第九十八話 反撃の一手

 


 ――カケルが国王の元へ向かう少し前、クリューゲルもイグニスタと激戦を繰り広げていた。一対一ならクリューゲルの方がドラゴンも腕も上。しかし、イグニスタに与する者達は数も多く、打開するのに苦労していた。


 「少し残しておくべきだったか?」


 クリューゲルが敵対しない竜の騎士を下げさせたが、何人か残して相対すればよかったと零す。その言葉を聞きながらイグニスタが襲いかかってくる!


 「今さら後悔しても遅いぜ! はあ!」


 「これで俺達も給料アップだ! でやあ!」


 騎士と共に両側から槍で突いてくる。騎士の攻撃は躱すだけにとどめ、イグニスタ相手にはカウンター気味に槍を出して牽制をすると、慌てて槍を引っ込め、一度高く舞い上がった。


 「まったく動じた様子が無いな……さすがは大隊長、か」


 「お前では俺に勝てん。大人しく道を開けて逃げ帰れ、そうすれば命は助けてやろう」


 ホバリングしながらイグニスタと同じ高さへ上がり、槍を差して警告する。


 「馬鹿なことを。ここまでしておいておめおめと逃げ帰るわけにはいかないんだよ! お前達、一斉にかかれ!」


 「警告はしたぞ?」


 ザァ……と、竜の騎士がクリューゲルを囲み、一斉に襲いかかってくる。通常ならお互いぶつかって墜落するが、そこは訓練された騎士。ギリギリの線ですれ違っていた。


 「やるな! しかし!」


 二度、三度と同じことをされればすぐにばれる。クリューゲルは四回目のアタックの際、ドラゴンの首を二回叩き、合図を送る。


 「ゴガァァァァァァァ!」


 「うわ!? な、なんだ!?」


 騎士が怯むと、ワイバーンも怯み、飛行がヘロヘロと情けない動きになる。咆哮に驚き、恐慌状態になったのだ。


 「ふん!」


 ギィェア!?


 「たあああ!」


 「うわわ!?」


 一気に二体、ワイバーンを落とすクリューゲル。引き続き落とそうと構えなおしたら、残りのワイバーン達がこぞって襲ってきた。


 「何!? 無茶な!?」


 「あんたを止めるにはこれくらいは必要だ! イグニスタ隊長、今です!」


 動きを封じられたクリューゲルに向かってイグニスタが舌なめずりをして襲いかかる。


 「はっはっは! その拘束状態なら動けまい! その首をもらう!」


 「ぐ……! うごけぇぇぇ!」


 「遅い!」


 死にはしないがこれを受ければダメージが大きい。そう思い身をよじっていると、衝撃的な事件が起きた!


 「死ね……!」


 ドカァン!


 「え!? なんだと!?」


 ギョェー!?


 イグニスタの背中に、カケルが放った炎弾が直撃したのだ! バランスを崩したイグニスタの槍はクリューゲルの兜を弾き飛ばし、その音に驚いたワイバーンが暴れ、さらにバランスを崩す。


 「カケルの魔法か? ……今だ! 『秘技 ストームレモラーゼ』!!」


 「あ!? ぐあ……ぐあああああああ!?」


 突き、切り上げ、切り下げ、横薙ぎ、袈裟がけを高速で行い、イグニスタの鎧がバラバラになり、パンツ一枚になる。


 「操られていた訳ではなさそうだが、お前の罪は重い。後で覚悟しておくんだな!」


 ドシュ!


 「ぎゃああああ……」


 肩を貫かれ、ワイバーンと共に落下して行くイグニスタ。


 それを見届けたた後、クリューゲルは残った騎士を一瞥しながら口を開く。


 「まだ、やるか?」


 「う……」


 気迫に押され、たじろぐ竜の騎士達。やがて槍を下げてから言った。


 「……と、投降す……します……」


 「いい判断だ。動くなよ? 捕縛させてもらう」


 クリューゲルはイグニスタに与していない騎士に指示を出し、反逆者を捕縛することに成功した。


 「(無駄な時間をくった……剣の女性と魔法使いは問題なさそうだ。そうだ、助けてくれたカケルは)」


 と、左側の戦いを見ると、ウェスティリアが空を翔けているのみだった。


 「あいつ国王の所に乗り込んで行ったのか!? 得体のしれないやつも一緒だというのに無茶なことを……! サンデイ、全速力だ! 赤いドラゴン……ウェンズディのとこまでだ!」


