第二百六話 夢で逢いましょう


 「今、一瞬ビクってなりましたよ!」


 「ティリアさんは光の勇者の力を送り込んでみて。私達はみんなで呼びかけるのよ、動いていない今がチャンス!」


 「わ、分かりました。え、えい!」


 ティリアがぺちぺちと頬をカケルの頬を叩き、目を覚まさせようと奮闘する。それを見て芙蓉が声をあげた。


 「そんな程度じゃダメよ。これくらいしないと! 起きなさいカケルさーん!!」


 べちーん!


 「ああ!? また鼻血が……折角拭いたのに……」


 首がちぎれんばかりの勢いで頬をぶった芙蓉。エリンが悲しそうな顔をしている横で、ナルレアが口を開く。


 <これは……いけない、皆さん離れて!>


 「なんだ!?」


 カケルの近くに来たので、元の姿に戻っているナルレアがカケルの傍で呼びかけていたウェスティリア、芙蓉、クロウをの首根っこを強引に引っ張り引きはがす。直後、カケルが魔力を放出しながら勢いよく立ちあがった。


 「がぁぁぁぁぁ!!」


 「この殺気は――!?」


 ドゴォォォン!!


 グランツがカケルに突進し、体当たりを仕掛けるとカケルが放った魔法で家の屋根が吹き飛んだ!


 「あぶな!? やっぱりダメなの!」


 「ジャマ、スル、コロ、ス。 ……!?」


 芙蓉が叫んだあと、カケルの動きが少しだけ止まり、カケルの口がパクパクと動き出す。


 <ね、姉さま! カケル様の意識が沈んでいきます! こ、このままだと還って来れないかも――>


 <ミニレア! 無事だったのですね!>


 <は、はい、カケル様に助けてもらったんですけど、その後すぐにカケル様のお姉さんが……あ、や、やめて!>


 小さく呻いた後、ミニレアの声が聞こえなくなり、ナルレアが焦りを見せる。


 <ミニレア!? 芙蓉様、ティリア様。私は一度カケル様の中へ戻ります! 体は放置していただいて構いません!>


 「あ、ちょっとナルレアさん!」


 「カケルさん、しっかり! 気を持ってください!」


 ウェスティリアが声をかけるが、それよりも早く、ナルレアの義体は抜け殻となってしまう。そしてグランツが動きの止まったカケルへ呼びかけたその時だった。


 「ね、ねえちゃん……お、オレは……グォォォ……!」


 バッ!


 「あ! に、逃げる! 待て!」


 頭を抱えて穴の開いた屋根から飛び出すカケル。それを追ってクロウが家から飛び出した。


 「私も行きます!」


 ウェスティリアは空を飛んで屋根の穴から外へ出る。そしてグランツ達もクロウに続いて出て行き、その場にはリンデだけが残された。


 「な、何なの……一体……」


 


 外に出ると、カケルは苦しみながら村の外を目指していた。まだ足取りは重いため、クロウが追いつき前に回り込む。


 「カケル!」


 「グゥゥゥ……オッテ……クルナ……クロウ……」


 「……! 僕の名前を! おい、分かるのか僕が!」


 「ガア!」


 「危ない!」


 ブオン!


