第三十話 そして始まる緊張の学院生活
「は~い、皆さん~今日は新しいお友達がこの教室に来てくれました~! さ、入ってらっしゃい~」
――前回までのあらすじ……マジだった!
……という冗談はさておき、俺達は『リスペルン学院』のとある教室へと入っていく。ボーデンさんの提案は本当の本気で、あれよあれよと制服の採寸・仕立て・編入までが本当に「あっ!?」という間に終わっていた。だいたい二日くらいで。貴族すげぇ。
で、職員室にあたる『教務室』に行って最終手続きをし、編入されるクラスに来ていると言う訳である。まあ、その……自己紹介ってやつだな。
「さあさ~お名前を言ってね~」
まるで園児を引率していそうな、ゆるーい喋り方をしているのは、俺達の担任でネーレ先生という。緑のロングヘアで垂れ目が特徴的だ。
「じゃあ俺から……カケル=ジュミョウです。冒険者ですが、縁あってこの学院へ編入することができました。よろしくお願いします」
(うーん60点?)
(私はアリかな? 75点)
(ちょっと老けてない?)
余計なお世話だ。
ちなみにこのリスペルン学院は共学である。男の自己紹介ではやはり女子がざわつくのか……すでに点数がつけられている小声を耳にする。そして辛い。それならと、続いてグランツにバトンタッチだ。
「お、俺は……い、いや私はグランツ、です! カケルさんと同じく、冒険者ですが、縁あって編入しました! 仲良くしてもらえると嬉しいです!」
おーおー、固いねえ。
(ねえ、ちょっと可愛くない?)
(田舎っぽさがあるけど、優しそう)
(85点! あれは結婚するには最適と見たわ!)
(チッ、男はいいんだよ、早く女の子を紹介してくれよ)
(男子うるさい!)
グランツは青髪でキリッとした眉だからカッコいい系だと思ったが、意外にも「優しそう」とひそひそしている辺り本質を見抜いているのかもしれない。決して俺は老け顔ではないが。そしてエリンの番になるが、ここでは男子が湧いた。
「エリンです! あたし、こういう豪華な学校って初めてで緊張してます! 色々教えてくださいね?」
首をコテンと傾げて微笑むその顔は男子の心に突き刺さったらしい、目がハートマークになっているヤツらがいるな。
(おいおい、貴族じゃないんだろ? でも結構可愛いじゃん!)
(健康そうな子っていいよね)
(げ、元気っ子……ふひひ……)
(色々……むふ……)
うむ、エリンならうまく躱すだろうけど、グランツに気を付けてもらっておくべきだな。グランツ鈍そうだし。そして最後はトレーネの番だ。
トレードマークの帽子を取っているので身長の低さが目立つ。口をへの字に曲げてボーっと突っ立っていたが
エリンに突かれて我に返る。
「私はトレーネ。魔術士。よろしく。後、カケルは渡さない」
「おいおい……」
グッと拳を握って高らかに宣言するトレーネ。それを聞いてざわつくかと思ったが……
(かわいいーー! ウチの妹と変えて欲しいわ!)
(渡さないって大人びちゃってもうーなでなでしたい……)
(後でお菓子あげようかな?)
(あんなにハッキリ言えるなんて羨ましい……)
概ね女子に好評だった。
仲良くなるならまず同性がいいし、ひとまず安心だな……しかしトレーネのやつどういうつもりなんだろうな? まあ、そう言っておけば寄り付かなくなるだろうから調査はしやすいか。
俺がそんな事を思いながら教室を見ていると、一番後ろの窓際席でソシアさんがにこやかに手を振っていた。同じクラスになるのも確定事項だろうから不思議ではない。
「は~い! 四人ともありがとう~♪ それじゃあ席はぁ~ソシアさんの近くに空いている席があるから好きな所に座ってね~」
「適当か!? ……分かりました」
ぽやっとしていそうで、本当にぽやっとしているんだな、と思いつつ俺達はぞろぞろと席に着く。ソシアさんの横に俺、後ろにエリン。そして俺の右横にトレーネで俺の後ろにグランツという布陣だ。トレーネをソシアさんの右にとも思ったが、一応俺が護衛依頼のメインだから俺が横に着くことにしたのだ。
(ソシア様の横……羨ましい……!)