 「グルオォォォォン」


 サンデイが一声鳴くと、ホバリングの態勢から飛行するための態勢へと変え、加速し出した。


 「異種族を排除するなどと言っていたようだが、計画が雑すぎる。本当の狙いはなんだ……?」


 こちらの動きを察知してから、ここに至るまでの動きは相当速いとクリューゲルは感じていた。だが、蓋を開けてみればエルフに攻撃を仕掛けるにはあまりにも適当過ぎる。なまじ結界を破る手段があったとしても、下から矢で射られればこちらが不利だからだ。


 「あの連中に直接聞くしかないか、急ぐぞサンデイ」


 「ガオウオウン!」



 ◆ ◇ ◆




 【ガオウ!(旦那! すまねぇ、加勢は難しい!)】


 「気にするな! 俺が落ちそうになったら助けてくれりゃあいい!」


 「誰と話してるんだい? 僕達はこっちだよ!」


 ギャリン! ガリガリガリ……!


 二つあるチャクラムを器用に操り、一つで俺の槍を、もう一つを投擲してブーメランのように俺の死角から攻撃を仕掛けてくる。チャクラムなんて面白しろ武器だと思っていたが、とんでもなくやりづらい。魔力で操作しているのか、的確に俺の身体を斬り裂いていく。

 後、ファライディは他の騎士からの攻撃を避けるため、休まず飛行を続けている。足を止めたらやられるので俺がそう指示した。この赤いドラゴンの背はでかいのでそれなりに足場が確保できているせいだが問題は……


 「……!」


 ブオン!


 「何の!」


 「あはは、やるね! さて、怪我を負った体で。国王と僕相手にどこまでやれるか試そうか!」


 「アホが吠えるな≪ハイヒール≫」


 俺が傷を回復させていると、黒ローブがボソリと面白くなさそうに呟いた。


 「……へえ、回復魔法を使えるんだ。戦士系だと思ったけど、油断したね。回復できないよう喉から潰すか」


 物騒な奴だと思いつつ、俺は突きを黒ローブに放つが、国王が前に出てきてそれをガードする。その後ろからチャクラムを飛ばし、俺を攻撃してくる。


 「頼む、目を覚ましてくれ!」


 「……」


 ガッ! ガキン!


 「うわわ!?」


 【ガウ!(旦那!)】


 『力』をそれなりに上げているけど、押し負け、俺はドラゴンの背から落される。だが、ファライディがスッと飛んできて俺はその背に落ち、再び赤いドラゴンより上へと上昇する。


 「落ちないか。あのドラゴンは厄介だね」


 俺が地上に叩きつけられないのを不満げに口にし、俺にチャクラムを投げつけて来るが、それを槍で弾き返しながら観察を続ける。


 「……国王の攻撃は大剣に重さがあるから受けきれないな……。それにあの目はやっぱり正気じゃない。必ず操られている原因があるはずだけど……≪炎弾≫!」


 赤いドラゴンの周りを飛びながら、俺は黒のローブに牽制で魔法を放つ。


 「あはは! もう来ないのかい?」


 「やかましい! そのフードを取っ払って顔を拝んでやるから待ってろ!」


 すると、攻撃対象が居なくなりボーっと突っ立っている国王がボソリと呟いた。


 「……む、蟲……」


 「蟲? どういう……?」 


 「国王、余計なことを言うんじゃない。僕の言うことだけ聞いていればいい! もう遊びはやめだ、そのドラゴンから始末してあげるよ! ≪漆黒の刃≫」


 ブワン!


 黒ローブの手から黒い三日月形のもやが飛んでくる! あれはヤバイ気がする!


 「ファライディ! 急降下!」


 【ガウル!?(うへえ!?)】


 「避けた!?」


 黒ローブが初めて驚愕の声をあげたのを聞き、ざまあみろという気持ちになる。それはともかく国王は蟲と言った、それが何を意味するのか、つまるところは一つ、それが国王を操っているものの正体だ!