 名前を呼ばれたクロウが近づいた瞬間、カケルの拳がクロウへ飛ぶ。寸でのところをウェスティリアに持ち上げられて回避できた。


 「くっ……ダメか、呼びかけるにしてもこう暴れられたらこっちが危ないぞ……」


 「ですね。ナルレアさんが何とかしてくれるといいんですけど……」


 「グ、グ……ソレヲ、イタダク……」


 「何です……?」


 カケルがウェスティリアを見て呟いた瞬間、カケルの背にウェスティリアと同じ羽が生えていた。


 「嘘!?」


 追いついて来た芙蓉が驚きの声をあげると、カケルは空に浮かび上がる。


 まずい、と思ったウェスティリアとエリンが攻撃を仕掛けた。


 「逃げる!? ≪光撃の戦槍≫!」


 「ごめんねカケルさん! 『アームブレイク』!」


 「グアアアアア!? ツキシマ……コロス……」


 ウェスティリアの槍が足に。エリンの矢が両肩に突き刺さり悲鳴を上げるカケル。


 だが、一瞬怯んだものの、カケルは踵を返してものすごい速度で北へ飛び去って行った――


 「速っ……!?」


 「まずいわ、あれじゃすぐにあいつのところへ行っちゃう! すぐ追うわよ!」


 「はい! 馬車を回してきます!」



 「(お姉さん……カケルさんの? そういえば居たって聞いたことがあるけど、それがどうしてカケルさんの中に……? ナルレアさん、どうか無事で……)」


 カケルが逃げて行った空を見ながら、芙蓉は胸中で呟くのだった。



 



 ◆ ◇ ◆






 <暗い……>


 ナルレアはカケルの中へ戻り、ミニレアを探していた。カケルが黒い何かと話していた時やナルレアがオペレーターとしていたころと違い、辺り一面闇の世界だった。


 <右も左も分かりませんね。お姉さんというのも気になりますが、まずはミニレアを探さないと。とりあえずカケル様に意識が無ければ私が主導権を取れるはずですし、一度試してみましょうか>


 ナルレアが目を瞑って確認すると、いつものようにスキル構成やパラメータを思い描くことが出来た。しかし、肝心の中枢へはアクセスができないような状態だった。


 <……ダメですか。仕方ありません、ここは足で稼ぎましょう>


 再び闇の中を歩き出すナルレア。


 どれくらい歩いただろうか、闇に眼が慣れるということもなく、ひたすら前へ進んでいると、やがて一筋の光が見えてきた。


 <……>


 怪しい。


 だが、手がかりはまるでないため、ナルレアは光へと向かう。


 <(ここは……?)>


 いきなり中に入る愚行はせず、チラリと隙間から覗くと、衝撃の光景を目にした。




 「姉ちゃん、飯、まだかい? 俺もう腹減って死にそう……」


 「もうちょっとよーミニレアちゃんももう少し待ってね」


 <はいです! 私、ご飯を食べるの楽しみです!>


 「おお、そうか。姉ちゃんの料理は俺より美味いからなー。きっと気にいると思うぞ」


 <えへへ、楽しみー! ……カケル様、ご飯が終わったら、その、一緒にお風呂に入ってください!>


 「お、いいぞ。甘えん坊だな、ミニレアは」


 <それでそれで、お布団に入って、えっちなことをしてください!>


 「ははは、いいぞ――」


 <よくありませんよカケル様!? 素っ裸のミニレアを膝に置いて肯定したら、事案! 事案ですよもう!>


 途中までほんわか家族タイムのノリのようだと思って聞いていたが、ミニレアのセリフが段々怪しくなってきたのでナルレアはワンルームのようなその場所へ乗りこんで行った。


 だが――


 <!? カケル様とミニレア……目が虚ろですね……しっかりしてください二人とも! カケル様は小さい子じゃなくて、メリーヌ様のようなおっぱいが好きだったはずでしょう! ミニレアもそんな言葉どこで覚えたんですか!>


 ナルレアがカケルの性癖を口にしながら二人を揺らして見るが、カクンカクンと首が揺れるばかりで、反応は無かった。すると、背後で先程奥から聞こえてきた女性の声がした。


 「無駄よ。その二人はもう私以外の声に反応することは無いわ」


 「姉ちゃん、やっとできたのか」

 

 カケルが虚ろな目でその人物に声をかけるのを見て、ナルレアはゆっくりと振り返った。


 <あなたは……>


 「初めまして。私は逢夢。カケルの姉よ。貴女が近づいてきているのは分かっていたわ。だからカケルとミニレアちゃんに小芝居をさせてみたの。きっとツッコむと思っていたけど……まんまと引っかかったわね」


 <くっ……卑怯な……!>


 「フフフ、本番はこれからよ?」


 ぞる……


 <……!? これは!?>


 ナルレアが入ってきた隙間から無数の手が現れ、ナルレアを拘束した――

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