第十四話 カケル、嘘をついて考える
「お母さんは長生きするわよ!」
「もう、アンリったら」
うふふ、あははと仲の良い親子が俺の目の前で笑い合い、会話をする。しかし、俺は一緒に笑う事が出来なかった。
それはもちろん、二人の頭上に見える『寿命残:36時間』のせいだ。
今は昼の一時。となると、明日の夜中に二人は死ぬ、ということになる。でも、どうして……? 見たところ病気ということも無さそうだ。だた、後は二人同時に同じ時刻で死ぬ、というのが気になる。
「(もしかして事故か? でも、夜中に外に出るとは思えない……)」
そう考えるともう答えは一つしかない。そう、誰かに殺される、ということなのだろう。しかし、この人の良い親子がどうしてそういう事になるのか、という答えは出ない。俺は思い切って二人に聞いてみる事にした。
「どうしたの? あんまり寿命が長くてびっくりしたとか?」
「あーそのことなんだが悪い、その前にちょっとだけいいか?」
「? どうしたの?」
「変な事を聞くが……二人は誰かに恨みを買う心当たりとか無いか?」
俺の言葉を聞いた二人は目を丸くして沈黙する。だけどすぐに笑いながら答えてくれた。
「えー? 恨み? うーん……私は心当たりがないかな。お母さんは?」
「私もないわねぇ。どうしてそんな事を?」
心当たりは無し、か。まあ、心当たりがあればもっとおどおどしながら暮らしていてもおかしくないし、仕方ないか。さて、ここで俺の選択肢は二つ。『生命の終焉』を二人に話すか、俺のスキルの不具合のせいだと思い、二人に謝って笑い話で終わらせるのか。
俺は……
「気を悪くしないで欲しいんだけど、二人の寿命は……残り……」
◆ ◇ ◆
「え? 居ない?」
「ええ、今朝から姿が見えなくて……奥様を亡くされてから私が頼まれて家の掃除をしているんですけど、今日は来たときから……家を開けっ放しは良くないと思って待ってるんだけどねえ」
と、話すのは四十代くらいのおばさんだ。夕方に近くなった頃、俺はアンリエッタの家を後にして、村長さんの家を訪ねていた。
ちなみに二人には通常生きるであろう数字を伝えておいた。現時点で寿命36時間が確定であれば、伝えても伝えなくても同じのような気がしたからだ。自衛できるかもしれないが、不安な気分で過ごすよりはと考えた末の結論だった。
……リンゴのお金は返した、お礼も受け取った。このままさよならでも問題は無い……が、アンリエッタには世話になったし、何より知った顔が寿命以外死ぬというのが分かっておきながら何もしないという選択肢は俺には無かった。
で、村長なら何か知らないかと思い尋ねてみたがこの通り留守だったというわけだ。
「なら大丈夫です。すいません、お忙しい所」
おばさんは見つけたら帰るように伝えてと言われたので、頷いてから村を後にした。今日の寝床はユニオンを頼るとしよう。
「あれ? カケルさん、どうしたんですか?」
受付には相変わらずミルコットさんが座っており、俺を見て声をかけてくれた。二日くらいのことだけど異世界で顔見知りができたのは心強い。
「えっと、寝床を貸してほしいんだ。一日500セラだったよな?」
「ええ、大丈夫ですよ! まあ五日で6,000セラは今のカケルさんには辛いでしょうしね。でもてっきりアンリエッタさんの家に泊まるのかと思ってました」
「流石に女性二人の家に厄介になるのはなあ……」
「ふふ、お優しいんですね。普通の冒険者ならフォレストボアを倒したってことで泊まろうとしますけどね、あわよくば『へっへっへ、お嬢ちゃんこっちにおいで』『ああ! いや!』憐れ、アンリエッタちゃんは男の毒牙にかかってしまうのでした……!」
「『でした』じゃないよ、生々しいな!?」
変な演技でミルコットさんが嫌らしい目をしながら口元に手を置いてププっと笑う。
