来た。


 「おい、しっかりしろおっさん! どうした!?」


 「わ、分からん……急に力が……な、なあに、すぐに準備をするさ……」


 グリヘイドは柱と男、そしてブルーゲイルのメンバーを見た後、ニドへ声をかけた。


 「……俺は女神アウロラのいるアウグゼストへ行く。ニドよ、あの柱を任せていいか? よくわからんがお前達は体調を崩していない。そして、あの柱が恐らく魔力を効率よく集めるための何からしい。破壊をお願いしてよいか?」


 「……久しぶりにカケルに会えると思ったんだがなあ。言われてみれば俺達の魔力の吸われ方は微々たるもののようだ。俺は魔力が多くないにも拘らずな。その依頼引き受けよう」


 「すまないな。報酬は弾む。冒険者達と城の者達を引き連れて行ってくれ。……これを」


 グリヘイドが懐から書状を取り出し、さらさらと何かを書きニドに渡す。


 「これがあればユニオンの連中も協力してくれるはずだ。では私は行く。イワン、頼めるか?」


 「は、はい……お任せあれ……」


 よろよろと男が準備に取り掛かり、ニド達は建物を飛び出す。



 ◆ ◇ ◆



 <エリアランド>



 「あの柱はなんだ……? バウム殿の言っていたアウロラ様の謎と関係があるのか?」


 エリアランド国王であるハインツは山に突き刺さった柱をテラスから見ながら一人呟く。バウムはすでに旅立っており、ユニオン経由で通達をするつもりだったが、エリアランドだけは情報が入ってきていなかった。

 

 さらに他の国と同様、町人が倒れたため、騎士達を総動員して近くの村などに派遣準備を進める。


 「失礼します」


 「クリューゲルか、どうした?」


 ハインツが尋ねると、騎士団長のクリューゲルがハインツへ進言する。


 「国王。あの柱、あれから嫌な感じがします。私と、数人でアレの調査を向かうことを許可いただけませんか?」


 「むう、騎士団長自ら……と、言いたい所だが女神の封印があった場所に刺さったのが気になる。頼めるか?」


 「お任せください。よし! 出るぞ!」


 クリューゲルは一礼し、控えていた騎士数人と出撃をしていった。柱は一体何なのか? 各国も異常事態に動き出した。




 そして――



 <闇と獣人の国>


 「むう、これはただごとではないな」


 「王、カケル殿の仲間から伝言が」


 「――やはり、か。俺はアウグゼストへ行く! 柱の破壊は任せたぞ」


 闇狼の魔王ベオグラートがユニオンからの伝言を受けとり、吠える。しかしそこで、ドルバックが困惑した表情で口を開く。


 「柱の件、御意に。しかし、船で一週間はかかりますが、間に合いますでしょうか……?」


 「ん? 船はかかるな。あれはどうした、ほら、フライングキャット。あいつらなら餌を用意しとけば結構飛んでくれるだろう?」


 「……猫と相性が悪いと言って国王が南側においやったではありませんか……」


 「そういえば……」


 呆れたように言うドルバックにあんぐりと口を開けて呆然とするベオグラート。しかし、すぐに頭を振りドルバックへ言う。


 「ええい、一刻を争う! 奴らの好きな食べ物を十分用意しろ、俺が交渉へ行く!」


 「わ、分かりました」


 

 ドルバックはすぐにメイドたちへ準備を薦めさせる。



 さらに――



 「兄貴、空の様子がおかしいぞ?」


 「もうすぐアウグゼストだ。あの石碑に書いてある事が確かなら、恐らくカケル達もアウグゼストへ向かう。そしてこの暗さ、何かあったに違いない」


 「でも、俺が一緒の必要があったのかい……?」


 フィアムが、兄である風斬りの魔王バウムへ、疲れた様に尋ねると目を合わせずに答えた。


 「一応私の弟だし、ほら、村に残して娘にいたずらとかされると困るし……」


 「目を見て話せよ!? 忘れてたな? 別に俺を連れてこなくてもいいのに、置いてくるのを忘れてたな!」


 「そんなことはない!」


 言い切るバウムだが、目は泳いでいた。


 「やっぱりな!? 兄貴のそういうところが腹立つんだよ!」


 

 「うるせぇぞ! 海に放り込まれたいか!」


 「う、すんません……」


 フィアムが頭を下げると、バウムは船首に立って呟く。


 「女神アウロラ……一体何を考えている……?」


 「話はまだ終わってねぇからな!?」


 


 ――こうして全ての魔王はアウグゼストへと向かう。


 そしてアウグゼストへ到着したカケル達を待ち受ける運命とは――

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