(あの男……カケルとか言ったな……呪呪呪……)
うん、失敗だった。
「それじゃ~朝の連絡事項です~――」
俺のそんな気持ちはさておき、朝の連絡事項を経ると早速授業だった。それぞれ自前のカバンから教科書を取り出し勉学に励むことにした。
何故か?
俺がこの世界に来て一番危惧しているところは歴史や人物、地域といった世界に関することに疎い事だ。カルモの町やネギッタ村みたいな田舎であれば誤魔化しもできようが、今後旅をするにあたって今回のように結構な人物から依頼を受けたりするときにボロが出る可能性が高い。そのためにはやはり知識だろう。
もし図書館があれば時間がある時に行ってみたい気はするが、とりあえず今は目の前に授業に集中しよう。
そして昼休み……。
「ぶはあ!? ケツが……ケツが痛い……!?」
「カケル、私がさすってあげる」
「嫌だよ!? 何のプレイだよ!?」
久しぶりに授業に出ると凄く疲れるものだと悟った……大学と高校じゃ授業のあり方が違うせいだろうけど。するとグランツが興奮した様子で俺に話しかけてくる。
「俺はこの依頼に声をかけてくれたカケルさんに猛烈に感謝しています! 田舎の学校も良かったですが、この生徒数、熱気……! やはり町は違います! 勉強も面白いですし」
「ふふ、喜んでいただけて良かったです! それではお昼に行きましょう、私はいつも食堂で食べていますけど、それでいいでしょうか?」
「え!? 領主様の娘なのに食堂!? ……なんですか?」
「ここでは敬語でなくても大丈夫ですよ。お父様の教育の一つでして、貴族だけの集まりだと毒されてしまい、庶民を蔑にしてしまいがちになるそうなんです。この学院は貴族も庶民も関係なく入れるので、色々な人を見て勉強しなさいと言われています」
だいたい物語の貴族って嫌なヤツか偏屈が多いもんな。ボーデンさん達はそうでもないけど、領主……というか領にとって大事なのは人だって理解しているのは好感が持てるな。
「あ、ソシア様食堂ですか? ご一緒させてもらっても?」
「ごめんなさい、今日はこの方たちが初日なので案内を兼ねてますので、またの機会に……」
「うーん、残念! 今度紹介してくださいね!」
と、行く先々でソシア様、ソシア様と声をかけられている所に遭遇する。思ったよりも環境はいいみたいだけど、嫌がらせがあると聞いていたからには生徒達にも注意を払わねばなるまい……。
と、食堂へ行くまで警戒していたのだが……。
「今日はいらっしゃるようね、ソシアさん!」
甲高い声がどこからともなく聞こえてきた!
「何者だ!」
「何者? いつの間にやら取り巻きを手に入れているとはそれでこそわたくしのライバル! わたくしの名前を知らないとは無礼ですが、わたくしは優しいので名乗ってあげましょう! わたくしの名はレムル……レムル=ミナカルシュですわ! オーーッホッホッホ!」
「カケル、あそこ」
バッ! と、廊下の角から現れたその姿は、スミレ色のロングの髪に、朱色のカチューシャを備え、赤いワンピース型ドレスのスカートを翻し、口に手の甲をを当て高らかに笑っていた。顔はツリ目がちだが整っており、泣きホクロがある、いわゆる美人タイプ。さらにその横には取り巻きと思われる女の子が三人……そして、優男風の男子が一人、付き従うように立っていた。
「な、なんてこった……!」
俺がレムルと名乗った女の子を見て驚愕する。俺の驚きに気をよくしたレムルと名乗った女の子がニヤリと笑う。くっ……やはりこいつは……。
「どうしたんですかカケルさん?」
「ハッ!?」
グランツに声をかけられ我に返り、俺は叫ぶ。
「どうしたもこうしたもあるか……あの登場、仕草、喋り方……そして取り巻き……間違いない、あいつは……あいつは悪役令嬢だ……!!」
「ふえ?」
場の空気がサッと冷え込む気配がする。しかし言わざるを得なかった……この短期間で死にかけるわ、町を追い出されるわ、領主の娘を助けるわでイベント盛りだくさんだったのにここに来て悪役令嬢とは……。
俺はもう一生分イベントを行った気がし、お腹いっぱいになっていた。
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