「まあ、滅多にありませんけど、ここみたいな田舎だと自分が偉いと思ってしまう冒険者もいるってことです。それじゃ、お部屋に案内しますね」
「ったく……」
俺はミルコットさんに案内され、大部屋へと案内される。運がいいのか悪いのか、誰も使っている人が居ないので結構な広さの部屋を俺一人で使う事になるらしい。
「多分しばらく他の人は来ないと思いますので好きに使っていいですよ。ユニオンにはシャワーしかないので、お風呂は外の公衆浴場を使ってください」
それじゃ、とミルコットさんが出て行き、俺は一人になる。いえーい! 大部屋だ! というテンションにはならず、悲しい日本人の性により端っこに布団を敷いて同じく端っこに何枚もある仕切りを使って一人部屋のようにして横になる。
「……結局、村長さんは居なかったな。それに気になる事もある……」
俺がフォレストボアを倒した時にどこかで声がした気がしたけど、もしかしたらあのフォレストボアは作為的に出現したのではないかと俺は思いはじめている。
アンリエッタ達の寿命、果樹園が一番荒らされる、ということであの果樹園には何かあるかのように繋がりがあるのだ。畑はたまたま荒らされたのかもしれない。
となると裏で糸を操っている人間が居るはずで、とりあえず今の所怪しいのは姿の見えない村長だ。
しかし依頼をするのと、金を渋ったという件が思い当たるも『何故?』という点については答えが出ない。
「残り28時間、か」
俺は彼女達の寿命を知り、残りの命は残り28時間……いや、もう27時間か。決まってしまっている事を覆すことができるのだろうか?
くそ……どうやって死ぬかも分からない、助ける方法も分からない、そもそも寿命が決まった後で助ける事ができるのかもだ! ……ふざけたスキルめ、俺にどうしろって言うんだ?
……いや、腐っても仕方がない。とりあえずできそうな事を考えてみるか……。
俺は案を考えながら寝転がっていると、いつのまにやら眠りについていた。
◆ ◇ ◆
コンコン……
「どうぞ」
「ワシじゃ」
訪ねてきた相手を招き入れると、腰に剣を差した男が壁に背を預けて入ってきた男に声をかける。暗くて顔は見えないが、剣を差した男は来客が誰か分かっているようだった。
「あんたがここに来たということは腹が決まった、ってぇことか?」
「……うむ、まさかフォレストボアが倒されるとは思わなかった……」
「フォレストボア程度は俺達くらいのレベルなら倒せなくはないから不思議じゃないぞ」
「それはそうじゃ。じゃが、そもそも3000セラという金額で依頼を受ける冒険者がいたのが驚愕じゃった。見慣れない顔をしておったが、大して強そうでもなかったから無視したのじゃが」
「……見慣れないってあんまりいうな、気分が悪くなる。じゃあ、果樹園の家を?」
「ああ、母親と娘が住んでいる。始末してくれて構わん」
「勿体ねぇな。何でまたそんなことをするのかねぇ?」
「この前、村で話した通り詮索はするなと言ったはずじゃ。そうじゃな……夜中の一時なら誰も起きてはおるまい」
「殺した後は村はずれであんたに金を貰ってそのまま別の町へ行く、だったな」
「まあ俺達の顔は見られているが、証拠は残らんから追われることも無いだろう。二人で二十万セラ、あるんだろうな?」
「当然じゃ……しかしここで金をみせてワシが殺されたらたまらんから持ってきてはおらんが、ちゃんと払おう。あの果樹園が手に入ればすぐに回収できる」
「OK、交渉成立だ」
「へへ、母親と娘ねえ……」
椅子に座っていた男が腰からダガーを抜き、ぺろりと刃を舐めた。
ランタンに照らされたその顔は、カケルが町で絡まれたあの二人組だった。
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