第九十七話 空中戦
「な、何だと!?」
バウムが驚愕の顔で空を見上げると、薄い膜のように張られていた結界が徐々に消えていき、やがて完全に集落がむき出しとなる。
「お父さん!」
近づいてきた竜の騎士達を、ユリムが弓で牽制しながらバウムへと叫ぶ。その声に反応し、バウムが武器を手に取って味方へと鼓舞を始めた。
「どういう原理か分からんが結界が破られたようだ! だが、相手は空からの攻撃しかできん。確実にワイバーンを落とせ! 近接のタイミングを誤るな」
おおおお! と、戦いに参加するエルフ達が叫び、散っていく。
「(数は集落全部の戦えるエルフを投入して五分くらいか。空から攻撃を仕掛けるには森は戦いにくい。何故こんな真似を? 森での戦闘になれば槍は確かに有用ではあるが……)」
「あの赤い竜、あれが本命じゃない?」
バウムが色々疑問を頭で考えていると、ユリムが目を細めて近づいてくるワイバーンとは違う竜を目にしていた。
「国王専用のドラゴンだな、まさか前線に出ているとは、ますます解せん。とりあえずまずは向かってくる敵を落とせ、あれは私が何とかしよう」
「了解!」
バウムはユリムの声を聞きながら、ゆっくりと大型の弓を構えた。
◆ ◇ ◆
「やったか?」
「何体か落ちていきますね、このまま続けましょう」
ティリアによる光の目くらましで、ワイバーンと騎士が落ちていきこちらを敵とみなした騎士が旋回しながらこちらに向かってくるのが見えた。
「ファライディ、近づけるか? ワイバーンの翼を傷つければ逃げてくれるだろ」
【ガウル!(向かってくるヤツでいいですかね!)】
「それでいい!」
グン、と、ファライディが力を込め、加速する。前には二体のワイバーンが突撃をかけてくる!
「貴様、何者だ! 我が国のブリーズドラゴンに乗るとは不遜なヤツめ!」
「悪いな、元あんたらの上司に借りたんだ。ちゃんと無傷で返すぞ」
「上司……? まさかクリューゲル大隊長か!? ええい……情報が少ない、とりあえず止めてから聞かせてもらうぞ」
「国王に用事があるんだ、それはできない相談だ! ティリア!」
「はい! ≪光の槍≫!」
ティリアに一体任せて、俺はもう一体のワイバーンに……飛び移った!
「な!? 正気か貴様!? あのスピードで……ええい、ならば落ちろ」
「ん? そんなでもないと思うけどな?」
ワイバーンに乗った騎士の槍を避けつつ、足、肩と俺は打ち貫いていく。『速』はそれなりに上げているので、乗り移れないと言った恐怖は無く、最悪ファライディを呼べば回収してくれるだろうと思っていたふしもある。
「ぐあ!? こ、こいつ……!?」
「レベルは普通くらいか? とりあえず寝てろ!」
ガツン! と、槍……テンペスト・コールをすれ違い様に後頭部へ叩きつけ昏倒させ、俺はワイバーンの翼を串刺しにする。
ギョェェェェ!?
「後で治してやるから許せよ? ご主人様をゆっくり降ろしてやれ。ファライディ!」
【グルウ!(へいへい、今行きますよっと!)】
俺が降下していくワイバーンの背から見上げて叫ぶと、ちょうどティリアがもう一体のワイバーンの翼に穴を空けたところだった。
「サンキュー!」
「簡単に乗りこなすくらいなら分かりますけど、完全に意思疎通できてますね……」
言葉が分かるのを信じていなかったようだが、呆れながら微笑むところをみると納得してくれたらしい。
「ま、それは副産物だからいいとして……クリューゲルは行ったか?」
「いえ、あそこを」
ティリアが指を指す方向を見ると、数体の騎士達に囲まれているのを確認する。その内一人は他と違う鎧を纏っているな。
【ガオウ(ありゃいけすかねぇイグニスタの野郎でさあ。援護へ行きますか?)】
「……いや、あれは任せた方がいいな。俺達で国王へ向かおう。ファライディ、目標はあの赤いドラゴンだ」
【ガウウ!?(マジですか!? クリューゲルの旦那が行ってくれると思ったのに……)】
あの赤いドラゴンはファライディでも萎縮するくらいの強敵のようだ。でも、クリューゲルの戦闘に手を出すと乱戦に巻き込まれかねないし、それ以前に俺達のやることは国王と黒ローブを止める方が先だ。こうなったら動ける人間がやるしかない。そう思っているとまた騎士がつっかかってくる。
「この野郎!」
「でえい! ナルレア『力』!」
<はーい>
チン! と槍が交錯したところで、俺は『力』を上げてもらい槍を絡めたままぐりん、とテコの要領で騎士の槍を弾くとワイバーンの上でよろけた。
「ファライディ、後ろに回り込んでくれ!」
【ガオオン(あいあいさー)】
軽く返事をすると、ジェットコースターのループのような動きで一回転し、相手の後ろにつく。こいつ、賢いな。