 「あれか!」


 降下しながら国王の背中側を見ると、首の後ろに蜘蛛のようで、サソリにも見える何かがくっつきいていた。あれを潰せば正気に返るか!?


 「だからと言ってそう簡単にやらせると思うかい? くらいなよ! そして≪漆黒の刃≫!」


 「くっ!?」


 【ギャア!?(痛い!? 翼が……!)】


 「どうした!? あ!」


 俺がチャクラムを弾き返している間に、漆黒の刃がファライディの翼を斬り裂いたらしく、紙一重のところでぶらさがっている状態だった。


 【グウウ……(すいません……これじゃ飛べねぇや……つう!)】


 「あははは! さよならだよ!」


 上から黒ローブの声が響き、落下を始めたファライディ。俺は斬れた羽の方へ這いながら向かい、傷口と傷口をくっつける。


 【ウギャ!?(だ、旦那!? 何を?)】


 「すまん、ちょっと我慢しててくれ! ≪ハイヒール≫!」


 「あはは、あいつハイヒールを使ってるよ! 千切れかけた翼は欠損と変わらないのに無駄なこと……え!?」


 俺のハイヒールを受けたファライディの翼は何事も無かったかのようにくっつき、涙目だったファライディが元気よく羽ばたいた!


 【グルル!(うっそ! 痛くもなんともない! 旦那、あんたすげぇんだな!)】


 「褒めるのは後だ! 国王の所へ!」


 【ガウ!(がってん!)】


 「ば、馬鹿な!? あれは何だ!? 人間で言うなら切断された腕をくっつけたようなもんだぞ!? 常軌を逸している! 伝説の魔法≪神の息吹≫だとでもいうのか!?」


 何か良く分からんが黒ローブが慌てふためいているので、今の内に!


 「もらった!」


 「ハッ!? させないよ!」


 国王の後ろ首を狙って槍を出すが、黒ローブがそれを阻止してきた。そのまま俺の槍を掴んで離さない。


 「離せこの!」


 「驚いたけど、今はそれどころじゃない……国王! こいつを倒せ! 生け捕りにして洗脳だ」


 「避けられない!?」


 【ガオウ!(旦那!)】


 すぐに槍を捨てて回避すれば良かったが、その考えがすぐに出なかった。殺す気は無さそうだがあれで頭を殴られたら大ケガは免れない。


 「……!」




 俺が目を瞑って歯を食いしばると、空から声が聞こえてきた。

 


  

 「おっと! そうはさせませんよハインツ王!」


 ガキィン!


 「クリューゲル!」


 「苦戦中のようだな」


 「そういうのいいから早く助けてくれ!」


 「あ、ああ……!」


 「チッ」


 国王の剣を弾き、俺の激昂を受けて、クリューゲルはそのまま黒ローブに攻撃をすると、俺の槍を離して下がる。


 「ふう、助かった」


 「頑張りすぎだ……黒ローブを倒せば終わりそうか?」


 「いや、国王の首の後ろに蟲がついていて、それが操りの正体らしい。だからそいつを潰せば9割方勝ちだ。任せていいか?」

 

 「なら黒ローブは任せるぞ」


 「ああ。さて、この赤いドラゴンの背はでかいけど四人はちょっと多いか。……付き合ってもらうぞ!」


 「は!?」


 俺は『速』を上げて黒ローブに体当たりを仕掛ける。急に来ると思っていなかったのだろう、俺と黒ローブは空中に投げ出される。


 「ば、馬鹿かお前は!? このままじゃ僕達は地上に……」


 と、黒ローブが叫んだ時、ファライディの背にドスンと着地する。


 【ガオウ……(無茶する旦那だ……あっしが気付かなかったらどうするつもりだったんですかい……)】

 

 「……なるほど、ドラゴンか。よく言うことを聞くみたいだけど、君も竜の騎士かい?」


 「そいつにはノーコメントだ。で、これで一対一だ。最終ラウンドと行くぜ?」


 さっきの慌てぶりを見るに、こいつはティリアのように空を飛べないことが分かった。ファライディに高度を上げてもらい、ファライディを攻撃できないようにすればもう逃げられない。これで終わりにさせてもらう!

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