第二十一話 行き倒れの少女
「……寒……」
テントから這い出て、くすぶった焚き火を点けなおして俺はスープを温める。
「ふう、山は意外と寒いな」
――カルモの町を出発してからすでに三日が経過していた。
町から出た後、俺は地図を広げてコーラル大陸へ向かうための進路を確認し『デアーイ』という海沿いの町を目指すことに決めた。海沿いの町なら船が出ているんじゃないかという推測の元の結果である。
いくつか港町はあるけど、カルモの町からだとここが一番近かった。南側が半月状になっていて陸路も行けたが、光翼の魔王とやらに早く会うなら、直線距離の速い海路だと思う。
「まあ船が無かったらアウトなんだけど……」
また、そこに辿り着くまでは結構な距離があって、目算だと二ヶ月かかるかどうかという感じ。地図で途中の町を確認し、カルモの町を出てから街道をずっと歩いている途中である。
で、今は少し山あいに差し掛かりそこで野営をしていたというわけだ。
「さて、次の町まで後少しだ。ユニオンがあったら養成所があるか確認しないと」
テント一式をリュックに押し込んで俺は再び歩き出す。
「お、スライム」
ぷきゅううう……。
武器と食料があるので心に余裕のある俺。冷静に草むらなどを見ていると結構ぴょこぴょことスライムがいるのだと気付いた。適当にパンを齧りながらスライムの核を槍で貫き倒す。この三日で結構な数を倒したけどレベルは上がらなかった。そもそも『経験値』が無いので、どうやってレベルがあがるシステムなのかは謎のままだ。
「意外とみんな気にしてないのかね? 次の町のユニオンで冒険者と仲良くなったら聞いてみるとかもいいなーできればちょっと 『エッロ!』って感じの格好をした女戦士とかいいな。『エロい』じゃなくて『エッロ!』ってのがいい」
ガサ……
「ん?」
アホな妄想をしながらパンを飲みこむと、近くの草むらから音がし、俺は槍を構えて注意する。この三日、運がいいのかスライムしか見ていない。だが、他の魔物が居ないとは限らない。逃げてもいいけど、姿くらいは見ておかないと町に引いてしまうかもしれないからな。
ガサガサ……
ゴクリ……
音が大きくなり俺は音のする方向をじっと見ながらその時を待つ。まだか……緊張時の一分はとても長く感じる……。
ガサガサ……バッ!
「……出た!」
俺は身を強張らせた! 出てきた影は俺より小さく、二足歩行だった。意外と速い! 槍を突きだそうとしたとき、人影は前のめりに倒れた。
「う……」
「お、女の子!?」
何と草むらから出てきたのは赤い髪をした女の子だった!? お、おお? 何でこんなの所から!? しかし考えていても仕方ない。俺は槍を置いて女の子を助け起こす。
「どうした! しっかりしろ!」
白いブラウスに薄緑のスカートを着ている女の子の顔立ちはかなり整っている。エロイ格好の女戦士ではなかったけど十分である。でも少し顔色が悪いな。
俺が声をかけると、うっすらと目を開けてから口を開く。
「お……」
「お?」
「お腹が空きました……」
ガクッと女の子を取り落としかける俺。直後、ぐぅ~とものすごいお腹の音が鳴った。
◆ ◇ ◆
「ゆっくり食べろよ、いきなり食べると胃がびっくりするからな」
「は、はい……すいません……」
あの後、女の子を木の根元に寝かせてに毛布を被せ、すぐに火をおこしてスープを作ると匂いに釣られて寄ってきたのですぐにスプーンと共に渡す。カルモの町で色々買い込んでおいて良かったな。
「美味しい……」
「パンも食べるか、最後の一個だけど」
「いいんですか?」
「構わないよ。もうすぐ町だし、そこで買い足すから」
「そ、それでは……」
もぐもぐと必死に食べる姿は可愛かった。一息ついた所で俺は女の子に尋ねてみることにする。
「俺はカケル。一応冒険者だ。君は冒険者って感じじゃないけど、どうしてこんなところに?」
するとスープを飲み干してから俯き加減でポツリと呟くように話始める。
「私はソシアと言います。カケルさんが目指しているこの先の町、『ウェハー』に住んでいます……ここに居る訳は……聞かないでいただけると……」
「ん。分かった。それじゃどうする? 俺は町へ行くけど、ソシアさんも戻るかい?」
「え? あ、は、はい……どうせ逃げられないなら……」
最後の方はあまりよく聞こえなかったけど、どうやら町へ戻るらしい。
「なら一緒に戻る? スライムくらいしか出ないけどそんな軽装じゃ危ないだろ」
「……お願いします……」
あまり気乗りしない感じだな、と思いながら片づけを終え、俺達は町を目指した。
「あ、あの、聞かないんですか? 何であんなところに居たとか、その、暗がりに連れて行って襲ったりとか……」
「いやあ、気になるけど話したくなさそうだしさ。話したかったら聞くけど? 襲うのは主義じゃないからなあ」
はっはっは、と適当にはぐらかしていると「そうですか……」と言ったっきり黙って後ろを着いて来ていた。正直な所、訳アリなんだろうと思う。しかし俺は大人しくすると決めたのだ! 自分から面倒事に首を突っ込むことなど断じて有り得ない!
「お、あれか……」
「は、はい……あれがウェハーの町です」
俺達が近づいていくとカルモと同じく門があり、やはり門番が二名立っていた。すでにカルモで慣れていたので俺は笑顔で門番に挨拶をする。
「こんちゃーす! 初めてこの町に来るんですけど……」
「お、お嬢様!?」
「どこへ行っていらしたのですか!? ご無事でなによりです!
「あれ?」
と、俺が爽やかに声をかけたが、門番たちは後ろにいるソシアさんに駆け寄る。お嬢様……だと?
こいつはやばい、俺の勘がそう言っている。
「あ、ああ、知り合いでしたか……では、俺はこれで……」
俺はそそくさと町へ入ろうとすると、ソシアさんに止められた。
「あ、あの! 是非お礼をしたいので、私の家へ来てくれませんか?」
「いや、急いでるからまた今度……」
「何! お嬢様のお誘いを断るとは不届きな!」
俺が断ると門番Aが槍をがしゃんと地面に叩きつけながら激高する。仕方ない……玄関まで行ってから理由をつけて帰るか。
「分かったよ、別に大したことはしてないからお礼何ていいのに……」
「お嬢様のお宅へ行くだと! 何と身の程知らずな!」
すると今度は門番Bがふん、と鼻を鳴らし俺に難癖をつけてきた。
「どうしろってんだ!? なら俺はもう行くぞ。無事で良かった、それでいいじゃないか。じゃあな!」
「あ! ま、待って……」
何か言おうとしていたソシアさんだったが俺は聞かなかったフリをしダッシュで逃げた……!
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