「んな!? そんな動き……!?」
騎士があんぐりと口をあけてボーっとしている内に、ドスっと翼に穴を開け、ワイバーンと騎士が失速していくのを見届けることなく、俺は次の敵へと目を向ける。
「流石に多いな!?」
「≪流星光≫! でも、リファとルルカも頑張ってくれています!」
ティリアの魔法で向かってくる敵を足止めし、俺も魔法と槍で落としていく。
向こう側で小さく見えるリファは、片手で手綱、片手で剣を持ち、すれ違い様に騎士かワイバーンを斬っていく戦い方をしていた。
「はあああ! さあいくらでも来い! 私が叩き落としてやる!」
「無茶しないでよ? ≪風の刃≫!」
ルルカは四方からくる敵を魔法で追い払うのが役割のようだ。慣れない戦闘であるせいか、リファは傷を負っているようで、防具のない二の腕から血が流れていた。
「剣でよくやるな、リファ……」
「剣騎士でしかもレベルは32ですからね。少し戦いにくいでしょうけど、死ぬことは無いでしょう」
「信頼しているんだな」
「ええ、子供の頃からの友達ですもの。さ、それじゃここは私に任せて国王の元へ」
「え? お前は?」
俺が聞くと、ティリアはふわっと空を飛びファライディから降りた。
「私は温存していた魔力がありますから、足止めをします。カケルさんだけなら全力で飛べるでしょう?」
「しかし……」
女の子を一人残すのは気が引ける。そう思っていると、ティリアが困った顔をして言う。
「大丈夫、心配してくれるのは嬉しいですが、私は魔王ですよ? 負けると思いますか? それは魔王に失礼ですよ、ぷんぷん」
頬を膨らませるティリアは多分冗談を言いたかったのだろう。口でぷんぷん言うのと、その顔は可愛いだけだった。
「オッケー、なら頼んだ! 行くぞ、ファライディ! ケガしたらちゃんと治してやるからな!」
【ガォォォン!(そうなりたくないですがね……ああ、女の子がいなくなっちまった……)】
「生き残ってまた乗せりゃいいだろ?」
【ガウ(仕方ありませんや。しっかり掴まっててくだせえよ!)】
バサ……! 今まで違い、大きく羽ばたくと空気が変わった。俺は槍を片手に身をかがめて前を見る。
「っと、その前に置き土産だ! ≪炎弾≫!」
俺はクリューゲルと戦っている、青い鎧を着た騎士に魔法を放つ。当たればラッキーってところか。クリューゲルに当たったら……すまん……!
その直後、グンと体が引っ張られる。ファライディが加速したのだ。
「う、お、お、お、お……!」
何とか目を細めて前を見つつ、目の前の敵を蹴散らしながら俺は赤いドラゴンを目指す。後少し、そう思った時赤いドラゴンに隣接していたワイバーンの首が飛んだ。そして、首が飛んだワイバーンに乗ていたであろう騎士が落下し……
「……結界が、消えた!? あの黒ローブ、何をしやがった!?」
遠目からだったが、黒いローブが何かをしたような感じがした。
【……グルウ(……嫌な感じがしますぜ)】
「それでも行くしかない」
赤いドラゴンが降下を始めようとしたその時、俺達はすぐ後ろにつくことに成功した!
「……ん? そのドラゴンは、味方じゃないね? 僕達に何の用かな?」
「挨拶は無しだ、国王はここで止めさせてもらう」
「……ふーん、国王とエルフの魔王を戦わせて楽しもうと思ったのに邪魔をするんだね?」
「そっちの都合は知ったことか、お前が黒幕だな? くらえ!」
ガキン!
俺が黒のローブへ攻撃を仕掛けると、すぐに国王が反応して攻撃を受け止めた。これは大剣か? すごい力だ……!
「おや、君も中々強そうじゃないか! 少し遊んであげるよ!」
「!?」
楽しげな声で鍔迫り合いをしている俺に、黒のローブが何かを投げつけてくる。
「チィ!」
それを回避し、ファライディと共に国王から少し離れるが、嫌な予感がし、咄嗟に身をよじると、腕に激痛を受けた。
「う!?」
「おっと、腕だけ? 背中くらいはやれると思ったけど、やるね」
パシっと黒のローブが何かを空中で掴み、指先でくるくると回す。あれは、チャクラムとか言う武器だったっけ? この世界にもあるのか……。
「さて、ハインツ国王。逆賊退治と行こうか? 周りの騎士はエルフ達を攻撃するんだ!」
騎士達と国王に指示をするってことはやっぱり国王は操られているだけか。ありがたい、ならこいつを倒せば全てが終わる!
「逆賊はお前だろ、黒ローブ。お前はここで倒す」
「……あはは! いいね、かっこいいよ君!」
「うおお!」
ファライディの背から飛び、俺は黒のローブへと攻撃を仕掛けた!
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